日テレが33年の伝統枠「水曜ドラマ」まさかの撤退 なぜ“ドラマ枠の競合”に対する姿勢が一変したのか

2024年3月13日(水)11時0分 マイナビニュース

●増設ではなく移動を選んだ
今春の改編の中で目を引いたのは、日本テレビが33年続いた「水曜ドラマ」(22時台)を終了させ、土曜21時台にドラマ枠「土ドラ9」の新設を発表したこと。これにより日テレは「土曜21時台、22時台とドラマ枠を連続放送する」という編成戦略を選んだことがうかがえる。
その背景として見逃せないのは、2年前の22年春にフジテレビが水曜22時台にドラマ枠を新設したこと。ただでさえ平日の視聴率獲得が難しい中、フジの参戦でドラマ枠が競合し、リアルタイム視聴者を食い合っているような感があった。だからこそ、「全曜日の21時台・22時台で唯一のドラマ空白時間帯だった土曜21時台に移動させて、放送中の22時台と連続放送したほうがドラマ好きに2作続けて見てもらえるのではないか」という日テレの狙いは理解できる。
それでも気になるのは、ドラマ枠の増設ではなく移動を選んだこと。この2年間、フジが水曜22時台と金曜21時台、テレビ朝日系(ABC制作)が日曜22時台と、ゴールデン・プライム帯にドラマ枠を増設していた。配信を含めドラマというコンテンツが民放各局の今後を左右するキーコンテンツとなる中、「日テレは増設ではなく移動を選んだ」という事実に気づかされる。
日テレのドラマ枠移動にはどんな事情や思惑が考えられるのか。さらに、ドラマ枠の競合や2作連続放送をめぐる現状をテレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○過去に日テレが三度フジに勝利も…
2010年代、日テレは常に視聴率争いのトップに君臨し、しかも他局に先駆けてスポンサー受けのいいコア層(主に13〜49歳)の個人視聴率獲得に向けた番組制作を行っていた。
同局はマーケティングに基づくシビアな編成を行うことで知られ、だからこそ連続視聴が難しく、録画されやすいドラマではなく、リアルタイム視聴されやすいバラエティ偏重の編成戦略を採用。そのためドラマでは、昭和時代からシーンをリードしてきたTBSとフジ、シリーズモノで手堅く数字を獲るテレ朝のような支持を得られていなかったが、バラエティで圧倒していたため何の問題もなかった。
しかし、放送収入の低下が止められず、配信視聴の高収益化を進めなければいけない状況になり、民放各局におけるドラマの重要性が急激にアップ。各局がドラマ枠を増設し、オリジナルの大作を手がけるなどの積極策を採る中、日テレのドラマは視聴率、配信再生数ともに苦戦傾向が続いていた。
加えて22年春にフジが水曜22時台にドラマ枠を新設し、日テレの水曜ドラマと競合。今春までの2年間、「水曜22時台は民放ドラマが唯一100%かぶる時間帯」という苦況が続いていた(日曜22時台は23年春からテレ朝系22時〜と日テレ22時30分〜が30分間重なる)。
しかし、それでも日テレの水曜ドラマは、TBSの日曜劇場、フジの月9と並ぶ、局を象徴するドラマ枠。一方のフジは、これまで91〜92年、98〜99年、13〜16年の3度も日テレの水曜ドラマに戦いを仕掛けつつ、すべて撤退を余儀なくされた歴史があった。業界内では「4度目の挑戦となった今回も撤退するならフジのほうだろう」とみられていただけに、日テレの土曜21時台への移動に驚いている他局のテレビマンは少なくない。
しかも日テレの「21時台、22時台にドラマ枠を連続させる」という編成は、21年から現在までフジテレビの月曜21時台・22時台(カンテレ制作)で行われている戦略の踏襲。当初は「ただでさえリアルタイム視聴が減ってきているのにドラマを2時間連続で見てもらうのは難しいだろう」と見られていたが、一定の成果をあげていることで「日テレがフジを模倣した」と見られても仕方ないだろう。
●ドラマ枠競合で苦汁をなめてきたフジ
今春、水曜22時台の戦いで日テレを撤退させ、月曜21時・22時の編成を模倣される立場のフジには、もう1つ苦しい過去があった。
2010年代中盤、火曜22時台(カンテレ制作)で後発のTBSに戦いを仕掛けられて低迷し、火曜21時台に移動したがうまくいかず、月曜22時台に再移動。一方、TBSの火曜22時台はフジが撤退したタイミングで『逃げるは恥だが役に立つ』が放送されて人気ドラマ枠としてのベースが築かれた。フジは水曜22時台でも、火曜22時台でも(さらに言えば日曜21時台も含め)、「ドラマ枠の競合で苦戦し、撤退する」という負の歴史を繰り返していたが、今回は視聴率だけでなく配信再生を含む判断によって同じ轍(てつ)を踏まなかったことになる。
これまでは競合すると撤退する側だったフジが踏み留まり、踏み留まる側だった日テレが撤退。さらにフジの編成を踏襲するという、これまでの日テレならありえない戦略であるところが示唆に富んでいる。
○■競合も連続も影響が少ない時代へ
気になるのは、日テレが局の看板枠を終わらせてまで今春から採用する「21時台・22時台にドラマを連続放送する」という編成戦略は、ポジティブなものとは言いづらいこと。これはリアルタイム視聴を最優先に考えられた編成戦略であり、TVerにおけるコネクテッドTV(ネット回線につなげたTV)の再生が3割・月間1億回に急増するなど、リアルタイム視聴者が大幅に減り続けている今、効果は限定的なものに留まる可能性が高い。
言わば、「21時台・22時台にドラマを連続放送する」という編成戦略は、「分母が小さくなる一方のリアルタイム視聴者をつかむものでしかない」ということ。「まだまだ放送収入と配信収入の格差が大きいため、減り続けているのを承知で前者を狙わなければいけない」という民放各局の苦しさが表れているのではないか。
現在、民放各局はTVerにおける新旧ドラマのキャンペーンをテレビ、ネット、街頭などで大々的にPRしている。しかし、スマホやタブレットだけでなくテレビ画面でTVerを見る人も増える中、民放各局の新旧250作が見られるキャンペーンを行えば、自らリアルタイム視聴者を減らしてしまいかねない。
つまり、少なくともドラマに関しては「視聴率が減る」というリスク覚悟でTVerを筆頭に動画配信サービスの利用推進を行っていることは間違いないだろう。その意味で、今後は「放送におけるドラマ枠の競合も、2作連続の編成戦略も、大勢に影響はない」という流れに向かっていくことが推察される。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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