和田秀樹「健康診断の結果を気にする人は長生きできない」ピンピンしている人とヨボヨボになる人の決定的な差
2024年12月6日(金)8時15分 プレジデント社
※本稿は、和田秀樹『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki
■「生きがい」を求めなくても幸せに生きられる
精神科医の仕事をしていて、患者さんからよく聞く言葉が「生きがいがない」です。そんなとき私は「一喜一憂せず、もっと気長に生きましょう」と声をかけます。
生きがいがないのは不幸、という考え方をしてしまうと、生きがいを手にすることだけにこだわってしまい、それがうまくいかないと不幸になってしまいます。何のための生きがい探しかといえば、幸せになるためですね。生きがい探しよりも大事なのは幸せになることだ、といういちばん肝心なことを忘れがちです。だからもっと気楽に生きてください。
目先のことばかりに一喜一憂して焦ってしまうと、本来の目標を見失ってしまうという例は、ほかにもあります。たとえば、自分の子どもにはいい大学に入ってもらいたい。そのためにはまず、いい中学に入学させようと考える親は多いと思います。
「うちの子は能力があるんだから、きっとついていけるはずだ」そう考えて性急に結果を出そうとします。たとえば、小学校のうちから塾に通わせて勉強漬けの毎日を送らせます。ところが子どもは思うように成績が上がらず、親の期待がだんだん重荷になって勉強が嫌いになってしまいます。
どんなに能力のある子どもでも、勉強嫌いになってしまったら成績が下がります。中学受験に失敗すれば子どもは自信を失い、ますます勉強が嫌いになります。これではいい大学などとても望めません。
■「高血圧→血圧を下げたい」と考えがちだが…
でも、私立の学校に落ちても、公立の中学や高校から志望校を見定めてじっくりと勉強に取り組み、ちゃんと第一志望の大学に合格する子はいくらでもいます。
最初のうちは成績が悪くても、友人に恵まれたり勉強法を自分で考えたりして、グングンと成績を伸ばす子も珍しくありません。中学受験の失敗など、あとからいくらでも取り返すことができるのです。
そういう子やその子の親は、本当の目標を見失うことなく、目先のことに一喜一憂せずに気長にやってきたことになります。子どものほうも、必要以上に焦ることもなかったし、伸び伸びと中学・高校生活を過ごしたことでしょう。
目先のことばかりに焦ってしまうと、本来の目標を見失うだけでなく、今を幸せに生きることができなくなります。本稿では、一喜一憂するのをやめる思考についてお話ししましょう。
健康診断では、たとえば血圧が高いとか、コレステロールや血糖値が高いといった結果が数値とともに出てきます。とくに高齢者といわれる世代の方々は、数値が悪いと「まずいな」と思うでしょう。
「もう70代なんだから、いつ脳梗塞とか心筋梗塞とか、そういう大きな病気にかからないとも限らない。この血圧の高さは危険なサインなのだろう……」などと不安になれば、まず「血圧を下げなくちゃ」と考えます。
■健診結果に一喜一憂する必要はない
ただ数値を下げるだけなら、降圧剤のような薬を飲めば下がります。「標準値に戻ったな、これでひと安心だ」と、たいていの人はホッとします。控えていたお酒や脂っこい料理を復活させたり、毎朝続けていたウォーキングを怠けたりします。すると次の健診でまた引っかかります。「ダメだな、やはり決めたことは実行しないと……」
写真=iStock.com/byryo
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猛反省して自分を戒めます。でも、数値に異常がなければ大いに安心します。「ふう、よかった。これでもう大丈夫だ」と晴れ晴れした気分になり、大きな病気の不安はどこかに消えてしまいます。
ところが、安心したはずの人が、突然の脳梗塞や心筋梗塞で倒れてしまうことが、しばしば起こるのです。「あんなに注意していたのに」「もう数値は下がったはずなのに」などと本人も周囲も首をかしげます。「いったい何のための検査だったんだ」と腹を立てる人もいます。どうしてこういうことが起こるかわかりますか?
健診のたびに数値の上がり下がりに一喜一憂して、本質的なところを見逃しているからです。
たとえば、血圧が高いというのはどういう意味なのか、そこにどんな危険が潜んでいるのかという疑問が頭から抜け落ちているのです。なんとなくこの数値が高いのはいけないと、テレビや雑誌などの情報から漠然と思っているだけではありませんか? 大切なのは目先の数値ではなく、支障なく日常生活を送れているかどうかです。私は、こういうケースは意外と多いと思っています。
■「スピード感がある=できる人」だと思われているが…
近ごろよく耳にする言葉に「スピード感」というのがあります。組織はもちろん、業務の流れや実行にまず要求されるのが「スピード感」です。素早い判断と対応がなければ、世の中の変化や要求に応えることができないからでしょう。
そのせいかどうか、早いのはいいこと、遅いのは悪いことというイメージが世の中には定着しつつあります。それを一人ひとりの人間に当てはめたら、どうなるでしょうか。
「できる人にはスピード感がある」
「できない人にはスピード感がない」
すると今度は、万事に早めの準備や実行、あるいは計画や達成が大事なような気がしてきます。たとえば、自分の夢や願望を実現させるときでも、「そのうちに」とか「いつか」ではなく、「1年後」とか「明日から準備にかかろう」と決心するようなことです。
「そのうちやいつかでは、結局、何もしないまま時間だけが過ぎてゆく。本気で実現をめざすなら早め早めのスケジュールにしないといけない」そう考えるのがスピード感のある人です。できる人は、そうでなければいけないのでしょうか。どこかピリピリしていませんか?
■世間のペースに巻き込まれる必要はない
一方、「そのうちなんとかなるだろう」などとのんきに、気長に構える人には、はっきり言ってあまりできる人というイメージはありません。のんびりゆったりしています。
あなたがどちらのタイプかわかりませんが、大事なのはどちらが幸せに生きられるかということです。もし、もともとのんびりした性格の人なら、スピード感に惑わされてピリピリしてもそれほど意味がないし、逆に疲れたり自信をなくしたりするだけかもしれません。
和田秀樹『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)
あるいは、もともとスピード感の備わった人でも、「ちょっと疲れたな」とか「イライラが溜まってきたな」と感じるようなら、本当はのんびりタイプなのかもしれません。世の中のスピード感に惑わされて、「急がないと」と言い聞かせているだけかもしれません。
「なんだか最近、追い立てられるように暮らしているな。以前はもっとゆったり暮らしていたのに……」
そう感じているあなたには、私からこうアドバイスさせてもらいます。世間のペースに巻き込まれることはありません。もうちょっと気長に生きてみませんか。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)