「バスが減便・廃止される一番の理由」は運転士不足でも燃料代でもなく…バス事業における<赤字路線>の考え方とは

2024年2月6日(火)6時30分 婦人公論.jp


いまや多くのバス路線が減便・廃止となっていますが、その理由とはーー(写真提供:Photo AC)

バスの運転士不足が叫ばれる中、路線バスを減便する動きが全国各地でみられています。日本バス協会によれば、12万1000人の運転手が必要なのに対し、現状11万1000人とすでに1万人不足しており、その不足は今後さらに拡大していくそうです。一方、バスの運行管理者の経験を活かし、交通系YouTuberとして活動しているのが綿貫渉さんです。その綿貫さんいわく「多くのバス路線が減便・廃止となっている」そうで——。

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公共交通機関としてのバスの役割


この記事ではバスをはじめとした公共交通機関について研究している駒澤大学文学部地理学科の土谷敏治(土は正しくは「土に`」の異体字)(つちたにとしはる)教授に取材のうえ、私の見解と研究者である教授の視点を交えてバスの未来を探る。

まず、あらためてバスとは何のために存在していて、現在どういった立ち位置なのだろうか。もちろん地域によって異なりひとくくりには言えないものの、主に大都市圏内では様々な客層に利用されており、多くの人にとっての移動手段となっている。

しかし、大都市圏外になると需要そのものが減り続け、多くのバス路線が減便・廃止となっている*1。その中で、高齢者や高校生など自家用車で移動することができない交通弱者向けの移動手段として最低限の本数が残っているのが現状だ。

なぜ需要が減っているかというと、人口減少もあるが、一番はマイカーの普及だ。1960年代は地方でもマイカーが普及していなかったため、通勤や通学、買い物など様々な目的で日常的にバスを利用している風景があった。

データを見ると*2、1966年には乗用車の台数は230万台にすぎなかったが、2022年ではその約30倍の6200万台になっている。

数十年かけてマイカーの台数は増加を続け、一方でバスの需要は減り続けた。ただ、ここ数年は乗用車の保有台数が6200万台ほどで高止まりしているため、需要の減少も落ち着くかもしれない。

【*1】とはいえ、大都市圏内も安泰とは言えない。東急バスの渋12という、渋谷駅から二子玉川駅を経由して高津営業所までを結ぶ路線がある。これが2022年に土曜日の1本のみに大幅に削減され、代わりに途中の駒沢大学駅から高津営業所までを結ぶ玉12系統に置き換えられてしまった。減便された渋谷駅〜駒沢大学駅の区間は他の系統が重複して走っているため、バスの本数が多いことは確かだが、従来は乗り継ぎなしでいけたことを考えれば利便性は低下した。このように、多少非効率であっても利便性を重視した路線を設定できていたのだが、そういった余地も徐々に減りつつあるというのが現実だ。

【*2】自動車検査登録情報協会による車種別自動車保有台数の推移https://www.airia.or.jp/publish/statistics
/ub83el00000000woatt/hoyuudaisuusuii05.pdf

なぜバスは減便されるのか


マイカーが普及し、バスの需要が減少しているのは確かだ。その一方で、近年は運転士不足や燃料代の高騰という話題も聞く。

ただ、バスが減便や廃止される一番の理由は利用者が減少していることであり、そのほかの理由はあくまで副次的なものにすぎない。

運転士が不足していて、本当に追加の人員が必要であれば賃金を上げればよい*3。


『逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』(著:綿貫渉/二見書房)

近年は価格の上昇に理解もあり、その人件費上昇分を運賃に転嫁しても、あまりにも高額と思える価格でない限り急激な利用者離れは起きないはずだ。

ただ、バスの運賃は気軽に上げることはできず、国土交通省の認可が必要であるため、より柔軟に運賃を変更できる仕組みが今後は必要だろう。

また、路線バスには本数・乗客ともに多い黒字路線もあるが、逆に赤字路線も多数ある。通常の企業であれば、黒字の事業に注力し、赤字部門は将来的な黒字化が見込めなければ撤退する、というのが合理的な考え方だろう。

では、バス事業においての赤字路線はどのような考え方だろうか。従来は需給調整規制という制度があり、国土交通省*4が許可した事業者のみ路線バスの運行が認められる方式になっていた。

そのため、新規参入がしづらく、事業者間の過度な競争が発生しづらい代わりに、運行を許可された事業者は責任をもってその地域での運行を担当する仕組みになっていた。

しかし、2002年にこの需給調整規制は廃止され、路線バス事業への新規参入が容易になった(規制緩和)。その半面で退出の手続きも許可制から事前届出制となり、路線の廃止もしやすくなった。

とはいえ、規制緩和が進んだ現在も、基本的には赤字路線も廃止はせず、黒字路線の利益を赤字路線に穴埋めをする内部補助を行い、運行を維持する考え方が一般的のようだ。

【*3】賃金を上げても人が集まらないのであれば本当に人員不足かもしれないが、まだその状況には達していないように思える。

【*4】旧運輸省

規制緩和後も不採算路線が続けられる理由


なぜそんな一見効率の悪そうなやり方を続けるのか。ひとつは、路線バスという公共交通機関は、広い路線のネットワークがあることで価値が向上するためである。中心街から離れた場所を走る不採算路線であっても、その路線があることによって中心街の黒字路線も乗り継いで利用ができる。

また、バス事業者は不動産事業など関連事業を展開している場合も多い。大手バス会社の会社名自体がその地域で絶大な信頼を持っているのである。そんな中で、不採算路線をすべて廃止、なんてことをすると、「弱者切り捨てだ」と会社のイメージが落ち、結果として関連事業の売上も落ちてしまうかもしれない。それを防ぐための運行の維持という側面もあるだろう。


数十年かけてマイカーの台数は増加を続け、一方でバスの需要は減り続けた(写真提供:Photo AC)

しかし、現実にはバス事業者が不採算路線の維持をする義務はなく、路線の廃止は事前の届出さえすれば自由に行える。

また、2002年の規制緩和以前から不採算路線の廃止自体は可能であり、規制緩和後に極端に路線の廃止が進んだわけではない。利用の減少と共に数十年かけてじわじわと路線が廃止され続けているのが現状だ。

コミュニティバスへの転換


この、廃止される路線と維持される路線の違いは、内部補助を行ってでも維持すべきかどうかの事業者の判断次第だろう。

それでもバスが廃止されると地域の住民への影響が大きいと自治体で判断されれば、地方自治体が主体となって運行されるコミュニティバスに転換される。

例えば、静岡市内のJR東海道線付近を走る、蒲原病院〜由比駅を走るバスがある。この区間は従来は富士急静岡バスの運行であったが、同社の撤退により静岡市自主運行バスに移管された。

逆に、静岡県の浜松市と湖西市を走るバスに、馬郡車庫〜湖西市役所という区間があった。こちらは従来は遠鉄バスが運行していたが、2021年に利用者減少等の理由により運行が終了してしまった。この区間については、新たにコミュニティバスとして転換されるということもなかった。そのため、湖西市内の区間に関しては従来からコミュニティバスがあったためバスでの移動は可能なものの、浜松市内の区間は完全にバス路線のない空白地帯となってしまった。

※本稿は、『逆境路線バス職員日誌 車庫の端から日本をのぞくと』(二見書房)の一部を再編集したものです。

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