【インタビュー】宮沢氷魚 誰のコピーでもない、自分だけの役者道「今なら自信を持っていられるから」

2020年1月20日(月)9時0分 シネマカフェ

宮沢氷魚『his』/photo:You Ishii

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インタビューが行われたのは2019年の年の瀬。その年は、宮沢氷魚にとって間違いなく駆け抜けた、そして飛躍した1年だった。「コウノドリ」第2シリーズで俳優の門をたたいてまだ3年弱というのに、2019年はドラマ3本、映画1本、舞台1本と切れ目なく出演を続け、実績を積み上げたのだから。

変化の2019年「この場にいていいのかな」から「今なら自信を持ってその場にいられる」

「2018年の夏くらいから、ずっと何かが入っている状態で、振り返る余裕もないまま次が始まって、終わって、また次が、となっています。正直、2019年の一番最初の頃と、今とでは全然違うと思うんですけど、どこがどう変わったかとかは、いまいちまだわからないんです。何か大きく“ひとつの出来事があったから変わった”とかではないので。ひとつ、ひとつ、作品が終わっていくと自信がつくというか。ちょっとずつ、無意識なんですけどね」。

一息で言い終えた後、宮沢さんは、「うまく説明できなくて申し訳ないんですけど」と前置きしてから、こう続けた。「こうして取材を受けたりして、スチールのときに特に感じたりもします。その場にズシッと自分の体があって、100%でいる感じがするというか。今までもそのつもりでいたんですけど、思い返してみると、どこかフワフワしていたような、“この場にいていいのかな”みたいな感覚が、どこかにあったみたいで。今なら自信を持ってその場にいられるから、そう思うのかもしれません」。


冷静に自身を分析する宮沢さんは、常に穏やかなトーンで話し続ける。身長184cm、「MEN'S NON-NO」専属モデルという人目を引くプロポーション、透明感にあふれるたたずまいも彼の大きな持ち味だ。しかし、それ以上に、自分を過小評価も過大評価もしない真っすぐに生きているスタイルが、多くのライバルがいる若手俳優群の中でも注目を集める存在となっているのだろう。独特の魅力を放つ源泉を探りたくなる。

「自分ひとりだけの考え方、生き方、物の感じ方だと、たぶん限界があると思うんです。僕は周りの人たちからいろいろ刺激を受けています。けど、それに流されてはいけないと思っていて、自分という人間を持ったまま、刺激を受けてどんどん自分に着せていくことが大事だと考えています。流されてしまうと自分ではなくなっちゃうし、その人の分身になってしまうから。けど、人から受ける影響は、いいことも悪いことも、すごく素敵だと思います」。

「誰かのコピーにはなりたくないんですね」と確認すると、「そうですね、はい。それはよくないですよね」と、変わらず穏やかな口ぶりながら、はっきりとうなずいた。



「偏見・差別を受けたこともあります」宮沢さんが語る『his』の役作り
宮沢さんが映画初主演を飾った『his』が間もなく公開を迎える。宮沢さんは、8年たっても忘れられない初恋相手・日比野渚(藤原季節)の想いを胸に、周囲にゲイだと知られることを恐れ、東京から離れて、ひとり田舎に住まう井川迅を演じた。

「同性愛の美しいところも描いていれば、そうではない醜いところ、苦しいところ、つらいところもすべて見せている作品です。実際の現代社会がLGBTQをどう見ているのか、偏見・差別もきちんと描いているので」と宮沢さんが説明する通り、男性同士の純愛を軸に置いている本作だが、「POPなBL」系統とは一味も二味も違う仕上がりだ。現代のLGBTQについて、田舎で生活することについて、夫婦間の価値観のズレのもの悲しさなどを通して、生きること、人と関わることという根底のテーマが照らし出される。


華やかな世界に身を置く宮沢さんと、差別を恐れる迅は、一見まったく共通点がないように見える。伝えると、彼は小さく首を振った。

「僕はアメリカ生まれで、向こうの血が4分の1入っているので、小さい頃偏見・差別を受けたこともあります。日本にいても、日本人扱いをされないときもあるから、いまいち居場所が見つからなかった。“向こうに行けば居場所があるかな”と思ってアメリカ留学したときも、ローカルの人とはまた別の“日本人”という見られ方をしましたし。そうなると、“自分の居場所ってどこにあるんだろう”と考える時期もあったので、当時の経験を思い出しつつ迅をやっていました」。

さらには、「あまり周りに相談せず、自分ひとりで考えこむ」という宮沢さんの性格も、迅に重なるところがあり、寄り添いながら役を自分色にしていったという。けれど、「よほどのことがない限り、そういうことはないんですけど、結果、最後の最後まで役のことをあまりつかめなかったというか…。ずっと悩んでいたんです。撮影中もわからなくて、クランクアップしてからも“果たしてこれでよかったのかな”と残っているところがありました」。


そうした宮沢さんの迷う気持ちは、ある種、今泉監督の「理想通り」だったようだ。

「この間、取材で今泉監督とご一緒したときに“なるべく役者がその役のことをつかまないようにしていた”とおっしゃっていたんです。僕は“つかんだ”と思った瞬間はないんですけど、きっとあえてそうしていたのかな、と思いました。今泉さんが難題をどんどん与えてくれて、毎日悩んで、正解って何なんだろう、とずっと考えていました」。



2020年は「自分の実力でどんどん仕事をしていきたいし、決めていきたい」
宮沢さんと二人三脚でふんばり、10日間の共同生活をともにした藤原さんの存在なくして、本作はなしえなかったと、宮沢さんは感謝を忘れず口にする。


「季節くんの存在は本当に大きかったです。とにかく傍にいてもらったことは、僕が季節くんにやってもらって一番うれしかったことでしたし、僕も同じことをしました。役もですけど、テーマもテーマで、自分ひとりで考え始めちゃうと、本当に孤立して孤独になっていくんです。僕も季節くんも、どちらかと言うと、自分の中にあるもので必死に答えを見つけ出そうとしてしまうので、どうしてもしんどくなってくる。そこで近くにいてくれて、僕がすごい悩んでるときにスッと一言かけてくれたりとかが救いでした。終わっていろいろ考えてみたら、ああいう瞬間ってすごく大事だったな、と思うんですよね」。

全身全霊をかけた当然の結果か、撮影終了後はとてつもない疲労感に襲われたとも話す。「よかったなと思ったのは、終わった後、精神的にも体力的にも疲れた…ってグッタリしたこと。それだけ、エネルギーをこの作品に注ぎ込んでいた証拠だと感じられたので、やっぱり自分がやってきたことは間違っていなかったかな、と思っています」。


そして、2020年に突入。『his』の公開後も様々な作品が宮沢さんを待ち受けている。先のことを尋ねると、「どうなりたいだろう〜!」と口角をキュッと上げて、期待に満ちた微笑みをひとつ残した。

「2018年の終わりから2019年いっぱいは、タイミング、作品、人にすごく恵まれた1年でした。役者を始めて間もないこともありますし、まだ謎が多いだろうから、“宮沢氷魚を使ってみたら面白いかな”“宮沢氷魚ってどんな人だろう”と、面白そうという興味本位(の起用)もゼロではないと思うんです。でも、これからは、それだけではダメだと感じるので、自分のスキルも気持ちももっと高めていき“役者としてどんどん使っていきたい”と思ってもらえる1年にしなきゃいけない。2020年以降、自分の実力でどんどん仕事をしていきたいし、決めていきたいというのがあります」。

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