佐賀県にある「宝くじの島」に行ったら…1ヵ月も経たずに、思わぬ知らせが届いた

2024年2月22日(木)12時30分 婦人公論.jp


(イラスト:山口哲司)

苦境に立たされた時は、つい神様に救いを求めてしまうもの。その思いがしっかり届いた人もいるようです。赤星瑞江さん(仮名・埼玉県・パート・68歳)は、父親を亡くし、今後の身の振り方を思案している最中、「宝くじの島」の映像がテレビで流れ——。(イラスト=山口哲司)

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吉方位に導かれ「高島」へ


佐賀県・唐津湾の中央、玄界灘に浮かぶ高島——。別名「宝くじの島」。一時期、マスコミなどに取り上げられ、その地に鎮座する宝当(ほうとう)神社に参拝すると高確率で宝くじが当たる、と話題になった。その後も高額当選者が続出し、全国各地から多くの人々が高島詣でに列をなす。今から16年前、私はその様子をテレビで見ていた。

同居していた父が亡くなって日も浅く、ひとり暮らしを始めたばかりの52歳。ようやく父の死を受け入れ、今後の身の振り方を思案している最中だった。

タイミングよく流れたその映像を見て、ピンときた。高島のある唐津市は、その年の私の吉方位。金運アップや楽しみごとにご利益が得られる方角だ。旅は行ける時に行け、吉方位を目指して! どう生きていくかと悩んでいたまさにその時に、旅立ちのゴーサインが発せられたのだ。私は高島行きを即決した。

私が絶大な信頼をおく風水に出合ったのは、40代の半ばだ。歴史が古いので詳しく説明するのは控えるが、実践し続ければ手応えを実感できる開運法とだけお伝えしたい。飽き性の私が、よくもまあコツコツと続けたものよ。

基本である清掃に始まり、家具やインテリアの方位・方角、色彩に心を配る。始めてすぐに、懸賞で高額賞金が当選した。その後も狙った賞品を次々に獲得。私は若い頃から株投資をしていたのだが、リーマン・ショックの大波も事前に回避した。ある程度の資産に恵まれたのは、風水の力が大きいと思っている。

無論、いいことばかりではないが、何事も最悪の事態を避けて無難に過ごすことができた。風水を生活に取り入れれば、八百万(やおよろず)の神が味方してくれる。誰に対しても、万能なる力を出し惜しみせず発揮してくださるのだ。

開運を望む一心でツアーに参加


高島が吉方位とあれば、風水的にも期待ができる。さっそく高島行きのツアーを調べて旅行会社に電話したところ、すでに催行は決定しており、私でちょうど満員になった。電話口からは、「お客さん、ラッキーですよお」と担当者の声。

とにかく人気のツアーで、今回もすぐに定員が埋まったものの、私が問い合わせる直前に1人キャンセルが出たそうだ。グッドタイミング! ここでも神様の計らいを感じずにはいられなかった。

そして12月の快晴の日、私は福岡空港に降り立った。機内で隣に座っていたツアー客のマダムは風水愛好者で、意気投合。合流した関西組の男女十数人ともすぐ打ち解けた。宝くじを当てたい、運気を上げたいという一心で参加した夢いっぱいの人ばかり。

バスでの移動中も和気あいあいとした雰囲気で、途中で購入した年末ジャンボに思いを馳せ、まるでもう当選したかのように盛り上がっている。

1時間ほどで、唐津城の足元の桟橋に着いた。高島行きの船に乗り、出航まで窓辺の席で一人ぼんやり波間を眺める。と、視界に1羽の灰色の鳥が現れ、猛スピードで一直線に頭から水中に突入した。驚いている間に鳥は大きな魚をくわえながら水面から躍り出て、高島のほうへと飛び去っていく。

神々しい光景だったので関西組の女性に話すと、「めっちゃ縁起ええやん」と手を打った。遠くからも「当たるよお、宝くじ!」と声が飛び、船中が活気づく。しかも添乗員いわく、前回のツアー参加者から億万長者が1人出たとのこと。

気をよくした私は、ツアー同行者の面々に「その時は、何かご馳走しますね」と気前よく答え、一行のテンションは最高潮に。船は高島の桟橋に10分足らずで接岸した。

手を合わせた瞬間、頭に浮かんだのは


高島は、かつて海賊の襲撃にあったという。その危難から島民を救ったのが、野崎綱吉という武士だった。彼の死後、島民が恩人である彼を祀りその勇猛を称え建立した神社は、明治時代に宝当神社と呼ばれるようになったそうだ。

社殿の壁には、祈願成就のお礼の手紙や貼り紙がところ狭しと掲示され、参拝者の目をいやがうえにも引きつける。もちろん、そこには多くの「宝くじ当選」の文字が……。

小さな拝殿の前で、私は手を合わせた。いつものように素直な気持ちで感謝を述べ、叶えたい願望を——いや、実際のところ無心だった気がする。あれやこれやのお願いは、不思議と浮かんでこなかった。欲張りな私にしてはおかしなことだが、あの日、元気に暮らしているだけで十分な気がしてしまったのだ。

「これ以上望むことはありません。生かしていただいてありがとうございます」。そんな心境だったと思う。わざわざ遠方の最強パワースポットを訪れたのに祈願もせず、深呼吸したりのほほんと島の猫たちと戯れたりして、再び唐津行きの船にそそくさと乗り込んだ。

私が宝当の神様の前で柄にもなく殊勝に振る舞ったからといって、欲望が霧散したわけではない。一時はああした心境になったけれど、宝くじは当てたいし、安楽な暮らしを切望している。生きるとは、そういうことだ。人生が続く限り、欲望や夢は尽きない。神様はそんなこと、すべてお見通し。よきように計らってくださる。

ご縁を頼りに、生きていく


果たして、高島から戻って1ヵ月もしない頃、ある知らせが届いた。なんと、私の大切な思い出を綴ったエッセイが、とあるコンテストの特選作品として選ばれたのだ。

それは長年願い続けた密かな夢。当時の私には、宝くじが当たるよりも嬉しく、突っ伏して泣きたいほどありがたいことだった。私はすぐに、高島のお社あてにお礼の手紙をしたためた。

あれから16年。68歳を迎えた私は、変わらず結婚歴はなし、子どももなし。まさに天涯孤独の人生を邁進中というところか。しかし、幸い健康に恵まれ、美味しいものを食べることもできている。

暇さえあれば大好きな《推し様》の応援に精を出し、さしたる悩みもないに等しい。人並みの女の幸せこそ得られなかったけれど、老後の日常を楽しんでいる。生かしていただける限り、生きていくだけだ。ご縁を頼りに、私なりにウキウキして。

まもなく私の《推し様》が某地で主演公演を行うので、久しぶりに遠征する予定だ。奇しくも、唐津はその地からほど近い。私は16年ぶりに高島を訪れるつもりでいる。玄界灘の海上には、あの日の帰途、船から望んだ幾筋もの天使の梯子が、また美しく降り立ってくれるだろうか。

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