牧野知弘 デベロッパーが外国資本による<高額マンションの買い占め>を歓迎している理由とは…「晴海フラッグ」が売れているウラ事情
2024年4月11日(木)6時30分 婦人公論.jp
牧野さん「不動産価格が一方的に上昇する時には、その波に乗ろうと、多くの業者や投資家が群がる」(写真提供:Photo AC)
「かつて超高額マンションと言えば1億円、いわゆる『億ション』でした。ところが今や、3億円を超える住戸は珍しくありません」と語るのは、オラガ総研代表取締役の牧野知弘さん。今回は、マンション価格高騰の背景を牧野さんに解説していただきました。牧野さんいわく、「不動産価格が一方的に上昇する時には、その波に乗ろうと、多くの業者や投資家が群がる」そうで——。
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横行する業者買い
先日、メディアの取材で、湾岸部の新築タワーマンションの登記簿を閲覧したのですが、驚愕(きょうがく)しました。高層部東南部分の角部屋(かどべや)がほとんど1列、同じ不動産業者に登記されていたからです。
人気物件だったので、価格が上昇しそうな角部屋1列を一括で買い入れたのでしょう。
購入業者は、名も知れない日本の不動産業者です。
登記簿の乙区事項欄(おつくじこうらん)を見ると、この業者に融資しているのは、香港の投資会社でした。
つまり、外国資本が日本で設立したペーパーカンパニーを通じて日本の高額マンション、しかも値上がりしそうな部分を買い占めたわけです。
このようなことは、デベロッパーにすれば「歓迎」です。
なぜなら、タワマンは数百戸から1000戸を超える住戸を効率よく捌(さば)く必要があり、1社でまとめて買ってもらえれば手間がかからないからです。それによって、「第1期即日完売!」などと銘打ち、販売促進につなげることもできます。
晴海フラッグ
別な事例も見てみましょう。東京五輪の選手村の跡地で分譲されている大規模マンション「晴海(はるみ)フラッグ」が、よく売れています。
好調の要因は、賃貸を含めて4000戸以上になる一大タウンで都心に近く、オリンピックレガシーがあるから、などと言われていますが、最大の理由は、分譲価格が周辺相場に比べて2〜3割ほど安いことです。
競争率は一部住戸で200倍になったなどと喧伝されましたが、これには裏があります。
2023年6月に行なわれた高層棟の分譲から、申し込み名義1者あたりの申込可能な住戸を、2戸までに制限をかけました。
実は、それまでの分譲では不動産業者が5戸、10戸などとまとめて申し込む事例が後(あと)を絶(た)ちませんでした。
周辺相場に比べて大幅に安い住戸をまとめて仕入れて転売することを目的にした業者買いです。
これが目に余るようになったため、制限をかけたのです。
さまざまな背景
「晴海フラッグ」の建設地は、元は東京都の土地です。
通常、自治体やUR(都市再生機構)などが所有する土地に、マンションなどの住宅が分譲される場合、一定期間の転売禁止や、申し込みにあたって1者1住戸のみ、などの規制を設けることが多いのですが、なぜか本件については野放し状態でした。
裁判沙汰にまでなった東京都からの廉価な土地譲渡と、規制のないフリーな分譲許可など、さまざまな背景があったのです(写真提供:Photo AC)
分譲戸数がきわめて多く、当初は多くのデベロッパーが引き受けに尻込みしたとも言われる「晴海フラッグ」。
裁判沙汰にまでなった東京都からの廉価な土地譲渡と、規制のないフリーな分譲許可など、さまざまな背景があったのです。
金余りの金融機関
不動産価格が一方的に上昇する時には、その波に乗ろうと、多くの業者や投資家が群がります。
その後押(あとお)しをするのが、金余りの金融機関です。
金融機関にとって、不動産融資は一度に多額の融資ができる、言わば打ち出の小槌(こづち)です。
実は、マンションの高騰を支える大きな要因の1つが、このような業者による転売目的の購入です。
こうした土地転がし、マンション転がしの宴(うたげ)はいつまでも続くものではないことは、バブル崩壊時に証明されているのですが、あの時代のことを記憶する人が60歳を超えるなか、宴は延々と続いています。
※本稿は、『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
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