「人を見る目」は鍛えられる?人材のプロが教える「人を選ぶ技術」の神髄

2023年8月2日(水)5時0分 JBpress

 本連載は、グローバルなヘッドハンティング会社で、100社以上、5000人を超える年収2000万円以上の人を見てきた人材の超プロフェッショナルが、その門外不出のノウハウを初めて体系化した書籍『経営×人材の超プロが教える 人を選ぶ技術』(小野 壮彦著/フォレスト出版)から一部を抜粋・再編集してお届けする。

 初回となる本稿では、人を見極めるためのフレームワーク(型)となる、人材を構成する「4つの階層」について解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 人を構成する「4つの階層」を理解すれば、人を見る力は桁違いに向上する(今回)
■第2回 人の「ポテンシャル」を構成する4つの因子
■第3回 天才起業家たちを駆り立てる「エネルギーの源」の正体とは

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人は「4つの階層」で構成されている

 人と会うとき、相手を見抜こうとするとき、ぼくらはどうすればよいのだろうか。どうやって「人を見る」という力を磨くのか。鍛えるのか。これまで述べてきたように、ほとんどの方は、この分野において、きちんと教育・トレーニングを受けていないはずだ。そのような場合、やみくもに動いても結果はついてこないだろう。そこで、まずはある程度の「型」を体に入れておくことが近道となる

 空手や剣道などの武術と似ているかもしれないが、最初に「フレームワーク(骨格、枠組みであり、構造)」を自分の中に取り込んでしまうのである。人を見るための思考の枠組みとなるフレームワークを持ってはじめて、なりゆき任せではない、意志を込めた試行錯誤が可能となり、習得が進むのである。

 スポーツ経験者ならわかるだろう。筋肉トレーニングも、やみくもに回数をこなすだけでは効果が出ない。正しいフォームと適切な負荷で、どの部位の筋肉を動かすかを意識し、意志を込めたルーティンをコツコツとやり切ることがコツだ。日々のトレーニングにセンスは要らない。全くそれと同じだと考えていただきたい。

 さて、ここからは、世界最先端のトップファームで磨かれてきた秘伝の知恵を初公開する。ひとつひとつ丁寧にみなさんに紹介していきたい。人を見るためのフレームワーク。それは次の通りだ。

 いかがだろうか。人を見るにあたっては、人間を建築物のように、階層として捉えてみてほしい。イメージは地下深くにつくられた建物だ。地上1階が「経験・知識・スキル」、地下1階が「コンピテンシー」、地下2階が「ポテンシャル」、そしてもっとも最下層の地下3階が「ソース・オブ・エナジー」だ。

 1階が表に出ていて、地下1階、地下2階、地下3階へと深く掘り下がっていく。そんな建物はなかなか世の中に存在しないと思うが、想像力を働かせていただきたい。ぼくのイメージはパリのルーブル博物館にある、ルーブル・ピラミッド。表は三面のガラスのピラミッドだが、実は地下には広大なスペースが広がっている。

 もう少し近いイメージがないものか調べてみたら、メキシコの建築家エステバン・スアレス氏が2011年にデザインした、逆ピラミッド型の超深層ビル「アース・スクレイパー」というクレイジーなコンセプト・プランを発見した。地下65階建てはさすがにやりすぎだが、こういう逆さビルをイメージしていただけるとありがたい(図9)。

 浅いほう、つまり地上に出ているものほど他人から見えやすく、わかりやすく、そして変わりやすい。一方、地下に潜れば潜るほど見えにくく、わかりにくく、変わりにくい。

 ちなみに「人は変われるのか?」という、非常に大きな命題があるが、変わりやすい部分と、変わりにくい部分の両方があるというのが現時点での識者のコンセンサスだ。こうした建造物のように人の内面を捉えると、人を見ることが非常に楽になる。論理的に整理しやすいからだ。

 このフレームワークを覚え、意識を込めた試行錯誤を経られれば、人間の内面が設計図のように目の前に浮かび上がるようになる。興味をそそられただろうか。では、順を追って各階層に“ダイブ・イン”していこう。


誰でも見抜ける地上階「経験」「知識」「スキル」

 地上1階にはとても見やすく、わかりやすく、そして変わりやすいものが格納されている。それは、その人の「経験」「知識」「スキル」だ。これらは、相対的には表面的なものであり、履歴書から簡単に読み解くことができる。誰が見ても、誰が聞き出しても、比較的見間違わないものであり、ファクトとして伝えられやすい。間違えにくくて、わかりやすいものなので、人を見る初心者でも自信を持って是非を判断しやすい。

 それもあって、残念ながらほとんどの面接は、この階層を触るだけで終わってしま っている。履歴書に羅列されている経験、知識、スキルと、自社が求めるものとのマッチングを確認して、あとはちょこっと人柄をチェック。最後にはやる気を確認して一丁上がり……という面接が実に多い。建物の1階だけを見て、全体を見た気になってしまっているのだ。

 例えば、履歴書に「大ヒットしたあのビールの販売戦略を立てた」と書いてある人がいたとしよう。本当にその人が記録的セールスを生み出したのかもしれないし、もしかしたら、その人はチームの一員で、上から落ちてきた販売戦略を実行しただけかもしれない。

「あのビールの販促戦略を立てたのは君か。すごいな!」と、ただそこにいたという「経験を有する」だけの人を拡大解釈し、鳴り物入りで入社させ、マーケティング幹部に据えたものの、全く成果を上げない。

「どうなってるんだ?採用したのは誰だ?」
──そんな、ご苦労さまな採用ミスは、中途採用のあちこちで起きている。

 その気になれば捏造(ねつぞう)すらできる薄っぺらな情報で、大事な人選びの決断を進めてしまっているのだ。


地下1階の「コンピテンシー」とは?

 もう少しちゃんとした見極めをしたい。そのためには、より相手の「地下」に潜っていかなければならない。さて、地下1階には何が広がっているだろうか。それは「コンピテンシー」だ。

■ コンピテンシーを見抜くと相手の「将来の行動」を予測できる

 コンピテンシーとは人事業界などでよく使われる概念・手法で、「好業績者の行動特性」と訳されている。1980年代後半にアメリカの人材活用の場で使われるようになった。これは1970年代にハーバード大学心理学科のマクレランド教授が、国務省のオーダーで、学歴や資格、スキル、知能レベルなど(地上1階部分)が同等の外交官に、業績の差がなぜ出るのかを研究したことがきっかけとして生まれたものだ。

 コンピテンシーとは、その人が“どんなシチュエーションで、どういうアクションを取りがちか”という、固有の行動のパターンだと理解していただきたい。

 相手のコンピテンシーがわかると何がいいかというと、相手の「将来の行動を予測」するのに使えるということだ。人間は似たようなシチュエーションで同じ行動を繰り返しがちであるという研究結果がその下敷きとなっている。

 ビジネスの現場で人を見極める際には、大体5〜7個のコンピテンシーを取り扱う。次の図10を参照していただきたい。

 上段の3つがマネージャークラス以上のビジネスリーダーを選ぶ場合によく使われる代表的なものだ。もし時間や余裕がない際には、この三つだけを意識して人を見ればよいだろう。

■ 大きな三つの行動特性

 重要なコンピテンシーのうち、一つ目は「成果志向」だ。何かのノルマを課せられたときに、成果志向が低レベルの人は「難しいとやめてしまう」、中レベルの人は「絶対にやり遂げ、目標はなんとか達成しようとする」、高レベルの人は「目標は越えることが当たり前で、そのための動きが早期から逆算でき、目標超えの結果を繰り返してナンボと考える」という具合で、階段状にスコアリングできる。

 二つ目の「戦略志向」も、多くの現場で重要視されるコンピテンシーだ。低レベルの人は「自部門の戦略を立てることはできる」。中レベルの人は「自社全体の戦略を策定できる」。高レベルの人は「業界や産業全体の戦略を立てられる」。

「ビジョン達成のためにどんな方法を取るのか?」
「他の人たちと違うやり方をするのか?」
「独自の道を見出だすのか?」
「競争上の差別化要因をどうやって作っていくのか?」

 このように、具体的な中身の高度さ、緻密さを探っていく。

 三つ目は、物事を変えてゆく「変革志向」だ。

「現状打破のために何をすべきか?」
「変化の方向性はどのようなものであるべきか?」
「どうすれば、人々が熱狂して変革に取り組めるか?」

 その他、他人と協調できるかどうかや、人を育成する能力があるかなど、さまざまなコンピテンシーがある。

<連載ラインアップ>
■第1回 人を構成する「4つの階層」を理解すれば、人を見る力は桁違いに向上する(今回)
■第2回 人の「ポテンシャル」を構成する4つの因子
■第3回 天才起業家たちを駆り立てる「エネルギーの源」の正体とは

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筆者:小野 壮彦

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