なぜ「京急電鉄」沿線住民の<愛線心>はこれほど高いのか。美しい塗色、走りのよさ、サービス…<鉄道事業そのものへの愛>が生まれる背景

2024年4月8日(月)6時30分 婦人公論.jp


京急電鉄は、鉄道事業そのものが愛されているそうで——(写真提供:Photo AC)

『沿線格差』という言葉を目にすることが増えましたが、フリーライターの小林拓矢さんいわく、「それぞれの沿線に住む人のライフスタイルの違いは、私鉄各社の経営戦略とも深くかかわっている」のだとか。今回はその小林さんに「京急電鉄沿線の魅力と実情」を紹介していただきました。小林さんが言うには「京急電鉄は鉄道事業そのものが愛されている」そうですが——。

* * * * * * *

京急電鉄沿線の魅力と実情は?


京急電鉄は、沿線住民に愛されている鉄道会社である。

しかし東急電鉄のように、グループ全体でフルサービスを提供することで沿線住民の支持を受けている、というスタイルではない。

もちろん、京急グループにはホテルもあれば、スーパーマーケットもあり、クレジットカードもある。

だが京急の「愛され方」は、そのあたりがしっかりしているからというものではない。

鉄道事業そのものが愛されているのだ。京急沿線住民の「愛線心」の高さは、鉄道そのものの魅力が生み出しているところがある。

そんな沿線住民の鉄道愛を感じさせるのが、横浜駅から徒歩10分ほどの京急グループの本社にある「京急ミュージアム」である。

小さい展示施設ながらも、京急の歴史や車両、沿線について知ることができ、興味深い施設となっている。

「京急ミュージアム」は、2020(令和2)年1月にオープンし、当初から入館には予約が必要だった。

コロナ禍を経てもなお、予約制を採用せざるを得ないほどの人気施設である。

横浜以遠の地域


なお、京急沿線自体は所得の高い人たちばかりが暮らしているわけではない。

工業エリアと住宅エリアが混在するのが品川から横浜までの間であり、東海道沿いにあるという立地でも、地価は高いほうでもない。

工場などが沿線に多いということで、もともとはブルーカラー労働者が多く暮らしているエリアである。

ファミリー向けが多いとはいえ、住宅の平均面積もけっして広くはない。あくまで所得水準が一般的な程度の人向け、というものが多いようだ。

車窓を見ると住宅が密集しており、広い土地を使用した住宅が建てにくいエリアだと感じさせられる。

だがそういった風景は、横浜を過ぎてしばらく経つと変わっていく。逗子や久里浜などは、リゾートの雰囲気もある。

京急電鉄でラッシュ時に混雑しているのは、じつは品川駅手前ではない。横浜駅手前である。横浜以遠の地域に多くの人が暮らし、京急で横浜までやってきて、そこでJRに乗り換えて都心の勤務先まで行くというのがわかるようである。

車両と走り


そういった地域を走る京急は、車両と走りにこだわっている。

京急の車両は「赤」が印象的であり、主力車両である1000形電車の一部の車両に塗装が施されず、ステンレス地をさらした際には、京急ファンから反発が起こったほどだ。

その後に投入された同形車両では、フルラッピングや全塗装となってひと目でわかる「赤」が復活し、ファンを喜ばせた。20次車「Le Ciel」はブルーリボン賞を受賞している。

走りも、先頭車を電動車にし、高速性能も向上させ一部区間では時速120キロ運転として高い評価を得ている。

車両は、2扉クロスシートの2100形の人気が高い。地下鉄に乗り入れず、速達型専用車両であり、ラッシュ時には座席指定列車に使用される。


京急電鉄でラッシュ時に混雑しているのは、じつは品川駅手前ではない。横浜駅手前である(写真提供:Photo AC)

また、首都圏の私鉄としては珍しく、途中駅での増解結をひんぱんに行なう。ラッシュ時などは、途中駅で増結し、品川駅で解結という列車もある。

このように、他の私鉄に比べて独特の鉄道事業を行なうという姿勢が、京急沿線住民の「愛線心」につながっている。

このあたりは、沿線のあらゆる階層の人間に共通する意識であると考えられる。京急沿線の住民は、経済状況に関係なく京急電鉄を愛しているのだ。

それゆえに近年、一部で報じられる京急電鉄の労働環境の問題は、残念なことに思える。

選ばれる沿線


京急沿線住民が「京急ミュージアム」に押し寄せることから、京急電鉄は沿線住民のあこがれといっても過言ではない。

美しい塗色の車両、走りのよさ、きめ細かなサービスは鉄道で働く人たちの日々の努力によって成り立っているのだ。

京急電鉄は、グループ内で不動産事業に力を入れており、手がける分譲マンションの広告が車内の中吊(なかづ)りにもある。

京急沿線住民が京急を愛しているからこそ、京急の沿線を離れたくないという思いがあり、こうしたマンションの需要もある。

「選ばれる沿線」という言葉は多くの私鉄が使う。

京急は鉄道の魅力ですでに「選ばれ」ている。

京急電鉄には、鉄道そのものをもっと大切にしてほしい。

ここまで愛されている首都圏私鉄はそうはなく、その意味でポテンシャルはものすごく高いのだから。

※本稿は、『関東の私鉄沿線格差: 東急 東武 小田急 京王 西武 京急 京成 相鉄』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

「格差」をもっと詳しく

「格差」のニュース

「格差」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ