『ブラッシュアップライフ』『テレビ報道記者』小田玲奈P、特別な才能と向き合う覚悟「生半可な思いではできない」

2024年3月5日(火)6時0分 マイナビニュース

●どうしたら“楽しく”ドラマが作れるか
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、日本テレビでドラマ制作を手がける小田玲奈プロデューサーだ。
23年1月期に放送された『ブラッシュアップライフ』で数々の賞を受賞し、3月5日に放送される開局70年スペシャルドラマ『テレビ報道記者 〜ニュースをつないだ女たち〜』、そして4月に新シリーズとしてスタートする『花咲舞が黙ってない』と話題作を立て続けに手がける同氏。ドラマ制作10年というキャリアを重ねる中で感じる脚本家・主演俳優・原作者、さらには制作チームとの向き合い方について、その覚悟を語ってくれた——。
○“地元系”でも海外を意識した『ブラッシュアップライフ』
——当連載に前回登場したTBSスパークルの新井順子プロデューサーが、小田さんについて、「『家売るオンナ』をやるために家を買ったとか、子どもができてすぐ離婚したという話を聞いて、ぶっ飛んでるなと思いました(笑)」とおっしゃっていました。
『アンナチュラル』しかり『MIU404』しかり、その時代を代表するドラマを作っている方が指名してくれたんだと喜んでいましたが、ぶっ飛んでるヤバいやつだからなんですね(笑)。それはともかく、同世代で活躍されているプロデューサーの存在は励みになる、と表向きには言いますが、気持ち的には敵視しています(笑)。以前、一緒に取材を受けたときに聞いたことが忘れられなくて、すぐ持ち帰って参考にしました。
——それはどんなことですか?
『アンナチュラル』は米津玄師さんの「Lemon」が主題歌でしたが、台本の段階で曲のかかるタイミングを決めているから、そのあたりにはあまりセリフを入れないようにしている、と。自分のドラマは最後のほうでも結構しゃべっていて、主題歌が聴こえなくなっちゃうことをやりがちだったので、本打ち(脚本打ち合わせ)で「ここらへんから主題歌入ってきますもんね」みたいなことを言い出すようになりました。
——『ブラッシュアップライフ』は、毎話その回の内容に沿った当時のヒット曲がとても印象的にエンディングで流れていましたが、その影響ですか?
そこはまた違う経緯なんです。いろんな時代を描くから、主題歌を現代の1曲が背負うことは難しいということで、「主題歌なし」にしたのですが、1話のときに「ポケベルが鳴らなくて」を主題歌みたいに最後にかけたらハマった(※)ので、2話でも槇原敬之さんの曲を提案したら、監督に「うまくいくかもしれないけど、2話もやったら最終回までずっとやらないといけなくなるよ?」と言われて。それでも「やっちゃえ!」って進んだのですが、そこまで考えて脚本も作っていないから、やっぱり結構大変で(笑)。だから、計画的な新井さんと違って、私は本当に行き当たりばったりなんです。
(※)…第1話では、主人公・麻美が保育園時代、洋子先生と不倫しようとしていた玲奈ちゃんパパをポケベルで脅迫して阻止した。
——みなさんそれぞれのスタイルがありますから(笑)。新井さんも『ブラッシュアップライフ』を楽しんでご覧になっていたそうですが、放送から1年経って国内外で賞を獲りまくってますよね。
おかげさまで、本当にありがたいです。
——ただ、「地元系タイムリープ・ヒューマン・コメディー」と銘打った作品が海外でもウケるというのは、想定されていましたか?
実は、元から海外に向けて作ってはいたんです。向田邦子賞の脚本家のバカリズムさんがいて、世界的に活躍する安藤サクラさんという主演がいるのだから、台本では“地元”で起こるささやかな日常を描いているけど、撮影機材は映画で使うようなカメラを使って、世界クオリティものを作ると会社にも言っていました。正直「大丈夫かな?」とも思っていましたが、「懐かしい」という感想を海外からも頂けたんです。例えば『ストレンジャー・シングス』(米Netflixドラマ)も1980年代の地方都市が舞台ですが、私たちはその“地元”をよく知らないし、そこのカルチャーも体感してないけど、やっぱり懐かしい感覚があるじゃないですか。そこは、バカリズムさんとも最初から話していましたね。
——行き当たりばったりじゃなくて、計画的じゃないですか!
バカリズムさんと監督が計算してくれたので(笑)
○子どもができて「急に人生のゲームが難しくなった」
——小田さんはどのような経緯でドラマ制作を目指したのですか?
三谷幸喜さんがすごく好きで、三谷さんみたいな脚本家になりたくて、同じ日本大学芸術学部(演劇学科・劇作コース)に通って、4年生のときに映画会社や制作会社に電話して脚本家になりたいと言ったら、「そういう雇い方はしてない」と言われて。だったらテレビ局に入ってコネを作ればなれるんじゃないかと思って日テレに入ったんですけど、ドラマに行くまで10年かかりました(笑)
——入社されて、最初は情報番組、そしてバラエティを担当されていました。
ドラマをやりたいことを忘れちゃうくらい、すごく楽しかったんです。それで、最初に連ドラをやった『家売るオンナ』で大石静さんとご一緒させていただいたのですが、脚本家って思った以上に偉大で、そして孤独で…。すぐに自分がなろうなんて気持ちはなくなりました。
——あれほど夢見たのに、すぐに諦めてしまうほど大変そうな仕事だったと。
大石先生ほどのベテランが、円形脱毛症になるほど悩み苦しみながら書いていたんですよ。「連ドラを作るのは、子どもを1人産むくらい命を削っている」と言うほどシンドい仕事なんだということを、『家売るオンナ』の本打ちで2人きりになったときに教えてくれて。脚本家と向き合うのには、相当の覚悟がいるということを、最初の連ドラで学ばせてもらいました。
それと同様に、『家売るオンナ』の主演の北川景子さんが、現場では楽しく振る舞っているけど、裏ではものすごくもがきながら、大変なプレッシャーの中でやってくださっているのを感じました。それは、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』の石原さとみさん、『知らなくていいコト』の吉高由里子さん、『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』の菅野美穂さん、『恋です! 〜ヤンキー君と白杖ガール』の杉咲花ちゃん、『悪女(わる) 〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?』の今田美桜ちゃん、『ブラッシュアップライフ』の安藤サクラさん……年齢やキャリアにかかわらず、全身全霊で向き合っている感じが伝わってくるんです。
——脚本家さんと同じように、主演のみなさんも削っているものがあるんですね。
そういう意味でいうと、4月期の『花咲舞が黙ってない』では原作の池井戸潤先生ともやり取りをしていて、池井戸先生なんていつか教科書に載る人だと思うとメール1件送るのも緊張してしまうのですが、実際にお会いするとすごく話しやすい、気さくな方で。それでも、台本の銀行の描写に細かく鋭い指摘をしてくださるのを見ると、原作者として背負っているものがあるんだと感じます。
だから、脚本家、主演俳優、原作者といった特別な才能を持った人たちと私たちプロデューサーの向き合い方というのは、本当に難しい。生半可な思いではできないんだと改めて感じます。そのことを、私は最初に大石さんに教えてもらったのが、すごく大きいです。
——プロデューサーとしてのご自身のドラマへの向き合い方は、キャリア10年を振り返っていかがですか?
ドラマを作るのは、本当に大変だなと毎回思いますし、いつもドッタンバッタン大騒ぎという感じを、ずっとやってますね。慣れてきて楽になるなんてことはなくて、やればやるほどいろんなことが気になるようになるんです。『ブラッシュアップライフ』で、バカリズムさんの脚本の作り方とか、安藤サクラさんのお芝居へのアプローチの仕方が、これまでの作品と全然違くて、次の作品でこだわりたいことが増えてしまって…。そういうのがどの作品でもあるので、「あれもやんなきゃ! これもやんなきゃ!」ってなって、言葉を選ばずに言うとやればやるほどシンドくなるし(笑)、奥深さを感じていますね。
——そこにずっとハマり続けているんですね。
そうですね。それと、自分に子どもができたことで、それまでは仕事にいくらでも時間をかけられたのに制限ができて、急に人生のゲームが難しくなった感覚があって。そこに、コロナがあって働き方が変わったり、新しい価値観を持った後輩が入ってきたりして、面白いドラマを作るのは大前提として、その上でどうやったら、どんな働き方だったらみんなが “楽しく”ドラマを作れるんだろうというのが、今一番のテーマになってます。
●報道記者を取材して「とんでもない原作を見つけた!」
——ドラマ制作における働き方を考える中で、今回プロデュースを手がけるスペシャルドラマ『テレビ報道記者〜ニュースをつないだ女たち〜』の発表の際のコメントでは、「お仕事ドラマです」と紹介されていました。
リアルなものを出す面白さを『ブラッシュアップライフ』で実感したので、それに今回も挑んでいます。まずは実際にあった事件が劇中に出てくることに興味を持ってもらいたいと思っていますが、実はすごく“お仕事ドラマ”なんです。なので、芳根京子さん演じる和泉という新人記者の働き方と、私世代の働き方をしてきた江口のりこさん演じる真野という2人が、初めは価値観の違いに戸惑うんだけど、だんだん歩み寄っていくというところも、見どころの一つです。
——今回の作品に、小田さんは途中から参加されたんですよね。
私にとってイレギュラーな形なのですが、もともと日本テレビ開局70年の企画募集で、報道局のメンバーが出した企画なんです。バラエティ出身の報道の先輩から「実際に起きた事件を描きながら、そこに向き合ってきた女性記者たちをドラマにしたいんだけど、興味ない?」と誘われて、“女性の働き方の変化”にちょうど興味があったので参加したのですが、気づいたら船頭になってて(笑)
——他にドラマ制作の人はいなかったんですね(笑)
アドバイザーぐらいの気持ちで入ったんですが(笑)。でも、日本テレビの報道記者たちに取材を始めて、最初に日本テレビで最初に女性記者になった笹尾敬子さん、その後にコメンテーターでおなじみの下川美奈さん、同世代の森田陽子さんの話を聞いて、すごく面白かったんです。昔の働き方は今からすると想像を絶するし、今でも「遊軍」とか「1番機、2番機」とか軍隊用語を使っていて、私もドラマ部で一生懸命働いているつもりだったんですけど、もっとヤバい…いえ、すごい人たちがいたんだなと思って。
特に、下川さんを取材したのは一昨年ちょうど下川さんが女性初の社会部長になったときだったんですけど、警視庁記者クラブのキャップというハードな役職に子育て中で時短勤務の森田さんを任命したという話を聞いたんですよ。以前、2人は一緒に警視庁クラブにいた時期があるので信頼関係があって、「皆で助け合えば子育てしながらでもキャップもできる…そんなチームにしたい」という話を行きつけの焼肉屋さんでしたというのを聞いて、「とんでもない原作を見つけた!」という気持ちになったんです。
——取材からドラマにしたエピソードで、他に印象的なものは何ですか?
若い社員を取材した時に、仕事を家に持ち帰る人に対して、「ずる働き」していると表現していて。分かります? 勤務時間外に働いたことが評価につながるのは公平ではないってことだそうです。自分にはない発想で即採用(笑)。この作品は“働き方の変貌”というテーマで面白いドラマになると確信した瞬間でした。
——小田さんは「お仕事ドラマ」と捉えましたが、もともと企画した報道の人たちと、その部分での意思統一はスムーズにいったのですか?
取材対象の方を紹介していただいたり、脚本も細かく相談したりしているのですが、ドラマの目線でどういうストーリーにしていくかというところは、結構お任せしてくれました。
——報道と一緒に作っているのを象徴するのは、日テレ本社の本物の報道フロアで撮影されていることですよね。24時間365日稼働している場所で、どうやって撮影したのですか?
土日が比較的に出社する人が少ないと聞き、毎週末かなり広い範囲を借りて撮ってました。もちろん、緊急のニュースがあったら急きょ撮影NGになるという前提で。通信社からの速報音がしたら撮影を止めて、しばらく待ってまた撮り始めるなんてことは、ざらにありましたね。それでも、あそこではないと撮れない画があるし、ニュースが入ったときに報道の人たちが一斉に動く姿を見て、みんなで勉強したりしていました。
○自分たちの讃歌になるようなドラマには絶対しない
——近年は「マスゴミ」と揶揄(やゆ)されることもある中で、報道記者にフォーカスを当てたドラマの描き方というのは、相当議論されたのではないでしょうか。
そこは相当しましたね。立ち上げのときから一番意識しているのは、レジェンド女性記者の武勇伝にするのは絶対にやめようということ。何度もミスして、悩んで、それでも毎日働く、普通の人たちの姿を描こうと。「マスゴミ」と言われるような行動に疑問を持ちながら働いていることも伝える。それでもドラマを作っていると、主人公が誰かに褒めてほしいところがあるんです。ただ、この題材については、そういうのを入れると急にしらけるだろうなと思って極力やめています。
——最近、『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ)というテレビ報道への自己批判的な要素を持ったドラマもありましたし。
そうなんです。だから、「テレビ報道ってすごいんだぞ」とか「日テレってすごいんだぞ」と、自分たちの讃歌になるようなドラマには絶対しないという思いで制作しました。
ただ本心では、報道の人たちを取材して、なんなら報道の人たちってお堅いイメージで苦手だったんですけど、カッコイイなと思いました。そして、仲間なんだって思えるようになりました。このドラマのキャッチフレーズ【私は諦めない。先輩が諦めなかったから。】…とても気に入っていて、お守りみたいに大事にしています。ツラい時、このフレーズと一緒に思い浮かべる先輩たち…ドラマや情報バラエティの人に加えて、報道の人の顔も浮かび、ここで、日テレで、頑張ろうと勇気が出ます。
——ちなみに、劇中に懐かしの日テレのキャラクター「なんだろう君」のぬいぐるみが出てきますが、よく残ってましたね(笑)
あれは時代を映すものなので、小道具として結構こだわったんですよ。すぐ宣伝部に「持ってない?」と聞いたらデカいサイズしかなくて、社員の人に聞いて回って入手しました。下川さんの実家にあったものです(笑)
●三谷幸喜に憧れ…気づいたら現代の天才と仕事をしていた
——ご自身が影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとすると、何ですか?
これは圧倒的に、三谷幸喜さんの『王様のレストラン』(フジテレビ)です。高校生の頃、彼氏にフラれて家に帰って見て…大笑いしたんですよ。それがすごいなと思って、ここからテレビドラマにハマっていきました。私、無痛分娩で子どもを産んだんですけど、長時間かかるから分娩室で好きなDVDを見ていいと言われて、家から『王様のレストラン』を持って行ったんです。そしたらツルッと産まれちゃって見られず、そのあと入院中にずっと見てました(笑)
——憧れの三谷さんとお会いしたことはあるのですか?
情報番組のときに取材で一度お会いしただけですね。もちろん、ドラマ制作でご一緒したいという思いはありますが、実際にやってしまったらどうなってしまうんだろう…という不安もあります。ただ、この前『ブラッシュアップライフ』をやった時に、SNSでバカリズムさんのことが三谷さんや宮藤官九郎さんに負けないコメディー脚本家だと称されているのを見て、気づいたら現代の天才とお仕事できているんだなと、ふと感慨深くなりましたね。
——いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…
『テレビ千鳥』をやっている山本雅一さんです。昔『ネプ&イモトの世界番付』という番組で、ロケディレクターをやっていた仲で、一緒にロケに行くことはないんですけど、スタジオ収録のときに誰のVTRが一番お客さんの笑いを取れたかという感じでライバル視していました(笑)。その後に飲みに行って「あのVがウケてた」「あれがスベってた」とか、ロケ先で起きた話とかで盛り上がるので、私がドラマに異動するのが遅くなったのは、あの時間が楽しすぎたからだと思ってます(笑)
あれから10年。マサはテレ朝に中途入社。「いかがお過ごしですか?」と聞きたい(笑)。子どもが『テレビ千鳥』が好きで、TVerとかで「だいご、だいご」って言いながら見てるんですけど、そのたびに誇らしい気持ちになります。
次回の“テレビ屋”は…
『テレビ千鳥』プロデューサー・ディレクター 山本雅一氏

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