「便が漏れる」、「薬物依存になる」、「死に至る」…栄養学の専門家が絶対に飲んではいけないと話す「ヤセ薬」一覧

2024年9月19日(木)16時15分 プレジデント社

出所=『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)

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健康的に痩せるためにはどうすればいいのか。立教大学の杉浦克己特別専任教授は「ラクしてすぐにヤセられる薬やサプリは存在しない。そういった文言を謳う商品には注意した方がいい」という——。

※本稿は、杉浦克己『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)の一部を再編集したものです。


■最悪の場合、死に至る「ヤセ薬」とは


われわれを取り巻く情報の中には、ラクしてすぐにヤセられるというような興味を引くものが多いようです。効果が見られなくても安全であればまだいいのですが、実際に体重減少が見られるようなものは、海外品に多く、医薬品成分が含まれていることがあるので注意が必要です。


ダイエット食品による健康被害やデータ捏造の例は少なくありませんし、図表1の抗肥満薬の中で、フェンフルラミンやシブトラミンのような日本では承認されていない抗肥満薬が配合されているものは、副作用があります。しかし、インターネット通販を利用すれば、入手が可能です。


出所=『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)

このようなものに手を出すと、健康被害を起こすだけでなく、場合によっては死に至ることもあります。


例えば、脂肪分解酵素のリパーゼを阻害し、摂取した脂肪の一部を吸収させないで排泄させる働きを持ったリパーゼインヒビター(商品名ゼニカル)のようなものは、筆者の知人でも使用した人がいますが、1日に10回以上トイレに行くことになるし、便意を我慢すると油のような便なので漏れるし、睡眠中も漏れるのでパジャマを何着も捨てたと言っていました。


ところが、同様の作用をもつ「アライ」(大正製薬)が腹部が太めの人用の要指導医薬品として2024年から薬局で発売されることになったので、太っていない人が乱用しないかが心配です。


また、ヤセるお茶とか、便がたくさん出て体重を減らすという商品もありますが、利尿作用や緩下作用(ゆるい下剤)のあるセンナなどの漢方薬が含まれているものもあり、トイレで暮らすほどにこもりきりになったり、脱水症状に陥る危険性もありますので、手を出さないようにしましょう。


■安全に使えるサプリメント


それでは安全に使えるサプリメントはあるのでしょうか。


以下には正しく使えば健康を害することなく、減量・ダイエットに有効なもの・方法を紹介します。


①ミールリプレイスメント(置き換え食品)

商品名マイクロダイエットに代表される、食事を置き換えるタイプの食品があります。これは1食分が200キロカロリー弱であり、昼食あるいは夕食をこの商品で置き換えます。


例えば1日1800キロカロリーの食事をしている人が、1食あたり600キロカロリー食べているとして、これを200キロカロリー弱の食品に置き換えるならば、400キロカロリー強のマイナスになります。


そして、その商品には、タンパク質やビタミン・ミネラルなど、ダイエット中でも必要になる栄養素が含まれているので、健康を害することなくカロリー制限が可能になります。また、水に溶かすシェイク型と湯で溶かすスープ型があり、味も豊富に用意されています。


1食だけなら安全に行えると思いますが、早い結果を求めて2食を置き換えてしまうと、1日の摂取エネルギーが基礎代謝を下回る可能性もありますので、お勧めできません。


またメーカーによって価格もさまざまであり、1食がワンコイン以下のものから、レストランでランチを食べるのと同等のものまであります。ただ、内容成分はプロテインパウダーのようなものであり、それほどの違いはないと考えます。


■「必ず効果がある」とはいえない


②トクホなど

特に認可されているものは、研究の成果もしっかりとあると考えられます。


・中鎖脂肪酸(MCT; Medium chain triglyceride)


サラダオイルタイプで見られる、長鎖脂肪酸の代わりに中鎖脂肪酸を使った製品であり、これは体内で体脂肪として蓄積しにくく、エネルギーとして燃えやすいのが特徴とされている。


・高濃度茶カテキン


緑茶タイプの飲料であり、エネルギー消費と脂肪燃焼を高める作用があるとされる。


・ウーロン茶重合ポリフェノールおよびコーヒー豆マンノオリゴ糖


小腸での脂肪分解酵素リパーゼの阻害作用により脂肪の吸収を抑えるとされる。


・大豆タンパク、キトサン


コレステロールなど血中脂質の改善効果が認められる。


③その他

・カフェイン


スポーツサプリメントにも見られるが、中枢神経の興奮作用によって脂肪燃焼を助けたり、また利尿作用も見られるので減量に使われることがある。


・カプサイシン


唐辛子の辛味成分であり、動物実験では中枢神経系に作用し副腎髄質からのアドレナリンの分泌と褐色脂肪細胞の活性化によってエネルギー代謝を亢進するとされる。


・カルニチン


スポーツでしばしば使われるサプリメントであり、細胞内のミトコンドリアに長鎖脂肪酸を取り込むときに不可欠な成分。もともと肉類に多く含まれているため、ベジタリアンのアスリートには有効とされる。動物実験では運動との併用により体脂肪が減少することが報告されている。


■体脂肪は減るが、精巣が委縮する


・ガルシニアエキス(ヒドロキシクエン酸)


東南アジアの柑橘類の果皮に含まれる成分であり、糖質から脂肪を合成する酵素ATPクエン酸リアーゼを阻害する働きが知られている。特に炭水化物をよく摂取する民族には有効とされる。


しかし、厚労省の研究により、ラットに高濃度を投与することにより精巣の萎縮が見られたという報告があり、その内容に不安を覚えた男性が使用しなくなって、日本での販売はしぼんだ。


・ギムネマ・シルベスタ


中国、インドなどに分布する常緑つる性植物であり、古くから糖尿病の症状に使われてきた。「糖分の吸収を抑える」とされるが、十分な根拠は得られていない。


・コエンザイムQ10(CoQ10)、α-リポ酸


スポーツサプリメントとしても抗酸化物質としての効果が期待されている。


出所=『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)

このように、いくつかの成分は研究されていますが、大別すると図表2のように分類することができます。基本的には、何らかの食品がブームになってもあまりすぐに飛びつかず、健康被害がないかを確認できた上で、興味があれば自己責任で使ってみるということになるでしょう。


安全性・有効性情報については、国立健康・栄養研究所の情報ページも参照してください。


■安全に1カ月で2キロやせる方法


ダイエットは、基本的には体脂肪を落とすことが目的になりますが、人間には必須体脂肪率があり、男性では3%、女性では12〜14%です。女性は、この数値を下回ってくると、女性ホルモンの分泌が低下し、月経周期に乱れが出てくるとされていますので、体脂肪率を測定して適正な範囲にとどまるように考える必要があります。



杉浦克己『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)

さて、脂肪は1グラムあたり9キロカロリーの熱量を持っていますが、体脂肪の場合は、水分や他の成分を含むので、純粋な脂肪の約80%として7キロカロリーの熱量を持つと考えられています。そこで、体脂肪を1キロ落とすには、エネルギーとして7000キロカロリーの赤字をつくればよいことになります。


極端な考えでは、男性の場合3日間絶食すれば7000キロカロリーの赤字は可能となりますので、体脂肪を1キロ減らすことができるという計算が成り立ちます。1カ月間(30日間)絶食すれば、体脂肪を10キロ減らせるということになりますが、死んでしまいます。


そこで、図表3のように、栄養(食事制限)と運動との合わせ技で1日500キロカロリーの赤字をつくることができれば、30日間で15000キロカロリーとなり、体脂肪で約2キロのダイエットが可能となります。


食事摂取基準2020年版(18〜29歳)を参照すると、身体活動レベルが「低い」人の栄養で、「高い」人の運動量に近づけていけばそれが可能となります。


出所=『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)

■フライドポテトではなく、ベイクドポテトに


男性では「低い」は2300キロカロリー、「高い」は3050キロカロリーなのでその差は750キロカロリーあります。女子では、「低い」は1700キロカロリー、「高い」は2300キロカロリーですから、その差は600キロカロリーあります。そこで、500キロカロリーの赤字をつくることは十分に可能であろうと考えられます。


例えば、女子の1700キロカロリーの食事というのがどれくらいのものかについては、図表4の糖尿病用の1日1600キロカロリーの献立が参考になります。


出所=『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)

3食で1480キロカロリーになりますので、あと120キロカロリー分で牛乳を200ミリリットルプラスすることができます。たとえ1600キロカロリーであっても、和食を中心にして満足のいく食事をすることは可能なのです。


また、低カロリー・低脂肪にするテクニックもあります。例えば図表5のように、牛肉のステーキを焼くときに肉の部位にこだわったり調理法や調味料にこだわることによって、そのカロリーを半分以下にすることも可能です。


■ショートケーキではなく苺大福


洋菓子のケーキを、和菓子の例えばいちご大福に替えればカロリーは半分以下、脂肪も少なくできます。ファストフードでハンバーガーを食べる場合も、揚げ物を挟んだようなものや、マヨネーズやタルタルソースを使ったようなものを避け、フライドポテト(脂肪のエネルギー比が約50%)を食べないことがポイントになります。フライドポテトは、Mサイズでも400キロカロリー以上あります。


出所=『一般教養としてのサプリメント学』(草思社)

そして清涼飲料でも、無糖のものはよいのですが、砂糖入りの甘いタイプのコーラ、サイダーなどはその液体量の10%の砂糖を含んでいますので要注意です。


例えば500ミリリットルのペットボトルならば、約50グラムの砂糖が入っていますので、コーヒーショップなどに置いてあるスティックシュガー(3グラム入り)17本分を摂取することになってしまいます。スポーツドリンクでも6%は糖分ですので30グラムとなり、スティックシュガー10本分が入っていますので、ダイエットをしたい場合は要注意です。


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杉浦 克己(すぎうら・かつみ)
立教大学特別専任教授(スポーツ栄養学、フィットネス)
1957年、東京都出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。23年間にわたり食品企業の研究者としてスポーツ食品「ザバス」の開発とアスリートの栄養指導に従事。2002年日韓W杯ではサッカー日本代表の栄養アドバイザー。2008年より立教大学教授。社会的活動では、JOCや複数の競技団体の栄養担当委員として活動。著書は『スポーツ栄養学がわかる』(大修館書店)など多数。YouTuberとしても活動している。
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(立教大学特別専任教授(スポーツ栄養学、フィットネス) 杉浦 克己)

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