「ファミリー層を開拓する試金石と言える」越谷イオンレイクタウンにオープンした"新形態のスタバ"の正体

2024年10月24日(木)16時15分 プレジデント社

スターバックス コーヒー 越谷イオンレイクタウン mori 3階店 - 画像提供=スターバックス コーヒー ジャパン

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9月14日、「スターバックス コーヒー 越谷イオンレイクタウン mori 3階店」がリニューアルオープンした。ファミリー層をターゲットとした店舗となる。マーケティングが専門の高千穂大学商学部教授の永井竜之介さんは「『家族でスタバ』を定着させられるかどうかの試金石となる。独自の強みを形成できるかが重要だ」という——。

■「家族でスタバ」の試金石とも言える店舗


「家族でスタバ」は、スターバックスの利用形態の中では少数派と言える。スターバックスは若者から大人の幅広い層に利用される人気のカフェだが、「若者」に含まれるのは大学生や高校生、せいぜい中学生までで、それよりも幼い子どもたちの利用は少ない。標準の店舗空間、商品の構成や価格帯、いずれも子どもがメインターゲットではなく、小さな子どもを連れたファミリー層がスターバックスに集まるようなシーンは、多くは見られない。


しかし、数年後、「家族でスタバ」は新たな定番になるかもしれない。若い頃からスターバックスを愛用してきて自らが親になった「スタバ世代」が、これからは家族と一緒にスターバックスに通い続けられるようなファミリー向けの店舗が越谷イオンレイクタウン内に新オープンした。ファミリー層を新たに開拓していくうえでの試金石とも言える、新コンセプトの「スターバックスコーヒー 越谷イオンレイクタウン mori 3階店」に注目しながら、この新規開拓の背景やキーポイントについて見ていこう。


画像提供=スターバックス コーヒー ジャパン
スターバックス コーヒー 越谷イオンレイクタウン mori 3階店 - 画像提供=スターバックス コーヒー ジャパン

■店舗設計の多様化が進められている


スターバックスは日本で最も店舗数の多いカフェチェーンで、2024年6月末時点で1948店を全国に展開している。人の賑わうエリアに店を構え、ゆっくりとリラックスできる空間や、仕事などの作業に集中できる空間を、職場とも自宅とも異なるサードプレイスとして提供する店舗設計が標準になっている。じつは、この標準に加えて、新たなコンセプトや体験を提供する店舗設計の多様化が進められている。


「この一杯から広がる 心かよわせる瞬間 それぞれのコミュニティとともに— 人と人とのつながりが生み出す 無限の可能性を信じ、育みます」というミッションに基づき、スターバックスは、それぞれのエリアのコミュニティの特徴や文化、ニーズに沿った多様な店舗を増やしていっている。デザインや席配置などを最適化させることで、店がエリアのコミュニティと繋がり、店とコミュニティが共に成長していくことを目指している。


■越谷イオンレイクタウンには「7店舗」ある


例えば、エリアの歴史や伝統、文化などの素晴らしさを店舗デザインに織り込んで世界に発信する「リージョナル ランドマーク ストア」は、通常の店舗設計とは異なる個性を持ち、2005年に日本初として誕生した鎌倉御成町店を皮切りに、兵庫県の神戸北野異人館店や愛媛県の道後温泉駅舎店など、全国に28店舗が展開されている(2024年9月時点)。


また、コーヒー、ティー、カクテルなどを五感で楽しめる特別な空間が設計された世界に6店だけの「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」、ティーブランド「ティバーナ」を楽しめるティー特化店として全国に15店舗が展開されている「スターバックス ティー & カフェ」などもある(いずれも、2024年9月時点の店舗数)。


店舗の多様化を進めるスターバックスだが、日本最大のショッピングモールである越谷イオンレイクタウンでは、個性の異なる7つの店舗を展開している。食品スーパーやレストランの近くの賑やかさに合わせた店、駅に近く若年層の仕事や勉強目的の利用に向けた店、駐車場に近いことからグループの休憩利用でくつろぎやすい店、外の自然を楽しめてペット同伴が可能な店、1人や少人数でティーをリラックスして楽しめる「ティー & カフェ」店など、それぞれの店が位置するエリアのニーズに合わせて設計されている。越谷イオンレイクタウンにはスターバックスの多様性が集結している、と言っていいだろう。


■低い座席、ベビーカーを置ける広い通路、キッズメニュー


その中で、2024年9月14日にリニューアルオープンしたのが、「子どもも家族も楽しい」という新コンセプトを掲げた「越谷イオンレイクタウン mori 3階店」だ。同店は、すべての座席が低く設定され、席ごとの境のないシームレスな席空間、どの席の隣にもベビーカーが置けるようにした広い通路など、親子でゆっくり自由に楽しめる設計になっている。


日本初のキッズメニュー「キッズ フラペチーノ」が12歳以下の子ども向けに用意され、店内利用時は、持ちやすく、落としても壊れにくい、取っ手付きの樹脂製グラスで提供される。また、キッズメニュー購入者限定で、ソースやシロップを親子で自由にトッピングできる体験型のカスタマイズサービス「コンディメントバー」を楽しむこともできる。


画像提供=スターバックス コーヒー ジャパン
2024年10月時点では「キッズ フラペチーノ」を取り扱うのはイオンレイクタウン mori 3階店のみである - 画像提供=スターバックス コーヒー ジャパン
画像提供=スターバックス コーヒー ジャパン
親子や家族でカスタマイズ体験ができる「コンディメントバー」 - 画像提供=スターバックス コーヒー ジャパン

これまでにも、神奈川県のエトモ綱島店などファミリー向け取り組みをする店舗はあったが、「越谷イオンレイクタウン mori 3階店」は日本初のキッズメニューや体験型サービスの開発など、より本格的な取り組みが行われる場所となっている。この新コンセプト店は、ファミリー層の利用やニーズを検証する場になると考えられており、スターバックスがこれからファミリー層の支持を掴んでいくうえでの試金石として重要な場と言える存在だ。


■「スタバ世代」が30〜40代の親になっている


スターバックスが若いファミリー層をターゲットとして新規開拓しようとする背景には、親になった「スタバ世代」を手放さないようにする狙いがあると考えられる。スターバックスの日本進出は1996年の銀座松屋通り店で、2000年代以降、全国で多くの若者がスターバックスに親しんでいった。そうして青春時代にスターバックスを愛用したスタバ世代の多くが、現在では30〜40代の親になっている。


しかし、親になったスタバ世代にとって、従来のスターバックスの店は、なかなか以前のようには利用しにくいものになる。ベビーカーで入りにくかったり、子連れでは長居しにくかったりして、別のカフェやファミリーレストランなどを選びやすくなる。しかし、もともとスターバックスを好んで利用してくれていたユーザーを、みすみす手放してしまうのはあまりにもったいない。そのため、ファミリー層にとって利用しにくい点を解消し、親になったスタバ世代のニーズにしっかり応えられる店を作ることで、「家族でスタバ」の利用を促そうと考えるのは手堅い戦略だろう。


■新規顧客の獲得には、既存顧客を維持する5倍コストがかかる


マーケティングにおいて「既存顧客を手放さない」ことの重要性は極めて大きい。同じ「一度の利用」でも、0から新しい顧客を作るよりも、すでに利用経験のある顧客にもう一度使ってもらう方が、ずっと容易で効率的だからだ。新規顧客の獲得には、既存顧客の維持と比べて5倍のコストが必要になる、という「1:5の法則」は良く知られている。


また、店や商品・サービスを愛用してくれるファンは、自発的に良いクチコミをリアルでもネットでも発信してくれる存在でもある。自ら宣伝してくれて、新しい顧客を呼び込んでくれるという意味でも、既存顧客を手放すことなく、良好な関係を深めてファンを増やす戦略には大きなメリットが期待できる。


若い頃からスターバックスを愛用してくれていたスタバ世代を手放さないように、家族でも利用しやすい店や商品・サービスを提供し、「家族でスタバ」という形で継続利用してもらう戦略は有効なものとなるだろう。親になったスタバ世代のニーズに応えることができれば、彼らは長年来のファンとして良いクチコミを発信し、新たなユーザーを呼び込む好循環も生まれてくる。


■ファミリーが店を選ぶ「2つのパターン」


このスターバックスのファミリー層の開拓に関して、ファミリーが店を選ぶときの2パターンの存在について留意しておきたい。ファミリーが店を選ぶ場面では、「親が行きたくて、子どもを連れていく」パターンと「子どもが行きたくて、親が引っ張られていく」パターンの2種類がある。親になったスタバ世代を呼び込むスターバックスの戦略は、前者に当てはまる。


一方で、後者の「子どもが行きたくて、親が引っ張られていく」パターンでは、スターバックスにとって困難な競争が待っているだろう。子どもを店に呼び込むカギとなるのは、フードとコラボである。子どもが「食べたい!」と指名するようなフード、という意味では、ファストフード店のポテト、ファミリーレストランのドリンクバーなど、強力なライバルが目白押しで、スターバックスの通常メニューやキッズメニューで立ち向かうことは容易ではないと考えられる。


また、コラボに関して、スターバックスではディズニーやピーナッツ(スヌーピー)などとコラボしたことはあるが、どちらかといえば大人向けのコラボになっている。スターバックスの持つ世界観とのバランスが求められるため、多くのライバルのように流行りのコンテンツと次々にコラボすることは難しいと考えられ、この点でも子どもの獲得競争では不利と言える。


そのため、スターバックスのファミリー層の開拓は、まずは「親が行きたくて、子どもを連れていく」パターンをメインに据えて着実な成果をあげながら、ファミリー仕様店を拡大して「家族でスタバ」を普及させることが重要になる。そのうえで、「子どもが行きたくて、親が引っ張られていく」パターンに関して、ライバルにはできないスターバックス独自の強みを形成していくことができれば、「家族でスタバ」という新定番が定着できるだろう。


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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部教授
専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『
マーケティングの鬼100則
』(ASUKA BUSINESS)、『
分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考
』(CROSS-POT)などがある。
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(高千穂大学商学部教授 永井 竜之介)

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