トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3頂」とは?
2024年12月3日(火)4時0分 JBpress
一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。
第5回は、トリドールHDが原点として掲げている「感動(KANDO)」を軸に、これまで成長フェーズに応じて定めてきた経営理念を振り返りながら、グローバル展開を進める現在の姿を紹介する。
企業の成長に合わせ、数年ごとに理念を刷新
「食の感動で、この星を満たせ。」
これは2022年5月に制定したトリドールのスローガンです。「世界中」ではなく「この星」としたのは、国境を意識しないくらいの大きな視点で、過去の常識や価値観にとらわれずに食の感動を広げていきたいという思いからです。これから先、市場や時代が激しく変化しても、北極星のように我々が目指す先を示してくれる。そんな言葉がスローガンなのです。
トリドールが初めて経営理念を掲げたのは、店舗数も従業員も急激に増えつつあった2000年代半ば。皆の向かう方向を統一する必要があると考え、会社としての考え方を明確化しました。
トリドールの存在意義は「大衆性」「普遍性」「小商圏対応」。そこから、「ひとりでも多くのお客様に(=大衆性)いつまでも愛され続ける(=普遍性)地域一番店を創造していこう(=小商圏対応)。」という経営理念をつくりました。
ターゲットを絞らないことを「ひとりでも多くのお客様」と表現し、トレンドを追いかけるのではなく普遍的な成長を目指すことを「いつまでも愛され続ける」としました。さらに我々が目指すべきは、いつでもお客様で賑わっている繁盛店です。その思いを「地域一番店を創造」と表現したのです。経営理念と言うと大仰ですが、創業以来私が常々言っていたことでもあります。
この頃の我々は鳥インフルエンザの流行を経験し、ショッピングモールのフードコートを始めとして丸亀製麺の出店に本腰を入れていました。焼き鳥屋がメインだった時期は流行を取り入れたり、特定の客層に受ける業態を開発したりして、ヒットを狙っていた。でもこれからは老若男女あらゆる年代・属性のお客様に、日常的に来ていただける店を出す会社になろうと決めたのです。
経営理念という言葉にすることで、従業員にわかりやすくそのことを伝え、企業文化を切り替えようとしました。
次はM&Aで海外の業態を拡張しつつあった2015年に、経営理念を刷新。「すべては、お客様のよろこびのために。」という意味でミッションを「Simply For Your Pleasure.」としました。
2019年には、変化の激しい時代においてお客様に感動を届けるために、新たな価値を探求し、創造し続けるという意味で「Finding New Value.」というフレーズを追加しました。「すべては、お客様のよろこびのために。」だけではどうすればよいのかわからないので、「そのために何をすべきか」を文章化して追加したのです。
そして、トリドールのミッションを実現するための行動指針として、2020年より「Toridoll-er’s Value」も制定しました。
内容は
「Customer Oriented(お客様起点で行動し、すべてにおいて質にこだわる)」
「Take Risk for Growth(常に成長を求め、リスクをとり挑戦し続ける)」
「Take Ownership(自らが責任者のように行動し、結果に責任を持つ)」
「Diversity and Respect(他者を尊重し、違いを受け入れる)」
「Flexibility for Success(物事を柔軟にとらえ行動する)」
の5つ。
このバリューには、トリドールで働く人としてこうあってほしいという思いを込めました。
「感動(KANDO)」こそが私達の原点
そして2022年、すべてのミッション、ビジョンを見直し、スローガンを新たに掲げました。その背景には、ウクライナ侵攻などの世界情勢や時代による人の価値観の変化、そしてトリドール自身の変化がありました。
またコロナ禍を経て、フードテックの発展で飲食業界の省人化が進む中、私達が守るべきことを改めて確認する必要が出てきたのです。そして、どんなに変化が激しくなっても進むべき道がわかるよう、方向を示そうと思いました。
下の図では、私達の存在意義であるミッション、それを果たし続けるための目指すべき姿としてビジョンを提示しています。ミッションとビジョンを支えるのが戦略であり、その戦略を実践するために従業員一人ひとりが持つべき哲学として「成長哲学 『トリドール3頂』」があるのです。
ミッションは「本能が歓ぶ食の感動体験を探求し世界中をワクワクさせ続ける」。これは、「食の感動」を追求して、世界中の喜びや楽しさを生み出すという使命を表現しています。「探求」は、お客様が求めているものだけでなく、インサイトを掘り起こして提供していくという決意を込めています。
ビジョンは「予測不能な進化で未来を拓くグローバルフードカンパニー」です。トリドールはこれまで、チェーン店なのに何もかも手づくり、客席数を削ってでも丸亀製麺では製麺所の風情が感じられる店のレイアウトにする、国内は直営店しか出さないなど、外食業界の常識から外れたことばかりやってきました。それでも全国に1000を超える店を出し、売上高は16年で約30倍以上と突出したスピードで成長してきたのです。
「予測不能な進化」とはトリドールの在り方そのもの。進化をし続けることで未来を切り拓き、その道の先でオンリーワンのグローバルフードカンパニーとなる。この唯一無二の目指す姿を言語化したのがビジョンです。
スローガンの「食の感動で、この星を満たせ。」にも「食の感動」という言葉が入っています。これは、改めて私達の存在意義について考えた時、感動を提供していることが私達の根源であると認識したからです。我々がここまで成長できたのは、お客様に感動していただけたからこそ。これを忘れないように言語化しました。
体験価値の中でも、大きく人の心を揺さぶるものが感動です。人の行動を変えるくらいインパクトのある体験。それが、「感動(KANDO)」だと考えています。感動があるからこそ、トリドールの店を選んでいただけるのです。だからこそ、私達は絶えず感動を創造し続ける。それを世界規模でやっていこうとしているのです。
<連載ラインアップ>
■第1回 「新規参入でもシェアを取れる」トリドールHD粟田社長が語る、外食産業市場のダイナミックな可能性とは?
■第2回 「製麺所の風情を手放したら丸亀製麺ではなくなる」トリドールHD粟田社長が語る“二律両立”の経営とは?
■第3回 省人化の時代に、なぜ丸亀製麺は“増人化”へ舵を切ったのか?トリドールHD粟田社長が語る「体験価値」
■第4回 トリドールHDが始めた「KANDO開拓コミッティ」とは?離職率が下がれば顧客満足度が高まるメカニズム
■第5回 トリドールHD急成長の土台、従業員一人ひとりが持つ成長哲学「トリドール3頂」とは?(本稿)
■第6回 国内外で年間250店、トリドールHD粟田社長はなぜ新規出店の意思決定を人に任せるのか?
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筆者:粟田 貴也