鶴見辰吾「小学生で宝塚に憧れ、おばの勧めで芸能界へ。〈金八〉仲間の絆は今も健在。アイドル扱いに〈やめよう〉と思った日も」

2024年4月19日(金)12時0分 婦人公論.jp


ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』が再演される。初演を観てファンだったという鶴見辰吾さんが、主人公の父親役として出演することが決まった。本作への意気込み、還暦を迎えた気持ち、芸能界を目指した理由などを伺いました。
(構成◎上田恵子)

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18歳の時に俳優をやめようと思った


12歳で俳優としてデビューし、今年12月に還暦を迎えます。今日までこうして俳優の仕事を続けてこられたのは、ひとえに僕を応援し、支えてくれた皆さんのおかげです。頑張っていても、たとえ実力があっても、残っていくのが難しい世界ですからね。本当に自分一人の力ではないと感謝しています。

その時々でたくさんの方々にアドバイスや励ましの言葉をいただきましたが、なかでもかわいがってくださったのが、デビュー当時同じ事務所だった故・鈴木ヒロミツさん。もうとにかく褒めて褒めて、「おまえは最高だ」とか「そのジーパンかっこいいね」といった感じで、いろいろなことを褒めてくれるんです。

ヒロミツさんは、ちょうど今の僕くらいの年齢の時にがんで亡くなったのですが、最後まで好きなことをやり通した人でした。ものすごく恩義を感じている人です。

あともう一人は、武田鉄矢さんですね。ドラマ『3年B組金八先生』のおかげで僕の名前は全国区になりましたし、そこで出会った仲間とはいまだに交流があります。

山崎努さんからも大きな影響を受けました。18歳くらいの時でしたか、僕が俳優をやめようかどうしようか悩んでいた時に山崎さんに出会って。山田太一さん脚本の作品だったのですが、「この仕事を命がけでやっている人がいる。自分もこの道をしっかり進んでいこう」と思わされたのです。

アイドル映画への出演が辛かった10代


俳優をやめようと思った理由は、10代の自分が抱いていた俳優像と現実とが少々違っていたからです。1980年代はアイドル黄金期でアイドル映画も多く、ティーンエイジャーすなわちアイドルみたいな時代でした。

僕はやっぱり男の子なので、洋画のハードなアクション映画などを観ていて、そういう作品に出たかったんです。(笑)

ところが実際は青春ものの優等生のような役が多く、全然違う方向に行ってしまって。もちろん今は「そういう役も大事な財産だ」と理解していますが、当時はすごく悩んでしまいました。

役者で食べていくのも大変そうだし、学校の仲間と同じように就職して勤め人になることを決めるなら今かな、と考えたんです。でも山崎努さんの演技に対する向き合い方を見るうちに「こういう役者になりたい」と思うようになって、現在に至ります。本当に大きな出会いでした。

俳優としての原点であり、美学の原点でもある宝塚


僕の俳優としての原点は宝塚にあります。今は亡きおばが大の宝塚ファンで、古城都(こしろみやこ)さんという方のお付きのようなことをしていたんです。おばに連れられて楽屋にお邪魔したこともあるくらいなので、かなり近しい立場だったのだろうと思います。

最初に客席で観たのは、古城さんが出演されていた『霧深きエルベのほとり』。ストーリーは忘れてしまいましたが、それはそれは絢爛な世界で、「なんて凄いんだ!」と衝撃を受けました。

しかも当時はまだ小さな子どもだったので、舞台にいる人が全員女性だと知らなくて。「それじゃあ僕は宝塚に入れないってことか! ガーン!!」とショックを受けた記憶があります。(笑)

【撮影:田中亜紀】

宝塚は、僕の俳優としての原点であり、美学の原点でもあります。

僕が小学6年生の頃には、宝塚で『ベルサイユのばら』が大ヒット。でも周囲にそんな話ができる男子はいなかったため、隠れて女子たちと「アンドレが」「オスカルが」と盛り上がっていたのもいい思い出です。(笑)

学校がもうひとつあるみたいだった『3年B組金八先生』


そんな僕を見て、そのおばが「どうやらこの子は演劇が好きらしい」と思ったようで、ある日「片平なぎさ主演のテレビドラマで弟役を一般公募しているんだけど、応募してもいい?」と言ってきたんです。僕も親もまさか受かるとは思っていませんから、「別にいいよ」と。

後日「明日ちょっと学校を早退して。テレビ朝日に行くから」と連れて行かれた時も、「片平なぎさに会えるかもよ?」と言われて「それなら行こうかなあ」という感じでした(笑)。親も本気で考えておらず、「テレビ局に行けるんだって」くらいの感覚だったと思います。

10代そこそこで飛び込んだ芸能界では、すごく親切にしてもらいました。皆さん優しくて。特に『3年B組金八先生』の現場は、共演者と世代も一緒でしたし、学校がもうひとつあるみたいな感じでした。本当の学校よりゆるい学校ですね。(笑)

役自体は中学生役ですが、大人に混じってドラマを作る現場にいたので、半分大人扱いされて半分子ども扱いされているようなところがありました。勉強はしなくていいけど、セリフや芝居は仕事としてちゃんとできないといけない。でもそれ以外は割と自由で、学校では味わえない雰囲気を味わいつつ、でも設定は学校という、なんとも不思議な状況が面白かったです。

3年B組の仲間とは、今も交流が続いています。同窓会を予定していたところ武田さんが仕事の都合で来られなくなっちゃって。でもせっかく皆でスケジュールを合わせたのだからと、生徒だけで集まることにしたんです。だいたいクラスの半分、16〜17人くらいですかね。

ほとんどの仲間はもう芸能界とは違う仕事に就いて、それぞれの人生を歩んでいます。それでも会うといまだに役名で呼び合って、一気にあの時代に戻るのが楽しくて。こういう絆は、なかなか他の作品では得られないものだと思います。

夫婦円満の秘訣、我が家のバイブル「祝婚歌」


今年で還暦ということで、健康にはものすごく気をつけています。ちょっとでも不具合を感じたら「何か大きい病気なんじゃないか!?」と病院に行き、「いや、全然大丈夫ですよ」と言われて安心して帰ってくるという。(笑)

食生活ではバランス良く食べることをベースに、最近はなるべく塩分控えめになるよう奥さんに頼んでいます。ロケ弁は味が濃いものが多いので、どうしても塩分過多になっちゃうんですよね。

でもそれを奥さんに言ったら、「だってあなたが『味が濃いと美味しい』って言うじゃない」と怒られました(笑)。本当に、濃い味つけを美味しいと感じるのをどうにかしないといけないですね。

僕は結婚が遅めだったので、今年ようやく結婚20周年を迎えます。夫婦仲はいいほうだと思います。

座右の銘にしているのは、吉野弘さんの「祝婚歌」。僕の披露宴の時に、俳優の先輩の寺田農さんが朗読してくださったのですが、この名優が読む「祝婚歌」がものすごく胸に響きました。

「二人が睦まじくいるためには愚かでいるほうがいい 立派過ぎないほうがいい 完璧なんて不自然なことだとうそぶいているほうがいい」といった具合に、夫婦円満の秘訣を歌っている詩なんです。言ってみれば我が家のバイブルですね。

『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』に出演


この度、ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』に出演します。この舞台は2017年の初演の時に拝見していまして、僕自身はもちろん、妻も大好きな作品です。それだけに「今回ビリーのお父さん役でと話が来てるんですけど」と言われた時は、二つ返事で「ぜひやらせてください!」とお返事しました。

「演出家がイギリスの方で、オーディションがあります」と言われた時も「なるほど、なるほど」と。自分の腕試しとしてもいいし、チャレンジさせてくださいと、昨年3月に芝居と歌と、僕自身は踊らないんですが踊りのレッスンがコレオグラファー(振り付け担当の方)の前でありました。

ドキドキするという体験を久しぶりにして、ビリーの心境を少し理解できた気がしましたし、好きなだけでなく自分で手繰り寄せた役どころでもあるので、今からすごく楽しみにしています。


5“SOLIDARITY” 中央左:柚希礼音 中央右:渡部出日寿【撮影:田中亜紀】

とりわけ宝塚好きな僕としては、今回共演者に宝塚出身の安蘭けいさんがいらっしゃるので、本当に自分の夢が叶ったよう(笑)。そう考えると、ビリーという少年はかつての自分であるような気もします。

ファースト・ミュージカルとしておすすめできる舞台


この作品の舞台が炭鉱町なので、翻訳で置き換えた際の言葉にいわゆる筑豊弁を使っているんです。これは見事だなと思っています。翻訳物のミュージカルは、日本人同士が英語の名前で呼び合ったりするのがネックだと言われることもあるのですが、それをこういう形で克服したのには感動しました。

エルトン・ジョンの楽曲も素晴らしいですし、サッチャーのハリボテみたいな人形が出てくるところもイギリスらしい。また階級の話であったり、家族の話、自分の夢の話と、テーマが本当にいいんですよね。どこを切り取ってもお勧めできる作品だと思うので、出演できることになって本当に幸せです。

この作品は、父と息子の物語でもあります。僕自身に子どもはいませんが、やっぱり息子って、自分の父親の父性を踏襲するものだと思うんですよね。僕の父は、息子が役者の道を選ぶことに反対しなかった人でした。


4“ANGRY DANCE” 左:川口調 右:益岡徹【撮影:田中亜紀】

なのでもしも僕に息子がいて、ビリーのように「バレエダンサーになりたい」と言われた時、僕の目で見て将来性がありそうだったら「やればいいんじゃない?」と言うと思います。逆にどう見ても才能がないようなら、「おまえ、やめといた方がいいよ」と止めてあげるのも親の仕事なのかもしれません。

「まだ一度もミュージカルを観たことがない」という人は、実際かなり多いと思います。そういう方たちへのファースト・ミュージカルとして、この『ビリー・エリオット』は自信を持ってお勧めできる作品です。僕は益岡徹さんとのWキャストなのですが、昨日も仲間に「なるべく僕が出てる回の日に来てね!」とチラシを渡してきました。(笑)お友達やご家族と、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。

婦人公論.jp

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