農産物を薬剤処理なし・常温・長期保存できるプラズマ殺菌技術で、グローバルな食品問題に挑む「タベテク」の挑戦

2023年11月10日(金)11時20分 PR TIMES STORY

株式会社タベテクは、世界的に深刻化する食品ロスの課題解決に向けて、薬剤を使わずに農産物を常温で長期保存できる技術で展開するスタートアップです。福岡県の医療クリニックを夫と共に経営していた田苗眞代がプラズマ殺菌技術と出会い、起業したのは2018年のこと。以降、国内外で実証実験を繰り返し、本格的な事業化に向けて取り組んできました。現在はトルコ産の柑橘類を日本や東南アジアに輸出する一方、トルコを拠点に日本の果物を海外へ輸出する構想の実現に向け、歩みを進めています。本ストーリーではプラズマ殺菌技術が食品流通の世界を変革する可能性と、当社が目指す未来像について田苗の言葉でお伝えします。

株式会社タベテク 代表取締役 田苗眞代

起業後農業分野に参入し、食品ロスの問題に取り組む

現在、世界で生産されている食料の40%に当たる約25億トンが毎年廃棄されています。廃棄される食料は野菜や果物の割合が多く、生産から消費までの過程で約45%が捨てられているのが実情です。その要因の1つとして、農産物の保管や輸送の過程における傷みや腐敗があります。農場での生産から貯蔵・加工・製造・流通の過程における食品ロスは、全体の64%にも達します。

各行程における食品ロスの比率(WWFと英テスコの調査より弊社作成)

この問題の解決に向け、着眼したのが九州大学が技術シーズを持つプラズマ殺菌技術でした。福岡県で夫と共に医療法人の経営に携わっていた私は、いつか自分で起業することを目指して夜間のビジネススクールに通っていました。そんな時、耳にしたのが九州大学が開発したという同技術です。薬剤処理をせずに殺菌できるという話を聞いて、最初は医療機器に使えないかと思ったのです。そこで、土日を利用して開発者の先生の元に通い、いろいろとお話を伺うようになりました。

技術について学ぶうちに先生から起業を勧められ、悩んだ末に医療用滅菌装置を扱う会社を立ち上げました。しかし、医療分野には様々な規制があり、事業化には非常に時間が掛かってしまいます。そこで方向転換して、食品ロスが課題となっている農業分野に参入することにしたのです。地方での実証実験を進めるにあたり、大企業から協力の話が出るなど順調に進んでいました。しかし、そんな矢先にコロナ禍に見舞われ、社員の方々が地方への出張がNGになってしまったことが理由で、話が頓挫してしまいました。

プラズマ殺菌ができる箱型装置「PLASMABOX」で腐敗によるロスが1/3に

そうした中でも、実験に協力していただいたのが佐賀県の公設試験場でした。プラズマ殺菌技術をもとに製作した箱型装置「PLASMABOX」を用いて、常温下で1日数時間プラズマによって発生させたプラズマ殺菌で保存したミカンと、通常の状態で保存したミカンを比較する実証実験を3か月間行いました。その結果、プラズマ殺菌を施したミカンは、常温下でも腐敗によるロスが1/3以下に低減していたのです。JAのかんきつ貯蔵倉庫でも実証実験を複数回行い、PLASMABOXの効果を証明することが出来ました。

実証実験に使用された箱型装置「PLASMABOX」


PLASMABOXを用いることで、農家にとっては収穫物の保管に必要な高額な冷却装置が不要になる他、腐敗した果実の液だれ等がなくなるため、管理にかかる手間を大幅に削減することが出来ます。装置のレンタル料は年間11万円と安価で、家庭用電源が使用できるため、電気代も一カ月100円程度に抑えられます。装置の大きさは、縦・横25センチ・高さ15センチとコンパクトなため、置き場所にも困りません。この技術が広まれば、農業や流通の世界を大きく変えることが出来ると確信しました。

プラズマ殺菌処理したミカン(上)と無処理のミカン(下)

プラズマ殺菌技術で農産物収穫後の薬剤処理を不要に

国内での実証実験を進めながらも考えていたのは、この技術は発展途上国をはじめとする海外にこそ多大なニーズがあるのではないか、ということでした。海外産の柑橘類などを日本に輸入する際、船便による長期輸送に耐えられるよう、収穫後にポストハーベスト処理と呼ばれる農薬処理を施すケースがあります。しかし、ポストハーベスト農薬は通常の畑で使用される農薬より100倍以上も濃度が高く、日本国内での使用が禁じられているため、輸入品に限って使用が認められているという状況です。そのため、どうしても輸入できる品目が制限される上、許可されているものに対しても消費者の目が厳しくなっています。

もし、プラズマ殺菌技術によってポストハーベスト処理が不要になれば、海外から様々な柑橘類が日本に輸入できるようになると同時に、日本の製品も海外への輸出を増やすことが可能になります。日本の柑橘類は海外では評価が高く、国内販売では1キロ200円の品物が、800円以上で売られているケースも有るため、プラズマ殺菌技術によって、日本の農家に対しても大きな貢献ができると思いました。

「国内で売れていないものは海外でも売れない」と冷ややかな声を浴びることもありました。そんな時、経営コンサルタントの方から紹介された東京都が主催する女性ベンチャー成長促進事業「APT WOMEN」で採択され、資金調達と東京都への進出を果たすことができました。その他にも、民間企業が主催するアワードや、経済産業省が主催するJAPANブランド育成支援事業、技術協力活用型・新興国市場開拓事業費補助金「J-Partnership」に採択されるなど、我々の技術が徐々に注目されるようになっていったのです。

ピッチコンテストでプラズマ殺菌技術についてプレゼンする田苗

トルコ進出直後に大地震に見舞われるも実証実験を継続。プラズマ殺菌の大きな効果を確認

そして、海外展開への第一歩として、2023年1月にはトルコ南部地域のハタイ県で現地の青果輸出企業と協力して、レモンやマーコットを使った実証実験をスタートさせることになりました。その内容は、果実を常温下で無処理、ポストハーベスト処理を実施、PLASAMBOXで処理、の3パターンに分けて、それぞれどれだけ腐敗が進むかを検証するものでした。

実証実験中のトルコ産柑橘類


ところが、その約2週間後に予期せぬ事態が発生します。5万人以上の死者を出したトルコ・シリア地震が現地を襲ったのです。実験を行っていたのは、トルコ全体の柑橘類の約7割を生産している地域で、街は瓦礫の山と化し、地元の柑橘農家は大打撃を受け、協力していただいた企業の従業員の多くは家を失ってしまいました。しかし、奇跡的に実験の現場は無事であったため、その後も何とか実験を継続することができました。

地震で倒壊した協力企業の建物

そんな大混乱の中で3カ月後に実験は終了し、結果は無処理の柑橘類とポストハーベスト処理を施した柑橘類が大量に腐敗、あるいは売り物にならずジュースなどに加工せざるを得なくなったのに対し、プラズマ処理を施したものは味も外観もほぼ実験前の状態を保っていました。現地アンカラ大学農学部の教授もこの結果に驚き、分析のために実験後の果実を研究室に持ち帰っていったほどです。

事業展開を通じてトルコの復興に貢献したい

実験は成功したものの、未だに震災の爪痕が残るトルコ。家を失った現地協力企業には、未だにテント生活を余儀なくされている従業員もいます。

そんな中、当社は2023年9月、経済産業省の起業家育成・海外派遣プログラム「J-STARX(ジェイスターエックス)」のシンガポール・インドネシア派遣コースプログラムの対象企業として採択されました。今回の決定を機に、私は現地での市場調査や人的ネットワーク形成を進めています。海外派遣を通じて、東南アジアへの販路開拓を希望するトルコ被災地の青果物輸出企業と、東南アジアの富裕層向けスーパーマーケットを繋ぐことで、被災地の柑橘類を直接販売するルートを構築することに成功しました。高級フルーツは東南アジアの富裕層にとても人気があり、今後も弊社で海外高級スーパーマーケットの販路開拓を進めることで、弊社事業も発展させていきたいと考えています。

トルコの経済復興には日本も積極的に支援する姿勢を表明しています。9月にイスタンブールで開催された「日本・トルコ ビジネス・フォーラム」の開催前には、現地を訪れていた西村康稔経済産業大臣をはじめ、同省官僚の方々、在トルコ日本総領事、在トルコ日本大使と直接意見を交わし、当社が今後もトルコの経済復興に関わっていく事を約束させていただきました。

トルコで開催されたビジネスフォーラムで西村康稔経済産業大臣と意見交換


来年度からはトルコから東南アジアや日本への柑橘類輸出に向け、食品関連企業や小売り関連企業と協力しながら小ロットからテストマーケティング行っていき、タイミングを見ながら規模を拡大して、トルコ南部地震の経済復興に微力ながら貢献していきたいと考えています。

継続は力なり—プラズマ殺菌を施した果実がスーパーに並ぶ日を夢見て

弊社は2018年2月に創業して、来年の2月に7年目を迎えます。最初は、誰に事業の構想(今から考えると妄想)を話しても、話すらろくに聞いてもらえませんでした。経営相談に行った時にも、「遠くを見るな、近くをみろ!」と怒られたことすらあります。

私は創業当初から、日本のスーパーマーケットに並んでいる防腐剤や防カビ剤で加工処理をされた途上国の果物を弊社技術で置き換えて、店頭に並ぶ日が来ることだけを考えてやってきました。最初は簡単に考えていましたが、たったスーパーの陳列棚のほんの一部を変えることが、どれだけ難しくて時間のかかることかと、取り組みを通じて思い知らされることになりました。

事業を継続してこられたのは、「想いは必ず実現する」という言葉を胸にやってきたからです。来年、やっと創業当初の想いが実現する事になりますが、今後も苦しい時こそ、初心を貫いてやってやろうと思っています。想いが「力」になり、事業の継続に繋がっていくと信じています。

プロフィール

田苗眞代(たなえ・まさよ)

福岡県出身。歯科衛生士の資格を取得後、医学部進学を目指すも断念。30 歳を前にして家業の不動産業を継ぐため宅建を取得後、大学で法律を学び、在学中に結婚、出産を経験する。その後、義父が経営する熊本の病院や夫が勤務する医療法人の事業再生に携わるうちに起業を志すようになり、九州大学総合理工学研究院の研究を元にした医療機材向けのプラズマ殺菌技術について知り、製品化を決意。当初は医療用殺菌装置の開発を目指すが、農作物の保存の分野に可能性を見出し、九州の農家を中心に実証実験を重ねる。現在はトルコの成果物輸出企業大手と協力し、世界を舞台に事業化を進めている。

商品・サービス情報

PLASAMBOX

・殺菌剤による洗浄、乾燥、防腐剤による処理が不要

・常温で長期保存に効果があり高額な冷却装置が不要

・腐敗した果実の液だれ等がなく管理の手間を削減

・家庭用電源で使用可能で電気代は月100 円程度

             ・装置の年間レンタル料が11 万円と安価


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