牧野知弘 タワマン高層部に人気が集中する「眺望の良さ」以外の理由とは…「特権」を使える超高額マンションの高騰が続くのは必然だった

2024年4月12日(金)6時30分 婦人公論.jp


牧野さん「富裕層がもっとも嫌うのが、資産価値が落ちていくこと」(写真提供:Photo AC)

「かつて超高額マンションと言えば1億円、いわゆる『億ション』でした。ところが今や、3億円を超える住戸は珍しくありません」と語るのは、オラガ総研代表取締役の牧野知弘さん。今回は、マンション価格高騰の背景を牧野さんに解説していただきました。牧野さんいわく、「富裕層がもっとも嫌うのが、資産価値が落ちていくこと」だそうで——。

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超高額マンションを使った節税


富裕層が超高額マンションを買う理由に、資産防衛の観点があります。よく、富裕層の多くは「ケチだ」と言われます。

逆説的に言えば、ケチだからお金が貯(た)まるという理屈でもあります。

そうしたケチな富裕層がもっとも嫌うのが、資産価値が落ちていくことです。ここに、資産防衛という考え方が生まれるのです。

現金をたくさん持っていることはお金持ちの象徴です。

ただ現金という資産は、持っているだけではそれ以上の資産を生み出してはくれません。1980年代〜1990年代はじめ、銀行などに預けておけば、年間で数%の利息が付きました。

しかし、バブル崩壊以降、日本の預金金利は下がり続け、今では銀行に預けても、雀(すずめ)の涙ほどの利息しか付きません。

相続


そこで、富裕層は積極的に株式、債券、保険などの金融商品を買って資産を増やす、あるいは目減りしないように対策を打つのです。

また、不動産を買って運用するなどして、資産の保全を図(はか)ります。

そうして膨らませた資産を次世代に移すイベントが相続です。

実は、不動産は相続の際、きわめて有効な資産防衛手段です。

相続にあたっては、所有している不動産は、土地部分については路線価評価、建物については固定資産税評価によって、課税評価総額が決まります。

現金で持っていれば額面通りの査定になりますが、不動産の評価は時価(じか)(実勢価格)よりも安く評価されます。

これが、不動産が相続対策として有効であると言われる所以(ゆえん)です。

なかでも、超高額マンションの代表的な存在でもあるタワマンの節税効果がとりわけ高いと言われています。

節税効果が高い


実例を見てみましょう。

Dさんは多額の資産があり、このままでは相続の際、一人娘のEさんに重い相続税が課せられることを知らされ、タワマンの上層階を購入しました。

45階建ての40階、90平方メートル(約27坪)の住戸です。Dさんが住む予定はありませんから、目的は資産防衛です。

この住戸の登記簿(とうきぼ)を見ると、土地の持分(もちぶん)は4坪、建物は共用部分の持分を含めて36坪です。

タワマンの価格は1億3500万円、その内訳は売買契約書によると土地1億円、建物3500万円です。専有面積換算で坪単価500万円です。

5年後、Dさんは亡くなり、Eさんが相続することになりました。さて、この住戸はいくらで評価されたでしょうか。


タワマンにおいて高層部に人気が集中するのは眺望の良さはともかく、節税効果が高いことも理由の1つなのです(写真提供:Photo AC)

このマンションの建つ土地の路線価は坪単価400万円。対して、購入価格に占める土地代は、坪あたりに換算すると2500万円(1億円÷4坪)になります。

つまり相続額は、坪あたり2100万円分が圧縮されています。

建物については固定資産税評価額ベースでの評価となり、築年数によって減価していきますが、相続時評価額は約7割、約2450万円となります。

この住戸は4050万円で評価されたわけです。実に、9450万円の圧縮です。

さらに、Dさんはマンション購入時、銀行に勧められて自己資金を2000万円だけにして、残り1億1500万円をローンにしていました。

相続財産を算出する際は、借入金額分を評価額から控除できます。土地建物は4050万円の評価でした。

ここからローン残高を差し引けば、実質評価額はマイナスになります。

Dさんは他に預貯金や有価証券も保有していましたが、結果的に娘のEさんは相続税の支払いを大幅に減らすことができました。

このようにマンション、とりわけタワマンの節税効果が高いのは、土地の容積率が高く、戸あたりの土地の持分が少ないため、路線価評価額との乖離(かいり)が大きくなりやすいからです。

また、高層部ほど販売価格が高いため、同じ住戸面積でも高層部ほど土地代の割合が高く設定でき、圧縮効果が高まります。

タワマンにおいて高層部に人気が集中するのは眺望の良さはともかく、節税効果が高いことも理由の1つなのです。

思惑


しかしこの対策方法については、税負担の公平性を著(いちじる)しく欠くとの理由で、国税庁は2024年1月以降の相続についてはタワマンに限らず、マンションの相続評価額で実勢価格との乖離が大きいものについては一定基準のもと、実勢価格の6割程度とすることを決めました。

それでも、相続の際に資産を現金だけで持っているケースに比べて、不動産は評価額を低めに設定していることに変わりはありません。

このような「特権」を利用できる超高額マンションは、相続を間近(まぢか)に控えた高齢富裕層にとって、魅力的な資産なのです。

実際、タワマン購入者において、高齢富裕層は一定の割合を常に示していると言われます。

相続の際に資産圧縮を行なって、子供や孫に資産を承継する。また超高額マンションなら資産価値も落ちにくい、インフレになればさらに価値が上がるかもしれない。

こんな思惑も相俟(あいま)って、需要が落ちず、マンション価格は高騰し続けているのです。

※本稿は、『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。

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