2024年冬ドラマ23作、視聴率無視で採点「感動必至」「“おっさん”のアプデ」「高濃度の笑い」

2024年2月6日(火)10時0分 マイナビニュース

●3月のクライマックスは感動必至
主要23作がそろった2024年冬ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、主要新作の初回放送をウォッチし、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコでオススメ作品を探っていく。
前編の記事(「2024年冬ドラマ」オススメ5作&傾向は? 脚本家渾身の『不適切にもほどがある!』『春になったら』)において2024年冬ドラマの主な傾向を【[1]“かぶる”マーケティングの現実とリスク [2]ベテラン・中堅脚本家が渾身のオリジナル】の2つと解説。
おすすめドラマとして、『春になったら』(関西テレビ・フジ 月曜22時)、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジ 土曜23時40分)、『不適切にもほどがある!』(TBS 金曜22時)、『正直不動産2』(NHK総合 火曜22時)、『君が心をくれたから』(フジ 月曜21時)の5作を選んだ。
後編の本記事では、それらを含む全作品のショートレビューと、目安の採点(3点満点)を挙げていく。
『君が心をくれたから』 月曜21時〜 フジ
出演者:永野芽郁山田裕貴斎藤工ほか
寸評:今冬のファンタジー6作の中では最も攻めた設定だが、「切ない」と感じさせられるか、「重い」と感じられるかは紙一重。ムードたっぷりの長崎ロケと松山博昭監督の幻想的な映像美で中和されているが、休日明けの月曜夜だけに厳しいか。ヒロインは五感が失われはじめてから前向きに生きはじめるなど、その死生観は意外にリアル。見続けた人にはファンタジー作らしい特大のハッピーエンドが待っているはず。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『春になったら』 月曜22時〜 カンテレ・フジ
出演者:奈緒、木梨憲武濱田岳ほか
寸評:奈緒と木梨のかけ合いは間がピッタリで、楽しく温かく、時にほどよい哀しさを感じさせる。とりわけ木梨の演技は技術を超えた存在感で物語にフィット。専業ではない俳優を起用する素晴らしさをひさびさに感じさせられた。「登場人物を絞ってセリフと表情で心の機微を描く」というホームドラマらしいプロデュースも好感度が高い。1クール3カ月の連ドラに合わせた「余命3カ月」と「3カ月後に結婚」という設定は巧みで、実際に春を迎える3月のクライマックスは感動必至。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『マルス -ゼロの革命-』 火曜21時〜 テレ朝
出演者:道枝駿佑、板垣李光人、吉川愛ほか
寸評:高校生7人の動画集団“マルス”が不正、詐欺、闇バイト…大人たちの闇に鋭く斬り込む。チームの「○○担当」という設定から、白いオオカミのかぶり物まで、武藤省吾の脚本らしい戦隊ヒーローのような設定を「痛快」とみるか、「子どもっぽい」とみるか視聴者を選ぶ。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『正直不動産2』 火曜22時〜 NHK総合
出演者:山下智久、福原遥、市原隼人ほか
寸評:2年前の前作とおおむね同じ構造で安定感たっぷり。建前や嘘の多い不動産業界と営業マンのトークを丸裸にする脚本は爽快で、知識欲を刺激する学びの要素も楽しい。一方で週替わりのエピソードには、ホームドラマとしての静かな感動がある。ディーン・フジオカの登場で、ますます美男美女をギュッと集めたドラマになった。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『Eye Love You』 火曜22時〜 TBS
出演者:二階堂ふみ、チェ・ジョンヒョプ、中川大志ほか
寸評:テレパスの設定は凡庸な一方、「話す声は日本語だが、心の声は韓国語でわからない」という設定は絶妙。「韓国人俳優を相手役に起用する」という実験的なプロデュースも含め、工夫の跡が見える。あえて中身を薄めて気軽に見てもらうような物語は若年層にハマるのか。二階堂の負担が重い作品だが、成功したら業界に影響を与えそう。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『リビングの松永さん』 火曜23時〜 カンテレ・フジ
出演者:中島健人、高橋ひかる、向井康二ほか
寸評:堅物のアラサー男とピュアな女子高生のラブコメ。しかもシェアハウスでの同居生活。フジ火曜23時台はアイドルのラブコメ路線でほぼ固定するのか。もしそうなら視聴率をあきらめて配信再生狙いなのだろう。ベタなシーンに「ハマリたい」という視聴者に向けた作品。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
●アラサー女性の描写がリアル
『となりのナースエイド』 水曜22時〜 日テレ
出演者:川栄李奈、高杉真宙、水野美紀ほか
寸評:医療資格を持たず、患者の命は救えない主人公…のシリーズだが、今作は看護師ではなく看護助手。献身的に世話をする姿には惹かれるし、「ただの医療オタクではなく実は外科医だった」という意外性や姉の死をめぐる謎など、エンタメ度を高めようという努力が随所に見られる。ハートフル、シリアス、コメディの最適なバランスがまだ見えず。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『婚活1000本ノック』 水曜22時〜 フジ
出演者:福田麻貴、八木勇征、関水渚ほか
寸評:幽霊はシンプルかつ安易な設定だが、痛々しくなりがちな婚活をポップに描くことに成功。福田の起用でアラサー女性の描写がリアルになり、婚活に対するテンションの低さや顔で選んでしまう失敗などに説得力を生んでいる。“婚活あるある”の手数が多い一方で女性のキャラクターが多様に描かれ、決して結婚ありきではない作品。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『グレイトギフト』 木曜21時〜 テレ朝
出演者:反町隆史、波瑠、佐々木蔵之介ほか
寸評:「殺人球菌をめぐるノンストップサバイバル医療ミステリー」というコンセプトに大規模なテロやパンデミックのようなものをイメージした人は肩すかし。序盤は病院内の出世争いに使われるのみで、悪事や野望のスケールに物足りなさが残る。主人公がまさかのダークサイドにハマるという展開は意外性十分だが、ツッコミどころもチラホラ。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『大奥』 木曜22時〜 フジ
出演者:小芝風花、亀梨和也、西野七瀬ほか
寸評:民放が時代劇の連ドラを制作し、オール京都ロケはそれだけで評価されるべきこと。ただ物語の密度は過去作の半分程度で、序盤は大義や野望なきいじめのような描写が続き、『大奥』らしい怖さを感じず。10代徳川家治の時代は特別な出来事が少なく厳しいのか、脚本を練る時間が足りなかったか。平日午後の過去作再放送に負けている。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『めぐる未来』 木曜23時59分〜 読売テレビ・日テレ
出演者:萩原利久、早見あかり、勝村政信ほか
寸評:『ブラッシュアップライフ』を彷彿させる「○周目」を描いたタイムリープ過多のコンセプト。こちらのメインは犯人探しのミステリーで、「感情が爆発するとタイムリープする」というひと工夫こそあるが、既視感は拭えない。妻が死ぬとやり直せるという流れはゲームのリスタートを思わせる軽さ。母親役の佐伯日菜子が異様な存在感…。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『ジャンヌの裁き』 金曜20時〜 テレ東
出演者:玉木宏、桜井ユキ、田中直樹ほか
寸評:「検察審査会って何?」という人も多いであろう、ありそうでなかったリーガルドラマ。弱者の一般市民たちが強者の検察や巨悪に立ち向かうというド真ん中の勧善懲悪は、いかにもテレ東20時枠らしい。どこか学級会を思わせるゆるい話し合いに、「スカッと解決」ありきの結末、決めゼリフありのベタな脚本・演出は中高年層向けか。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
●小ネタの手数や密度、演出の自由度も最高峰
『院内警察』 金曜21時〜 フジ
出演者:桐谷健太、瀬戸康史、長濱ねるほか
寸評:最大の焦点は、主人公が捜査一課のエリートという肩書きを捨てて院内交番勤務を志願した理由。さらに、対立する天才外科医の過去。週替わりのエピソードは丁寧に描かれているが、大テーマのスケールが評価を決めそう。医療×刑事の超堅実保守路線であり、フジ金曜21時枠の戦略が見えるが、見る人を選び、ヒットは出づらいだろう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『不適切にもほどがある!』 金曜22時〜 TBS
出演者:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗ほか
寸評:宮藤官九郎×金子文紀×磯山晶のトリオに、トレンドの令和・昭和ギャップ、芸達者な役者たちなど、老若男女をとらえる盤石の勝ち戦。ストーリー性は極めて薄く、タイムスリップという入口は安易な一方、笑いの濃度はこれ以上ないほど濃く、令和の日本社会に対するメッセージは鋭く、ほどよく考えさせられる。小ネタの手数と密度は宮藤作品の中でもトップクラスで、ミュージカルなど演出の自由度も最高峰。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『おっさんずラブ -リターンズ-』 金曜23時15分〜 テレ朝
出演者:田中圭、林遣都、吉田鋼太郎ほか
寸評:社会現象となった2018年から6年が過ぎ、LGBTを扱ったドラマやピュアなラブストーリーが当たり前になり、特別感は消えた。それでも、あえて成長させないキャラクター設定と、多少の図式変更で熱心なファンを楽しませている。ただ俳優の“おっさん度”が増す中、若手俳優の抜てきが見たかった感もある。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『闇バイト家族』 金曜24時12分〜 テレ東
出演者:鈴鹿央士、山本舞香ほか
寸評:2023年の流行語にもなった「闇バイト」の問題を掘り下げる社会派と思いきや、ダメ人間たちの再生ドラマだった。テレ東「ドラマ24」らしいダークサイドを期待していた人は肩すかしだったのではないか。家族のポンコツ加減、絶体絶命の乗り切り方、刑事のビジュアルなど、まさにハチャメチャな世界観は金曜深夜帯にハマっている。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『新空港占拠』 土曜22時〜 日テレ
出演者:櫻井翔、比嘉愛未、白石聖ほか
寸評:前作『大病院占拠』とほぼ同じ流れで、さしたるアレンジはなし。警察が特定しやすい動物の仮面、鈍い動きのアクション、俳優名当てクイズなど、若年層にツッコミを入れながら見てもらう戦略は踏襲されている。せっかくの続編なのに前作とのつながりはほぼなく、当初『×××占拠』と伏せていたのに1週間前に公開した意図は不明。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『恋する警護24時』 土曜23時〜 テレ朝
出演者:岩本照、白石麻衣、溝端淳平ほか
寸評:現役アイドルのボディーガード役、警護対象の女性とひとつ屋根の下で暮らす、守ることで生まれる愛、Snow Manの主題歌までガチガチのアイドルパッケージドラマ。配信再生数が稼げればOKだが、編成的にはもう少し深い時間帯のほうが反発を受けずに済みそう。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
●「好き」「自分らしさ」を肯定する時代にフィット
『離婚しない男 —サレ夫と悪嫁の騙し愛—』 土曜23時30分〜 テレ朝
出演者:伊藤淳史、小池徹平、篠田麻里子ほか
寸評:鈴木おさむ引退前のラスト作だが、通常運転のネタドラマ。『奪い愛』シリーズ同様、過剰なセリフと演技で笑いとツッコミを誘っている。クリエイターながら質にこだわらず割り切れる鈴木の強みであり、初回まで伏せてサプライズ発表したヒロインの篠田が流れを作った。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆】
『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』 土曜23時40分〜 東海テレビ・フジ
出演者:原田泰造、中島颯太、城桧吏ほか
寸評:タイムリープなどに頼らず、世代間ギャップや昭和の時代錯誤を真っ向から扱う東海テレビの制作姿勢に好感。家庭でも職場でも嫌われている古い価値観のおっさんがゲイの青年と出会い、理解不能の状態からアップデートを重ねる不器用な姿を応援したくなる。ジェンダーレス、ひきこもり、推し活などのテーマを扱い、あらゆる人の「好き」「自分らしさ」を肯定する時代にフィットした作品。原田、中島、城が会話を交わすシーンは、癒しと気づきであふれている。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『さよならマエストロ 〜父と私のアパッシオナート〜』 日曜21時〜 TBS
出演者:西島秀俊、芦田愛菜、石田ひかりほか
寸評:やはりその設定から昨年の『リバーサルオーケストラ』と比べられるのは仕方がない。『VIVANT』『下剋上球児』に続いて父と娘の関係再生というホームドラマを前面に出したところが“日曜劇場らしさ”か。問題は“音楽の持つ力”を見せるシーンが少なく、ネット上に感動の声があがらないこと。芦田、當真あみ、久間田琳加ら若手が役に押し込められていて、本来の魅力が出ていないように見えてしまう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『アイのない恋人たち』 日曜22時〜 ABC・テレ朝
出演者:福士蒼汰、岡崎紗絵、佐々木希ほか
寸評:遊川和彦の脚本では定番の、ダジャレ絡みのコンセプト、記号的にキャラ分けした登場人物、舞台のような熱いセリフをベースにしつつ、現代の恋愛問題に斬り込もうとしている。7人もの主要キャストがいるため1人あたりの感情表現は少なく、いきなり気が変わって熱くなるようなシーンが目立ち、唐突感は否めず。『逃げるは恥だが役に立つ』以降のここ7年あまり、ラブストーリーのベースは1対1の純愛であり、恋愛群像劇は昭和・平成からアップデートされていない。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『厨房のありす』 日曜22時30分〜 日テレ
出演者:門脇麦、永瀬廉、前田敦子ほか
寸評:グルメドラマと思いきや自閉スペクトラム症の描写が強烈で多く、明るい作品ではなかった。LGBTが当然のように扱われる中、いまだ発達障害を特別視し、天才ヒーローのように描くプロデュースは疑問。主人公のセリフ量は凄いが視聴者の胸に訴えかけるようなものは少なく、複雑な感情を表現できる門脇の強みが見られない。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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