「外国人にとって日本は安くてお得な不動産投資ができる場所」京都で進む<外国資本による買い占め><街並み破壊>の末路とは

2024年2月26日(月)12時30分 婦人公論.jp


コロナ禍を経た日本は再び「観光亡国」への道を歩んでしまうのかーー(写真提供:Photo AC)

新型コロナで減った訪日外国人観光客も今や急回復。日本政府観光局(JNTO)によれば、2023年10月の訪日客数は、コロナ流行前の19年同月を既に上回ったそう。しかしその急増により、混雑などのトラブルが再び散見しています。「オーバーツーリズム」という言葉も今や広く知られるようになりましたが、実際その影響に悩まされている日本に足りないものとは? 作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリスト・清野由美氏が建設的な解決策を記した『観光亡国論』をもとに、その解決策を探ります。

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京都の「町」を買い進める外国人


京都の町中ではこの数年、驚くべき事態が進んでいました。筆頭が、外国資本による「町」の買い占めです。

2018年には中国の投資会社「蛮子投資集団」による買収が話題になりました。当時のNHKの報道によれば、同集団は半年間に120軒もの不動産を買収したそうです(『かんさい熱視線』、18年6月29日)。

外国人が京都を好んで買い求めていたのはなぜでしょうか。

大前提として、続く観光ラッシュと、2020年東京オリンピック・パラリンピックなどをきっかけに、観光地の土地の需要と価値が高まっていた、という事情もあるでしょう。

その一方で、円安の状況が続いているため、外国人から見れば割安感がある、ということも考えられます。また日本は東アジアで珍しく、外国人が不動産を所有できることも大きいでしょう。

それらの要素は、地理的な距離が近い場所にいる中国人にとっては、とりわけ有利に働きます。経済発展とともに上海や北京など大都市では不動産の値上がりが激しく、もはやその価格は東京を凌ぐようになりました。ニューヨーク、サンフランシスコ、パリ、ロンドンなど欧米の主要都市も同じ状況です。

また、2019年以降、欧米ではユーチューバーの影響もあって、日本の古民家ブームが起こり、京都と東京近辺をはじめ、全国各地で欧米人が古民家を探して購入しています。今まで二束三文でも売れなかった地方の古民家を売買する“古民家”専門の不動産業者も目立ってきています。

要するに、日本は外国人にとって、「安くてお得な」不動産投資ができる場所になっているのです。

コロナ前の2018年から20年にかけて、国土交通省が発表する公示地価では、北海道のニセコ周辺と京都市内が大幅な地価上昇率を示しました。京都市内はもちろんのこと、ニセコはスキーリゾート地として外国人観光客に大人気の土地です。

京都の不動産を狙うのは、外国資本だけではありません。京都の市街地では、風情ある町並みの中に、内外の業者が安手のホテルを建設するパターンも増加しています。

町家保存から町家破壊へ


アレックス・カーが京町家を一棟貸しの宿に改修する取り組みを始めた2000年代初頭は、まだその価値が見出されておらず、町家は次々と取り壊されていました。

そのような事態を、ただ手をこまぬいて眺めるだけでなく、新しい仕組みを作って運用することで、町家と家並みを救いたいと考え、一つ一つ法律や規制をクリアしていきました。


『観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ)

やがて町家の宿泊施設転用は一つのムーブメントになり、京都ではその後、数百軒以上の町家が宿泊施設として再生されました。

しかしこの数年で流れは逆行し、今は町家を残すより、小さなビジネスホテルを建設することの方が活発化し始めました。これまでは空き家になった町家跡にコインパーキングが乱造されていましたが、今ではそれが立体化してホテルが建設されるようになったのです。

つまり足元の観光ブームが、町家保存から町家破壊へと、さらなる転換を促しているのです。

町並みは不動産原理に則って急速に破壊される


京都市にも古い民家の保存をうながす規制はあります。しかし重要文化財級の町家であっても、それを守り抜くような断固とした仕組みにはなっていません。

たとえば2018年には室町時代に起源を持つ、京都市内でも最古級という屈指の町家「川井家住宅」が解体されました。オーバーツーリズムが問題になる以前は、不動産業者は古い町家には目もくれませんでしたが、そこの土地がお金になると分かった途端に、町並みは不動産原理に則って、急速に破壊されていきます。

業者は通常よりも高い稼働率と、短い投資回収期間で宿泊施設の事業計画を作り、調達した資金をもとに、次々と町家を買い漁っていきます。

当然のことながら、事業で最も重視されるのは利回りであって、町並みの持続可能性や、住民の平和で健全な生活ではありません。

「観光」を謳う京都のいちばんの資産とは


京都は商業地と住宅地がきわめて近いことが特徴で、それが京都のそもそもの魅力になっています。名所に行く途中に、人々が日常生活を営む風情ある路地や町家が、ご近所づきあいというコミュニティとともに残っているのです。

しかし、地価の上昇は周辺の家賃の値上がりにつながります。土地を持っている人であれば、固定資産税が上がります。観光客は増えていても、京都市は高齢化が進んでいますので、住民はそのような変化への対応力を持っていません。家賃や税金を払いきれずに引っ越す人が相次げば、町は空洞化し、ご近所コミュニティはやがて町並みとともに崩壊していくことでしょう。

「観光」を謳う京都のいちばんの資産は、社寺・名刹とともに、人々が暮らしを紡ぐ町並みです。そしてそれを守るという意味では、観光産業の「マネージメントとコントロール」の姿勢が、切実に求められるようになります。

古い町並みは、純粋な市場原理に任せていると、たちまちダメになります。古い町並みが消失したら、観光地としての京都の魅力も失われてしまう。

実際、欧米の多くの歴史都市は、はるか以前にそのような危機感をもとに、乱開発に規制をかけてきました。残念ながら、京都を始め、日本のほとんどの町は生ぬるい景観条例はあるものの、観光ラッシュの時代に対応できるシステムができていません。

「立国」か「亡国」はマネージメントとコントロール次第です。文化都市の歴史と観光産業のニーズを踏まえ、バランスのとれた法律があれば、町並みの劣化と不動産急上昇はある程度防ぐことができます。

しかし、現在の京都では残念ながらそれができていないので、観光産業における自身の最大の資産を犠牲にしていると言わざるを得ないのです。


現在の京都は、観光産業における自身の最大の資産を犠牲にしている(写真提供:Photo AC)

※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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