『変な家』大ヒットの一方で“賛否両論”の理由と、直近の日本ホラー映画7作品から期待できること

2024年3月31日(日)21時15分 All About

ホラー映画『変な家』が大ヒット記録を更新中です。しかし、その評価は賛否両論。その理由を記しつつ、新たな可能性を探り、そして発見しつつある、2022年以降公開の日本のホラー映画7作品も紹介しましょう。(※(C)2024「変な家」製作委員会)

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ホラー映画『変な家』が大ヒットをしています。公開2週目の金土日の3日間で5億1900万円の興行収入をあげており、これは初週の4億7400万円を上回る成績。公開から10日間で累計15億円を突破しました。

若者を中心に集客し記録を更新中

このままのペースが続けば30億円突破も確実。2020年公開の同じく「家ホラー」の『事故物件 恐い間取り』の23億4000万円はもちろん、1999年公開の『リング2』の推定約40億円の興行収入(『死国』との併映で当時の記録は配給収入の21億円)をも超えるかもしれません。
そんな『変な家』の原作は、YouTube総再生回数が現在1900万回を超える人気動画および、書籍化された小説です。
だからこそ、SNS時代の今に「バズる」コンテンツの強さをひしひしと感じます。実際にTikTokをのぞいてみると『変な家』の関連動画は、ほかの映画作品とは桁違いの再生数やいいねの数になっています。
客層はやはり若年層が多く、筆者が見た時も10代から20代のカップルのほか、小学生ごろのお子さんが親と一緒に来ている姿も見かけました。若者へ見事にリーチした、マーケティングで見事に成功した例として、これからの映画の送り手が1つの参考にすることでしょう。

映画は「否定的な感想」が目立つ結果に

しかし、『変な家』の原作動画や小説版は高評価が多数の一方、今回の映画を実際に見た人からの感想は賛否両論、というよりも否定的なものの方が目立つ印象です。
(ホラー映画全般の点数が低くなりがちな傾向があるとはいえ)「映画.com」では2.4点、「Filmarks」では3.1点と、執筆時点ではレビューサイトでの評価も低め。原作ファンからの「期待はずれ」「原作の熱心なファンにはおすすめしない」といった厳しい声や、大人の映画ファンから「若者にはもっといい映画があると教えてあげたい」といった嘆きにも似た言葉も目にしました。
さらに、原作者の雨穴(うけつ)がX(旧Twitter)で、今回の映画の話題について触れていないどころか、「今『雨穴』という名前に関係して巻き起こってることに、私は興味もないし関係もないので心穏やかなものです」と投稿したことも話題に。
これは映画ではなく、パロディ動画を投稿しているYouTuberの「終わった人」を指しているという説もありますが、やはり原作者が映画へいい印象を持っていないのではないか、という見方もまた強くなっています。

映画としては明らかな難点も

筆者個人としての映画『変な家』の感想は、「映画をあまり見ないライト層を楽しませるためのサービス精神はいいし、嫌いではないけれど、特に物語部分で雑な部分が目立つため、もう少しちゃんと作り込んでほしかった」というのが正直なところです。
中でも気になるのは、前半と後半それぞれの雰囲気に「ギャップ」を感じる上、特に後半では「唐突さ」も否めないこと。『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』も連想する後半の舞台そのものは面白いですし、『悪魔のいけにえ』と『シャイニング』のパロディと思しきシーンには笑ってしまいましたが、ホラーとしての演出と話運びがチープだと感じてしまう人も多いでしょう。
ツッコミどころも満載で、特に終盤のある人物の行動に「ベラベラとしゃべっていないでさっさと⚪︎⚪︎しろよ」と思ってしまった人も多いのではないでしょうか。「ワッ」と大きな音で驚かせる、いわゆる「ジャンプスケア」の多用も、若い人がお化け屋敷的に楽しむぶんにはいいですが、安易な手法に思えてしまう大人も少なくはないはずです。

いいところもあるし、劇場に若者が集まっていることを素直に喜びたい

とはいえ、映画『変な家』の前半の「おかしな間取り」からその背景を推理するミステリーは、なるほど(原作の動画から)若者から支持を得ることも納得の面白さでした。
さらに、間宮祥太朗佐藤二朗川栄李奈ら役者陣の好演、その間取りそのままの場所を探訪できるロケーションの見事さ、「主観視点」で見せる場面がしっかり怖い演出になっているなど、いいところも多くあります。
原作の動画は1人称での語り口と対話が大きな特徴で、そもそも映画化に向かない題材ともいえるのですが、だからこそ(よくも悪くも前半とのギャップを感じるし唐突さもある)後半も「見た目にも怖くて楽しいホラー映画へと転換する」作り手からのサービスだとも思えます。欠点は認めつつ、シンプルに「怖かった」「面白かった」と褒める感想が多い理由も、そこにあるのでしょう。
そして、映画ファンの1人としては、『リング』『呪怨』などが世界的に評価された「日本のホラー映画」というジャンルにおいて、新たな大ヒット作が生まれたことを素直に喜びたいです。
この『変な家』で、ほかの観客の悲鳴も聞こえる劇場の環境でホラー映画を見るという「体験」を若者に提供してくれたこともうれしいですし、ほかの映画にも興味を持つきっかけになるでしょう。
さて、ここからは2022年以降に公開された、最近の日本のホラー映画を7作品挙げて、その特徴や魅力をまとめてみましょう。
中には世間的な評価が高くないものもありますが、コンセプトそのものが斬新だったり、これまでと違ったアプローチがされるなど、これからの日本のホラー映画のために新たな可能性を探り、そして発見しつつある段階にあると思えたのです。
中でも、これから公開される7作目はすでに名作といっていいほどの出来栄えですし、劇場で見る機会を逃さないでほしいです。

1:『きさらぎ駅』(2022年)

ネット上で都市伝説として語られている架空の駅をモチーフとした作品で、こちらもYouTubeで「怖い話」の動画を見る若者にリーチしたためか、上映規模が小さめながらスマッシュヒットをしました。
内容も作り手のサービス精神が全開で、序盤の主観視点の不気味さ、後半のギミックの楽しさ、そして怖さよりも笑いのほうが勝るサプライズなど、アイデアを最大限に生かした見せ場が満載。何より「異世界」でさまよう感覚をしっかり作り出したことも称賛に値します。
永江二朗監督作は、コロナ禍を背景にした『真・鮫島事件』(2020年)、ネタバレ厳禁の展開が待ち受ける『リゾートバイト』(2023年)も面白かったですし、その最新作にして60分全編を主観映像で描く『FPS』が2024年3月29日より東京・イオンシネマ板橋と神奈川・イオンシネマ海老名で限定的に公開中です。今後が最も期待できるホラー映画監督なので、将来的には大きな予算がかけられた作品にも期待したいです。

2:『“それ”がいる森』(2022年)

『リング』の中田秀夫監督の作品ですが、はっきり言って世間的な評価はかなり酷評気味。予告編では明かされていない、“それ”の正体には悪い意味であきれる人も続出していました。開始から25分ごろの“まさか”の光景にワクワクできるか、それともがっかりするかでも評価は分かれるでしょう。
しかし、筆者個人は本作が大好きです。「周りに話しても誰も信じてくれない」というホラー映画の定番はしっかり踏襲していますし、子どもが脅威に遭遇するジュブナイル要素もふんだんで、後半のツッコミどころ満載かつ予想の斜め上の展開も、一周回ってギャグとして楽しめました。発想そのものが時代に逆行しているようにも思えますが、その「古き良き文化」を令和のこの時代によみがえらせる試みは、一周回ってフレッシュに思えるほどです。
さらに、中田秀夫監督の2023年公開作にして小説の映画化作品『禁じられた遊び』は、さらにエンターテインメント性に振り切った作品になっていますので、まずは気軽に見てみてほしいです。

3:『カラダ探し』(2022年)

原作は小説投稿サイト「エブリスタ」で話題を集め、漫画化もされた人気作。橋本環奈眞栄田郷敦ら旬の人気若手俳優の出演もあって、興行収入は11億8000万円と優秀な成績を残した作品です。内容はやはり若者に人気の「ループもの」というジャンルに、ホラーはもちろん、「青春もの」も掛け合わせています。
同世代の男女が同じ時間を繰り返す中で信頼し合い、絶望的な状況下でも道を探し、時にはあっけらかんと青春を謳歌(おうか)する様は、なるほど若い人に受ける要素がそろっていると感心しました。それでいて、PG12指定納得の残酷な描写も攻めています。

4:『貞子DX』(2022年)

ご存じ、アイコニックなホラーキャラクター・貞子をフィーチャーした『リング』シリーズの最新作。何よりの特徴は、ほぼほぼコメディーに振り切っていること。川村壱馬がイケメンがいい意味で台なしな“ウザキャラ”に扮(ふん)するギャグセンスは好みが分かれるところですが、「そういう作風」だと割り切ればとっても楽しい内容に仕上がっていましたし、意外にも(?)しっかり怖いシーンもあります。
それでいて、呪いのビデオを見てから死ぬまでの時間は『リング』の1週間から24時間へと大幅に短縮され、その死ぬ理由や解決方法を論理的な思考を持って立ち向かう様はなるほど『リング』を踏襲したものでした。「謎解き」が好きな若い人にもリーチしていたともいえるでしょう。

5:『ミンナのウタ』(2023年)

こちらの監督は『呪怨』で知られる清水崇。その清水監督の『犬鳴村』『樹海村』『牛首村』の「村ホラー」3作はヒットしたものの評価はあまり芳しくなく、同2023年公開の『忌怪島/きかいじま』はさらに厳しい評価が寄せられましたが、この『ミンナのウタ』はホラーを見慣れている人からも「本気で怖い!」という悲鳴と高評価が相次ぎました。
最大の特徴は「GENERATIONS from EXILE TRIBE」のメンバーが本人役で登場していること。謎の古いカセットテープと少女の声が不可解でじわじわと不安を加速させてくれますし、予想外の事態の先にあった、あの「明るい玄関先」でのシーンは本気で絶叫するほどの恐ろしさでした。実質的に主人公である探偵役のマキタスポーツが、なんだかかわいいのも注目ポイントです。

6:『みなに幸あれ』(2024年)

一般公募フィルムコンペティション「第1回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した同名短編を元に長編映画として完成させた作品で、前述した『ミンナのウタ』の清水崇が総合プロデュースを手掛けています。公開規模は極めて小さかったのですが、本作で下津優太監督は長編商業映画デビューとなり、その試みそのものを応援したくなります。
R15+指定納得の気持ちの悪い描写はいい意味でトラウマ級。「恐怖と笑いが紙一重」なシーンの数々は大いに賛否両論を呼んでいます。田舎に行ったら「おじいちゃんとおばあちゃんがなんだかおかしい」という立ち上がりから、多くの人が一度は考える「幸せ」の残酷性を突き詰める過程は、なんてイヤなことを考えるんだと感心できました(褒めています)。

7:『毒娘』(2024年4月5日より劇場公開)

2011年にインターネットの匿名掲示板で話題となった、ある新婚家族の出来事をモチーフとしつつ、オリジナル脚本で作り上げた内容です。物語は10代の女の子と継母の関係を軸にして、謎の少女「ちーちゃん」との壮絶な争いを描くというものなのですが……その先に「なるほど、そうきたか!」と驚ける展開が用意されていました。
描かれる恐怖の本質は決して超常的なものではなく、家族であれば少なからず「思い当たる」もの。R15+指定で刺激の強い殺傷描写はありますが、それ以外では親しみやすく共感もしやすい内容で、中高生ごろのお子さんをお持ちの人、あるいはパートナーに不満がある人であれば、より「自分ごと」として考えられることはあるでしょう。
何より、本作は『変な家』と同じように(高校生以上の)若い人にも届いてほしいです。劇中では思春期にある暗い感情を攻撃に変え、誰かを傷つけてしまう「間違った選択」の悲哀と恐怖も描かれているので、反面教師的に学べることはきっとあるはずですから。クライマックスのとある場面では思わず涙してしまいましたし、それは内藤瑛亮監督の過去作『ミスミソウ』や『許された子どもたち』にも通ずる要素でした。

夏公開の『サユリ』にも大期待!

さらに、発表されたばかりの大期待作は、2024年夏公開の『サユリ』。マイホームを手にした家族に降りかかる恐怖を描いた、全2巻の名作ホラー漫画が原作。くしくも、こちらも『事故物件 恐い間取り』『変な家』『毒娘』と同様の「家ホラー」といえるでしょう。
監督は白石晃士。映画では『ノロイ』『カルト』『貞子vs伽椰子』などが支持を集めており、2022年の『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』、2023年の『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』も、特にそのエンターテインメント性の高さがホラーファンから称賛されていました。
その白石晃士監督は、「原作を一読し、これを映画化するのは絶対自分!と、プロデューサーと共に企画を進めてはや5年。ついに映画化へこぎつけた入魂の娯楽ホラー映画です。停滞しているJホラーをブチ壊す、新時代のホラーを目指しました」と、さらなる期待が高まるコメントも寄せています。
まずは、やはり『毒娘』を劇場で見てみて、日本のホラー映画のこれからの可能性や希望を、感じてみてほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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