32歳でパニック障害を発症したベアーズ創業者。それでも事業を拡大できたのは…家事代行サービスのパイオニアが実践した<2つの戦略>
2024年4月14日(日)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:ベアーズ)
東京都の発表によると、2024年1月時点で従業員30人以上の都内企業のテレワーク実施率は約41%だそう。新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、急速にテレワークが普及しました。そのようななか「家での食事回数も掃除の頻度も増え、『家事を手伝ってほしい』という需要が高まりました」と語るのは、株式会社ベアーズ取締役副社長・高橋ゆきさん(「高」は正しくは「はしごだか」)。高橋さんいわく、「家事代行サービスとハウスクリーニングの違いを理解しないまま書いた記事が新聞に掲載されることもあった」そうで——。
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パニック障害を発症
ベアーズは稼働をはじめましたが、家事代行サービスの事業が軌道に乗るまでには当然、時間がかかります。その間も、なんとかベアーズの諸経費と高橋家の家計と両親への仕送りを捻出しなくてはなりません。
ある時、私は夫から「ゆき、ちょっと“出稼ぎ”に行ってくれないか」と言われ、経費や家計にあてるお給料を稼ぐため、ITベンチャー企業に勤めはじめました。
そこからの私は必死でした。私が倒れたら、ベアーズも家族も生きていけません。
そのITベンチャーは、四半期ごとの成果によって、次の期のお給料が決まるシステムだったので、なんとか自分の評価を高くしなくてはいけないと気を張っていました。役員秘書兼広報室長を務め、さらに海外事業本部で米国サンノゼのオフィスオープンを担当するという具合に、いくつもの仕事を掛け持ちました。
2歳と0歳の子どもを抱え、無理を押して働いているうちに心も身体も限界を超えてしまったのでしょう。
30歳の時、パニック障害を発症しました。何をやろうとしても気力が出ず、食欲も全くありません。緊張を強いられる場では動悸(どうき)が激しくなり、フラフラして呼吸が苦しくなります。
それでも、「自分に限って病気になることはない」「私はそんなに弱くないはず」と奮い立たせ、だましだまし仕事を続けていました。
ついに32歳の時、倒れてそのまま入院しました。心臓の不整脈と下痢が止まらず、帯状疱疹(ほうしん)になり、急性肺炎も併発し、心身の機能がこわれてしまったのです。
実は、この時に患ったパニック障害は、今も完治していません。うまくコントロールしながら病気と付き合っています。
自分のバイオリズムを把握し、頑張り過ぎないよう、エネルギーを配分したり、「これをしてはいけない」ということに気を遣ったりもしています。
様々な企業と提携、家事代行サービスを広げる
32歳で入院を経験した後も、服薬でパニック障害の治療をしながら、仕事を続けました。
ベアーズがようやく1人分の給料ぐらいは出せるようになったタイミングで、お世話になったITベンチャー企業を退職し、ベアーズに戻りました。2002年、33歳の時のことです。
ベアーズで任されたのが、「家事代行サービス産業をつくり、社会の役に立ちたい」という志を社会に広げる“伝道師”の役割でした。要は広報やマーケティングの業務です。
IT企業で勤めた経験を生かし、まずホームページをつくり直しました。そして、近くの公園で宣伝活動をしました。子ども連れのお母さんたちに声をかけ、「育児で慌ただしい時期こそ、家事代行サービスを利用して笑顔になってほしい」と訴えたのです。
その中から、実際にサービスを利用してくださる方、ベアーズの志に共鳴して「うちのマンションの講習室を使っていいよ」と宣伝に協力してくださる方などが出てきました。
『ウェルビーイング・シンキング』(著:高橋ゆき/日経BP)
家事代行サービスを一般家庭に広げていくために立てたのが2つの戦略です。
1つは、家事代行サービスの重要性に共感してもらえる企業と手を組み、その企業のお客様にサービスを提供していくことでした。
様々な企業に対して営業活動を行った結果、初めてアライアンスを組むことができたのが某大手セキュリティー企業です。2005年に同社が契約するお客様への家事サポートサービスの提供を開始しました。
業界トップ企業と手を組めたことで、ベアーズの認知度や信頼性は一気に高まり、以後、多くの企業から問い合わせがきたり、話を聞いてもらったりできるようになりました。
07年には、最高級5つ星ホテル、大手百貨店、大手コンビニエンスストアなどと、次々と業務提携を結びました。
「はなまるマーケット」お馴染みの顔に
サービスを広げるためのもう1つの戦略は、メディアでの露出度を上げることです。
たまたま、ある雑誌の大掃除特集で、私のことを“掃除のプロ”として取り上げていただく機会がありました。
それを見たTBSの情報番組「はなまるマーケット」のスタッフから連絡がきて、出演させていただけることになりました。
当初は「水道の蛇口をストッキングで磨くとピカピカになる」といった掃除のコツを紹介していました。
そのうちに、家事研究家の肩書をつけてもらい、準レギュラーのような形で出演するようになりました。
「はなまるマーケット」への出演を機に、多くの新聞や雑誌に取り上げてもらえるようになりました。
ハウスクリーニングとの違い
ただ、中には家事代行サービスとハウスクリーニングの違いを理解しないまま書いた記事が新聞に掲載されることもありました。
ハウスクリーニングは、プロの知識を持つ専門家が、プロの機材や洗剤を使い、エアコンや換気扇などを分解・洗浄するものです。
掃除、料理、洗濯、買い物、片づけや水やりなど、本来は家族でもできる日常の家事を請け負う家事代行サービスは、それとは全く異なります。
「家事代行サービスのPRが足りなかった」と反省した私は、大手新聞社にアポなしで乗り込み、記者の方たちを相手にプレゼンしました。
ハウスクリーニングと家事代行サービスの違いを説明した上で、2つのことを伝えました。
1つは、「私たちベアーズは、人々の暮らしを支えるインフラになることを目指している」ということです。
家事代行サービスの産業をつくれば、若いカップルがキャリアをあきらめたり、家事や育児でけんかをしたりすることはなくなります。日本の子育てを明るく楽しく幸せなものにできると訴えました。
もう1つは雇用についてです。
「家事代行サービスは高齢の方でも、自らの家事や子育ての経験をベースに担える。少子高齢化が進む日本で、高齢者もイキイキと活躍できる場を提供することで、社会を活性化できる」ということです。
記者の方たちも興味を持って聞いてくださり、以後、ベアーズを取材していただく機会は格段に増えました。
※本稿は、『ウェルビーイング・シンキング』(日経BP)の一部を再編集したものです。
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