大神いずみ「中2になる次男の遠征に帯同して大阪へ。お天気に振り回される中、先輩野球母たちの段取りと結束に圧倒されるばかり」

2024年4月3日(水)12時30分 婦人公論.jp


雨上がりの甲子園の試合を観ることもできました。アルプススタンドが目に入り、去年の長男の時のことを思い出し…(写真提供◎大神さん 以下すべて)

大神いずみさんは、元読売巨人軍の元木大介さんの妻であり、2人の球児の母でもある。苦しいダイエットをしている最中に、長男が大阪の高校で野球をやるため受験、送り出すという決断をした。球児の母として伴走する大神さんが日々の思いを綴る。

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前回「大神いずみ「長男・翔大の履正社の卒業式。挨拶はまさかの短さ!関西弁に囲まれながら〈学校の皆さんに育てていただいたんだなあ〉と感慨深い」」はこちら

次男・瑛介のチームの全国大会


こんなに暖かな心地よい陽気なのに。

年度末の世の中、どこもかしこも「バタバタ」な慌ただしさも、私には目の前をパフんパフん乱れ舞う花粉ですっかり黄色く霞んで見える…。
日差しに温められた生ぬるい空気にクシャミが止まらない。…っシュン!!

そして今わたしは、背中を丸めてお茶を満たした湯呑みを前に…ピクリとも椅子から動けない。

先週は5日間、中2になった次男・瑛介のチームの全国大会で大阪に滞在していた。

息子は微力ながら背番号をいただいて1学年上のチームに帯同させてもらった。試合は負けてしまったが、貴重な貴重な経験。来年また同じ場所に戻ってくるためには…どうすんの!?
そんな練習がもう始まっている。

長男の時からこれまで1度も「全国大会」を経験したことがなかったわたしは、駆けつけ一番、開会式が行われる球場の駐車場に全国各地から乗り付けられたおびただしい数の大型バス群に、圧倒されてしまった。

バスの大きさ、数だけではない。
バスの側面に大きく書いてあるチーム名に、「いいなぁ、バス持ってるチーム」とうらやんでいたのだが、そのナンバープレートが明らかに北海道、東北、関東、四国、九州なのだ。


大阪、万博記念公園を通り過ぎた時。 大阪だぁ…と実感します。

「バスでここ(大阪)まで!?」

当たり前ではないか。全国大会なのだ。

大会初日


東京から大阪への遠征など、親が自家用車に道具を積んで行くのも当たり前。
東北から四国中国九州までチームのバスで遠征してくるのも、道具の多いアマチュア野球の世界ではごく当たり前(野球に限ったことでもないが)。

乗せてもらう選手たちも相当旅慣れていくものなんだろうか。「乗り物に酔う」「お尻が痛い」を通り越して、やがてどこへでもバスや車に乗って移動して、降りたら試合、終わってまた移動というくりかえしで強靭な体力を身につけるのだ。
その日常、まず凄い。


バスの車中。 うちのチームは現地のホテルから球場への移動だけでしたが、これで何時間もかけて地方から来るチームがほとんどなのですね…

私は何度生まれ変わっても、自分の運転で東京から大阪まで行ける気が1ミリもしない。
うちはバスを持たないチームだ。むしろ珍しいほうかもしれない。でも必要があろうと絶対にわたしは無理に運転しない。どこまでも荷物を担いで電車や飛行機を使って球場に辿り着こうと心に決めている。
運転歴25年近く経っても、自分の運転ほど信用できないものはないからだ…恐ろしい。

でもこんなことに今さらいちいち度肝を抜かれている私。
マイクロバスでの長距離移動で遠征に出るのなんて当たり前すぎてツッコミようもないようなことに、わたしはひどく衝撃を受けていた。

そんな大会初日。

いろんなチームを見かけた。嬉しそうにキャッキャ笑いながらバラバラに歩くチームもあれば、集団行動みたいに一糸乱れぬ整列で行進するチーム。やたら「うりゃぁー!でやー!」と掛け声をかけて行動するチーム、なぜかみんな眉間に皺を寄せてニコリとも笑わないチーム。

初めて経験した全国大会


どこも我がチーム以外は憎たらしいほど強そうに見えてしまうのは、うう、私だけか?

細かい雨がとめどなく降りしきって開会式は中止、翌日の1回戦も各球場で中止が決まった。

雨天でも体を動かせるところがあれば練習するし、ミーティングや素振りなど宿舎でできることを監督コーチから指示される。
ちょうど選抜高校野球の行なわれている時期と重なるので、テレビ観戦。試合の前後にチームでチケットを取り、実際に甲子園に足を運んで試合を観戦できるのも、この時期の大阪ならではだ。

今回初めて経験した全国大会で何に一番驚いたかというと、予定されたスケジュールの二転三転にその都度対応を迫られる、各チームの「機動力」である。
チームの遠征生活全般を滞在中下支えするのが父母たち。知らない土地で、大世帯で。

これは我がチームに限らず、どのチームでも日常的に父母たちがサポートしていることの延長であって、この世界では当たり前。普段父母サポートのないチームでさえ、全国大会ともなれば多少の帯同とサポートは必要なのだ。

だけどこれ、ほんの野球の外側にいる人たちにとってはまったく知り得ないことだと感じたので、今回改めてここにご紹介したい。

とにかくお天気にぶんぶん振り回されるのが野球である。

開会式中止


開会式が行われる球場に全てのチームが揃ったところで、開会式中止が決まった。
ここで予定していた行程がガラガラと変更される。
試合の時間・球場が変わるのに連動して、現地で発注したお弁当、バスの発着時間、ホテルの夕食・朝食の時間、練習場までの道具の運搬、軽食の準備、洗濯物の分担…予定していたすべての調整が必要になる。うわうわうわうわうわ…!?

あらかじめ3年生の父母たちで細かく役割が分担されていて、それぞれの担当父母がとてもキビキビと対応にあたっていた。まるで最初から動きが決まっていたように、携帯片手にテキパキと。

今年わたしは1つ下の学年で初めての帯同だったので、必要なところにその都度指示を受けてお手伝いに入ることにした。何か言われたらいつでもシャー!と出動できる準備をしていた。


お昼や軽食は滞在中毎日用意します。ほんの少しの母達の気配りが選手達を励まして続けているのかもしれませんね

ちなみに今回試合のために大阪に入ってチームに帯同した父母は、1週間たらずの滞在中最多で40人強、最少で10人足らずだったようだ。子どもは春休みでも親は年度末の平日、わざわざ有給を取ったりして何とか1日でも大阪に足を運んでくる親が多くいた。

我が家もプロ野球の開幕や長男の最後の引越し荷物を送り出す作業が重なったので、チームが勝ち進んだとしても最後まで帯同することはできなかった。
何とか父母たちが入れ替わり立ち替わりチームに帯同して、大会中の選手達のサポートにあたっていたのだ。

選手は基本的にホテルに宿泊だが、父母たちはこの時期同じ宿が満室なこともあり、別の宿をとったり親戚宅に泊まる人もいる。わたしも長男の部屋から毎日宿に通った。
東京から車で来た人は用具やお弁当などの運搬も手伝う。不慣れな現地の道でもナビ1つでどこへでも向かう。ナビってホントありがたい。道わかりません、など言っていられないのだ。

母ヂカラ


大阪に入った翌日。
思いがけず雨予報により完全にオフになったので、この日は電車に乗って全員で甲子園球場に向かうことになった。午後から行われるセンバツの試合のチケットを人数分とる作業、これを全選手スタッフの携帯に手分けして送る作業が発生した。
慣れない場所での手配には1つ1つ時間と手間がかかってしまう。
これを短時間でやってのける先輩母たち。一方で食事など他の調整作業と並行して分担するチームワークは、やはり同期の父母達ならではの結束である。

とにかく、仕事が効率的で早い!

みな普段仕事をしている人もいれば、昔働いていたけど今は子育て専念の野球母もいる。下の子達を連れてきている人もいる。一つの目的の元に集まると「仕事ができる」女性たちの底力というものを見せられる思いだ。言われたことの先のさきの、その先くらいまで仕事ができてしまうのだ。
「母のチカラだなぁ」と、その段取り力にひたすら感心するばかり。

料理をするように目の前にあるものでチャチャっと何かを作る。
よりスムーズにことが進むよう、新しい方法をどんどん取り入れていく。
そんなことがとてもとても上手なお母さん達だ。ある程度人数が揃うと気配りが細やかで、仕事も早いこと早いこと。
指示待ち後輩母はただ言われたことを受けて動くだけで、頭を働かせることはほとんどなかった。

この「母ヂカラ」。
わたしも母だけれど、今のこの日本の世の中に必要な「知恵」であり「人を支えるチカラ」だと思うのだ。

家族のために仕事を1度手放しても、家庭という新しいポジションでバリバリ仕事をこなす女性がたくさんいることを、改めて多くの人に知ってほしいとわたしは思う。

知恵と行動力、結束


何とこの日、次の日の試合会場と時間が二転三転と変更になり、その都度すべての手配をバラしてまた別のところを手配…これが選手の夕食後まで続いていた。

お弁当いります、いりません、軽食必要、どこでバナナ買える?個数足りますか?足りないよ。
それ要らないとコーチがおっしゃる。こっちのチームは「ナシ」になりましたー!!了解ー!

ここまで変更が重なったのは雨の日の翌日だけだが、普通に勝ち上がった日でさえ選手達の昼食、補食、練習場所などの行程を組む手配は続いてく。そして連日最長こんなことを父母で協力しながら続けていった先に、選手たちは決勝戦へと進んでいくのだ。

こうして書いていると、ふと、
「わたしはこの先野球をやらせたいと思う親を確実に減らしているんじゃなかろうか」と心配になる。

違う違う違う。わたしは「大変だからやめたほうがいいよ」と言っているのではない。

野球母が何人か集まると必ず、どうにか子ども達が安心して野球ができる環境を作ろうとがんばる。
知恵と行動力、結束。
数人そろうと多少相性はあるが、みんな向いているのは同じ我が子達の方向だ。
その中に1度でも混じってみると、家庭や仕事では得られないような独特の「達成感」のようなものを感じる時がある。

「母」だからこそできること


それは、子育てを始めてから何年経ってもなかなか自分では得ることのできないもの。なぜなら、1人でできることではないから。
いい結果が伴えば子ども達もそれなりの達成感を得られるものだが、そこに至るまで支えてきた親にとっても大きな喜びとなり、やがて疲れなど吹き飛んでむしろ「感謝」の気持ちに昇華していく。
不思議だけど、あとからとても清々しいのだ。

試合の勝ち負けに関わらず、大切な子ども達のためなら命をも削れる、「母」だからこそできることだ。

この作業を「めんどくさい」「苦しい」「わずらわしい」と思ってしまったら、残念ながらここから得られるものは何もないように思う。

いろんなチームがあって、考え方もやり方もさまざまだ。
我がチームは同期ごとに毎年サポートの仕方を考えるので、息子達がメインで大会に出る時、その代の親が全てのサポートの仕方を考えることになる。
集まる人間が違えば化学反応も違うはず。また今年とは全く違うやり方で選手たちをサポートすることになるのかもしれない。前例に囚われず、よりよいやり方のために毎年変わっていくその柔軟さも、母ならではのような気がする。

いろいろ楽しみなのだ。

息子たちの成長、野球の上達はもちろんだが、頼もしい母仲間が集まってみんなでやり遂げるサポートが、どんなに大変でも、いずれ子育て時代の宝物のようになることも。

子育て時代の宝物


広い駐車場にびっしり乗り付けたバスの数以上に、全国の頂点を目指して頑張って来た選手や指導者、保護者からなるたくさんのチーム。

こんなにもいろんなチームがある中、息子が選んだ今のチームで、わたしはがんばる!

大阪…なんだか濃い毎日だったなぁ。

最後に送った長男の荷物も自宅にドカンと届き、
いま目の前の湯呑みを右から左へ、ほんの少し動かすこともできないお疲れ母・いずみ。

…言われたこと以外何にもしてなかったのに、
なんでだろう!?

婦人公論.jp

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