仕事は「キリのいいところ」で終わらせてはいけない…トヨタ流「仕事ができる人」がやっている"休憩の最適解"
2024年9月5日(木)9時15分 プレジデント社
※本稿は、森琢也『トヨタで学んだハイブリット仕事術』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona
■「気の重い仕事」にさっと取り組むにはどうすべき
職場の会議で発表する資料を作らなければいけないのに、大仕事だと思うとついつい後回しになってしまうこと、ありませんか?
発表2日前から慌てて取り掛かり、残業までしてなんとか間に合わせた、そんな経験をした方は少なくないでしょう。「自分は追い込まれないとやらないタイプだから」などと言いながら、いつもギリギリでは、周囲から「あいつに任せて大丈夫か?」と思われ、知らず知らずのうちに評価を下げてしまうかもしれません。
大きな仕事を目の前にすると着手が遅くなる人ほど、「めちゃくちゃ大変そうで嫌だなー」とその仕事が終わるまでの面倒や手間を考えがちです。着手する前段階で、不安と憂鬱な気分ばかりを抱え、気が重くなり、なかなか取り掛かれず、着手がますます遅くなるという負のループに陥ってしまいます。
不安や憂鬱で立ち止まってあれこれ悩むだけの時間は、やはりムダでもったいないものです。どうしたらいいのでしょうか。気の重い仕事にもさっと取り組めるようにするための2つのステップを説明します。
■まずは「最初の4分間」だけ頑張ってみる
STEP1 「終わるまでの面倒や手間」ばかり考えない
最初のステップは、「終わるまでの面倒」ばかり考えるのをやめることです。気が重くなるような大きな仕事に直面したとき、着手が早い人は「初速をつけるまでの時間」を気にします。気の重くなる大きな仕事ほど初速が重要です。「いかにスタートダッシュを決めるか」が仕事の成否を分けるともいえます。
それでは、「初速をつけるまでの時間」を短くするにはどうすればいいのでしょうか。ポイントは、「最初の4分間」にあります。アメリカの心理学者であるレナード・ズーニンが提唱した「ズーニンの法則(初動4分の法則)」をご存じでしょうか。
わかりやすく説明すると、仕事でも勉強でもスポーツでも、何かに取り組むときに最初の4分間を頑張ると、その後も継続して取り組めるようになるというものです。4分間だけ頑張り続ければ、やる気スイッチがオンになるということ。初速をつけるには、最初の4分間を頑張ることを意識してみましょう。
■すぐ終わることから着手し始める
STEP2 「すぐにできて」「2分程度で終わる」アクションを2つ考える
それでは、この4分の間にどんなことをすればいいのか。人間の脳は大きな変化を嫌うとされているので、いきなり大きなアクションを起こすのは難しいという側面があります。そこで、4分を「すぐに取り組めて2分で終わる」2つの「小さなアクション」に分け、そこからスタートすることをおススメします。
写真=iStock.com/scyther5
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scyther5
冒頭に説明した、会議で自分が発表する資料の作成であれば、最初の2分で「パワーポイントを開いて、表紙に仮のタイトルと日付だけを記入する」、次の2分で「資料の構成(目次)だけを、別紙に書き出してみる」とか「発表で伝えたいメッセージを3つ挙げてみる」といった作業です。これだけなら気が重くなることもなく、スムーズに着手できるはずです。
STEP1とSTEP2に取り組むときには、作業全体を一気に終わらせようと考えないことも大切です。作業量の多さに気が重くなって、取り掛かろうという意欲が下がってしまうからです。まずは2分×2アクションで合計4分を頑張りましょう。ズーニンの法則通り、4分で1アクションでもよいのですが、2分で終わる内容のほうがより簡単で着手しやすく、しかも作業が2ステップ進むわけですから、達成感も2倍感じられます。この2つのアクションを確定させてルーティン化すると、初速をつけるのにより効果的です。
【まとめ】
「2分×2」のアクションをルーティン化させる
■仕事が捗っていることの「落とし穴」
ここまで、ネガティブな感情スイッチがオンになって仕事に着手できないときや、気が重くなるような仕事でつい着手が後回しになってしまうときに、ぜひ試していただきたい工夫を説明しました。ここでは、順調に仕事が捗っているときの「落とし穴」について考えてみましょう。
みなさんは、仕事に集中できているときに、どんなことを考えますか?
「今の流れを止めたくない」「キリのいいところまでは、この調子でやってしまおう」と思う人は多いでしょう。休憩を取るのも「キリのいいところまで終わらせてから」と考えるのが当たり前ともいえます。確かに、ひと区切りついたところで休憩を入れたほうが、気分的にも落ち着いて休めるし、仕事の効率も上がるはずと思えます。しかし、ここに意外な「落とし穴」があります。
じつは、「キリのいいところまでやった」というスッキリ感が、心理的な完了状態を生み出してしまい、再スタートを鈍らせてしまう可能性があるのです。みなさんの中にも、キリのいいところで休憩を取ったら、休憩が思いがけず長引いてしまい仕事の再スタートが遅れ、しかも再スタートしてからもなかなか調子が上がらない、そんな経験をしたことのある人もいるのではないでしょうか。
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo
■心理的な「未完了」の状態をつくり出す
休憩前に作業をいったん完了してしまったことで、また仕事に戻ろうとする(再スタートする)のに、時間がかかっているのです。ここでは、休憩後、速やかに再スタートするための具体的なステップと方法を紹介します。
じつは、意図的に、心理的「未完了」状態をつくり出すことがポイントなのです。
STEP1 「キリのいいところ」を見定める
まず、費やせる時間と作業プロセスを勘案して、通常であれば、このあたりで区切ると「キリがいいよね」という中間目標を見定めます。キリのいいところ(中間目標)を定めることで、進捗度(しんちょくど)が測れ、達成意欲もわく、というメリットもあります。もし、見事に計画通りとなれば、心理的に「完了」状態が生まれやすく、一方で、計画未達成になると「未完了」状態を生みやすくもなります。
STEP2 意図的に心理的「未完了」状態をつくって、休憩に入る
STEP1で定めたキリのいいところ(中間目標)に対し、あえてその一歩手前の中途半端なところで作業を終えて、「着手中」の状態で休憩に入るようにします。休憩中も中断した作業のことがなんとなく頭の隅にあって、常に気にしているような状態にしておくことで、再開したときの起動時間を短くすることができます。
■あえて中途半端なところで終わらせたほうがいい
心理的「未完了」状態を意図的に作り出すにはどうすればいいのか。ポイントを示します。
【心理的「未完了」状態をつくり出す方法】
・基本パターン:「キリのいいところ」の一歩手前で作業を中断する
→休憩後にすぐにとりかかるべき作業のメモを残すと効果的
・応用パターン:「キリのいいところ」まで作業してしまった場合
→あえて次の作業の最初の一歩まで手をつける
どちらにしても、あえて中途半端なところで作業を終えて、「着手中」の状態で休憩に入るようにします。休憩中も中断した作業のことがなんとなく気になっている状態を作り出すのがポイントです。
【まとめ】
あえて「キリのよくない」のところで休憩に入る
多くのビジネスパーソンは「会議や打ち合わせが多すぎて、自分の仕事をする時間がない」と思っているでしょう。つまり、時間さえあれば「もっと仕事が捗るのに」と。ところが、実際は時間に余裕があるときほど、危機感や緊張感が失われ、作業効率が落ちやすいということもあります。
研修先の受講者からも、リモートワークで自宅に仕事を持ち帰り、翌日1日かけて資料を仕上げようと思ったのに、結局、ほとんど進捗せずに1日が終わってしまった、という話をよく聞きます。「時間があるのに仕事が捗らない」は、「会議や打ち合わせが多すぎて仕事が捗らない」よりも深刻な悩みといえるでしょう。
■細かく休憩を挟む「ポモドーロ・テクニック」
時間をムダにしている、ムダな時間を過ごしているのとほぼ同じで、先輩や上司、同僚からも「仕事のできないヤツ」というレッテルを貼られかねません。「時間があるのに仕事が捗らない」、そんな状態を回避するために、トヨタグループでは休憩時間を重視しています。
森琢也『トヨタで学んだハイブリット仕事術』(青春出版社)
前項では、心理的「未完了」状態で休憩に入ることの効用を説明しましたが、ここでは仕事の効率を高めるための休憩時間の設定の仕方を3ステップで説明します。特別な設定方法があるのではなく、シンプルに「何時間に1回」といったように設定するだけです。
ただし、大事なポイントが1つあります。それは、「先に休憩時間を決める」ということ。先に休憩時間を決めてから、全体の作業時間を設定していくのです。具体的に3ステップを説明します。
STEP1 始業から終業までの時間の中で、先に休憩時間を設定する
効果的に休憩を取るための最初のステップは、「先に休憩時間を設定する」ことです。それでは、どれくらいのペースで休憩時間を設定していけばいいのでしょうか。その際に参考になるのが「ポモドーロ・テクニック」です。これは「25分作業したら必ず5分休む」という、タイマーを活用した時間管理手法です。連続で作業を続けるより5分の休みを入れることで生産性が高まるし、作業を小さく分けてこなしていくので、精神的な疲労も溜まりにくいとされています。
■「時間枠」を意識することで計画的に進められる
ポモドーロ・テクニックの基本は25分ですが、研修講師として多くの受講者と接していると、厳密に25分でなくても、20〜30分で5分程度の短い休憩やリフレッシュタイムをはさむのが、人間の脳にとって集中力を保つのにちょうどいいと感じます。もし、1時間半くらいかかる仕事の場合は、それをざっくり30分×3セットくらいに分けて、その間にリフレッシュタイムを入れるイメージです。
このように休憩を先に設定することで、“コマ(時間枠)”が明確になります。会議も打ち合わせもない、まとまった作業時間を確保できたときは、そこに落とし込むタスクの洗い出しをするよりも先に、まず休憩時間を決めて、“コマ(時間枠)”を明確にします。
STEP2 休憩で区切ったコマにそれぞれタスクを割り振る
STEP1で休憩を先に設定したことで作業時間をいくつかに区切ることができたら、タスクをそれぞれのコマに割り振ります。こうしてメリハリをつけることにより、作業ステップが明確になります。
STEP3 コマを終えるごとにタスクの進捗状況を確認して必要に応じて調整する
区切りを設けることで、ステップごとにこまめに作業計画(予定)と実際の進捗状況を確認、照合できますし、必要であれば修正を加えることもできます。休憩時間に作業のやり方や進め方についてカイゼンや改良を考える機会をつくり、「気づいたら1日終わってしまった!」という事態を防げる点もメリットの一つです。
余談ですが、ポモドーロ・テクニックは起業家で作家のフランチェスコ・シリロ氏が提唱したもので、「ポモドーロ」はイタリア語で「トマト」の意味。イタリアの一般的なキッチンタイマーがトマト型だったことが由来です。
【まとめ】
「20〜30分で5分休む」を1セットとして仕事を組み立てる
----------
森 琢也(もり・たくや)
中小企業診断士
クック・ビジネスラボ代表。2007年明治大学卒後、トヨタグループの大手自動車部品会社(デンソー)に入社。経営企画部署にて、製造現場でのトヨタ生産方式の浸透、グループ会社支援など、数千億円ビジネスの全体像を学ぶ。事業企画に異動後は、採算改善プロジェクトのリーダーとして、世界5拠点で生産する新製品の採算V字回復などに携わる。約10年の勤務後、リクルートマネジメントソリューションズを経て、2020年に独立。著書に『トヨタで学んだハイブリット仕事術』(青春出版社)がある。
----------
(中小企業診断士 森 琢也)