桐谷健太、真剣に悩んだ末に見つけた答え「無垢な自分のなかにパーフェクトな世界がある」

2024年3月12日(火)7時0分 マイナビニュース

●懐の深い作品になっている
人間の心の暗部を描くイヤミスの名手のひとり、真梨幸子原作のダーク・ミステリー『連続ドラマW 坂の上の赤い屋根』(WOWOWプライム全5話 毎週日曜 22:00〜※WOWOWオンデマンドで第1話無料配信中)が、WOWOWで放送・配信中だ。
物語は、新人作家が18年前の"女子高生両親殺害事件"をモチーフにした小説の企画を、出版社の編集者に持ち込んだことから始まり、やがて登場人物たちが抱える過去など"黒い感情"の正体と事件の真実が明らかになっていく。
主人公の轟書房編集者・橋本涼を演じるのは、今からちょうど10年前にWOWOWで放送されたドラマ『埋もれる』でも主演を務め、その後も数々のドラマや映画、CMにおいて、俳優&歌手として幅広い活躍を見せている桐谷健太。橋本の役作りや本作の見どころと共に、自身の原点と10年前を踏まえた上で考える、"桐谷健太のいま"について聞いた。
——企画書を読んでどんな印象を持たれましたか?
すごく魅力的で刺激的な企画だと感じました。自分が橋本役を生きるとどうなるのか、。すごく興味が湧きました。読んですぐマネージャーに電話して、「これやりたいね」って話をしたのを覚えています。見る人によって見え方が変わってくるストーリーとで、どこか「羅生門」や「藪の中」みたいなエッセンスも香るというか。一言に"心の闇"と言っても、人によって受け取り方は様々で。どこか懐かしい感覚というか、なかには親近感を覚える人もいると思うんです。残酷な描写もありますが、衝撃的なビジュアルで観客を惹きつけるだけではなく、そこにちゃんと心理描写や必然性があるから思わず見入ってしまうんです。
——具体的にどのように役作りをしていかれたのでしょうか?
台本から感じ取った"橋本の過去"に対する解像度を自分なりにどんどん上げていく中で、身体に染み込ませていった感じですね。橋本の本来の姿を、ある場面まで一切見せない方向性でいくか。それとも、見る人が見たらところどころ何かが引っかかる、微かな違和感を抱くかもしれないけど、気づかない人は気づかない…くらいのニュアンスで進めるか。僕は今回は後者のパターンで臨みたいなと思ったので、衣装合わせの際に監督に相談してみたところ、監督もそのプランに同意してくださって。今回はそこがカチッとハマったので、非常にやりやすかったですね。
——橋本は出版社の副編集長役ですが、職業的な意味で何か役作りをされた部分はありますか? 桐谷さんといえば、高校生の頃、ご自分の写真を表紙にして、「MEN'S NON-NO」ならぬ「KEN'S NON-NO」を作っていたという逸話も有名ですが(笑)。
一口に編集者といっても、いろんな方がいらっしゃるじゃないですか。 それより僕は「なぜ橋本は出版社という世界に入ることを選んだのか?」というところに着目して、台本から読みとれる彼の過去の出来事や、あったであろうことを想像しながら、自分なりに掘り下げていった感じですね。
——なるほど。クセの強いキャラクターが次々登場するのも、本作ならではですよね。
橋本からすると、日常生活で関わっていく人たちを、生身の人間としてではなく、ある種、小説の中の登場人物として見ているような気が僕はしたんです。「自分の人生を1つの物語にしてしまおう」といった思いが、彼の心の奥底にはあったのかもしれないな、と。もちろん人生において何が起きるかは誰であっても想定できないですが、きっと何が起こったとしても、彼はそれに順応していける人間だったんだろうなという印象があります。
——桐谷さんは「イヤミス」と呼ばれる本作の魅力をどんなところに感じましたか?
人間だけが、何事に対しても、「良い悪い」を決めてしまうところがある気がするんです。「心の闇」=「あってはいけないもの」といったように。でもこの作品の中では、そこを決めつけない。知らないうちに巨大な渦の中に巻き込まれてしまっている人たちの姿を、ドラマとして客観的に見られる、懐の深い作品になっているんじゃないかと思いますね。
●自分の中にスッと入ってきた感覚は大切にしたい
——桐谷さんから発せられる言葉には、人間的な深みが感じられる気がするのですが、これまで演じてきた役柄を通じて、他者や自身を見つめる多角的な視点が培われた結果、熟成されたワインのような"桐谷健太像"が出来ているのか。それとも、天性のものなのか。お話を伺っていて、非常に興味が湧いてきました。
それは、どちらもあるんでしょうね(笑)。ただ一つ言えるとしたら、自分の中に湧き上がる"直感"みたいなものは、僕はすごく大事にしているかもしれません。こうやって取材を受ける際の言葉選びも、自分が感じたことをなるべくそのままスパッと言うようにしていますし。それは、これまで僕自身がいろんな経験をしてきたことからくるものなのか。逆に、今までの経験は直接的には関係なくて、でもそのおかげで心の扉が開いた状態で言葉が出るようになったのか。そこはちょっとよくわからないですけど、自分の中にスッと入ってきた感覚をどんな時でも大切にしたいなとは思っているんです。
——今回の橋本を演じる上では、桐谷さんの「直感」はどんな作用を及ぼしましたか?
橋本の場合は、見た目に鋭さを出すより、むしろちょっとムチッとしていた方が奇妙な感じが出せるかもしれない…と思って、身体を大きくしてみたんです。今回はそれが自分の頭にスコンって入ってきて。
——今回、桐谷さんは原作を読まれていないとのことでしたが、結果的に原作の橋本像とどこかシンクロしているのも興味深いです。意識して寄せたわけではなく、あくまでもご自身の直感を大事にしながら役を育てていかれたと。「橋本という人物は他人から見ると得体の知れない、何を考えているか分からない男ですが、そこにはやはりタネがありました。そのタネを辿りながら、橋本という木を育てました」という表現も印象的でした。
僕の場合、作品や台本によっても役へのアプローチの仕方はまったく違っていて。直感的に「この役はこうだ!」とわかる役もあれば、どれだけ台本を読んでも全然理解できなくて、衣装合わせで衣装を着た瞬間に「あっ!」と掴めることもある。かと思えば、動物が出てくるときもあったりするんですよ。
——動物ですか!?
「この役って、人間の皮を被ったトカゲみたいやな」とかイメージが下りてくることもあって。別にトカゲが悪いとかじゃないんですけどね。あとは「友達のあいつに似てるな」みたいなケースもあったりします。今回の橋本みたいな役の場合も、もしかしたら自分が気付いていないだけで、昔どこかで一緒になったことがあるかもしれないですけど(笑)。「この人、口は笑ってるけど、目は全然笑ってないな」みたいな感覚も、別に直感ではなくて、脳内のどこかにある記憶からピュッとやってきてる可能性も無くはないですけど。
——「直感とは、まだ言語化できていない経験則」とも言われますからね。
でも「あいつは二面性がある人間だ」みたいなことって、意外と人のことを見ているようで、実は自分自身をその人の中に見ているだけなんじゃないか、という気もするんです。
●削っていったその先にあるもの
——そういう意味では、今日こうして桐谷さんと初めてお会いしてみて、「これまで自分のなかにあった"桐谷健太像"って、何だったんだろう…?」と思わされました。でもよく考えてみたら、桐谷さんが役者の仕事を目指したきっかけも、"天啓"に近かったわけですよね? 5歳の時に『グーニーズ』を観て、「スクリーンの中に入りたい」と思われたそうで。
そうですね。まさに言語化できないから、「スクリーンに入りたい」と思ったんでしょうね(笑)。ただ、文字通り「電撃が走る」というか、「ビビビっと来た」というところから始まっているので、そこに嘘は介入できないんですよ。自分よりちょっと年上ぐらいの少年たちが、スクリーンの中で冒険しながら、すごく楽しんでいるような感じがする。「彼らはそういう職業の子たちなんだ」というのもなんとなくわかる。きっと子どもながらに、「あの中に入れば、自分が好きなものが全部そろっている!」と感じたんじゃないかと。
——桐谷さんは子どもの頃の夢を叶えられたわけですが、実際にスクリーンやテレビ画面に入ってみて、「こんなはずでは…」と感じたことは、これまで一度もなかったですか?
もちろん昔はありましたよ。子どもの頃は誰よりも目立ちたいと思っていたはずなのに、気づいたらどこかにいけば「あれ、桐谷健太じゃない?」みたいな感じで、周りの人たちから気づかれるようになってきて、「この仕事って、自分が頑張れば頑張るほど自由がなくなるのか…?」みたいなことを、いろいろ考えてしまった時期もありました。贅沢な悩みかもしれませんが、当時は真剣に悩みました。でも、結局は、すべて自分自身の考え方や、感じ方次第で、どうとでもなるんだと気づいてからは、すごくラクになりました。
——そのお話、もう少し詳しく伺いたいです。
人生は前にしか行かないって事に気づけたこと。すべては一回きりの人生の愛しい出来事、自分次第、捉え方で感じ方がどのようにでも変わる事。そしてそれまでは、「足して、足して、足していったところに、100点のパーフェクトの世界がある」と思い込んでいたんですけど、ある時、「いや、余分なものを削って、削って、削っていったその先にある、無垢な自分のなかにパーフェクトな世界があるんや…!」って、腑に落ちた瞬間があって。子どもの頃に「キラキラしているな」と憧れた世界にオレはこうして実際に身を置けているわけだから、「思う存分楽しまないとな。めいいっぱい楽しみながら生きていこう」と思うようになってから、自分ではそれまで想像すらしていなかったような面白い企画や役が、新たに入ってくるようになって。いまは、自分の可能性の幅をさらに広げていけているような感覚がありますね。
——なるほど。そうだったんですね。
事務所の社長からも、「健太が頑張ってギリギリ手を伸ばせば届くような役をずっと振ってきたつもり」だと言われて、納得したことがあるんですが、確かに後から振り返ってみると、いつも簡単に打てる球ではなくて。その時の自分の幅が何か一つ広がらないと打てないような、そんな球ばかりだった。それをずっと繰り返していたらここまで来られた、みたいなところもあるんです。特に40代に入ってからは、これまでのパブリックな"桐谷健太"のイメージとは違う役も入ってくるようになってきて、益々やりがいを感じています。それこそ僕の中には、『グーニーズ』に憧れていた子どもの頃の自分がタイムスリップしていまの僕を見に来た時に、「うわ、めっちゃすげえやん!」「カッコええやん!」って、目を輝かせて喜んでくれるような俺じゃないと、意味がないという気持ちもあるんです。
——なるほど。それはとても素敵な考え方ですね!
このドラマの登場人物たちも、それぞれに得体の知れない怪しさが漂ってはいますけど、結局はその人が「日々何を選び、どう生きているか」ということが、その人自身の人生を形づくっているんですよ。「あいつのせいや」じゃなくて、「あいつのせいやと思う自分」を選んでいるんですよね。「あいつのせいじゃない。俺はもうすべて忘れて生きていく」という道も選べたはずなのに。「選ぶ自由は、誰しもが持っている」ということなんです。

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