お風呂でのカラオケは、老化防止に幸福度アップも!?専門医が教える入浴前のウォーミングアップでさらなる効果
2024年4月22日(月)12時30分 婦人公論.jp
日本では、風呂場で年間2万人ものかたが「不慮の事故」で急死しています(写真提供:Photo AC)
令和3年の厚生労働省「人口動態調査」によると、浴槽内または浴槽への転落による溺死で亡くなった65歳以上の方の数は、約5000人だそう。「鼻と口が湯に浸かっても目覚めなかったり、動けなかったりすると数分で窒息して、命を落としてしまいます」と話すのは、声とのどの専門医・渡邊雄介先生。そんな渡邊先生がおすすめするのが「風呂カラオケ」。事故を防ぐだけでなく、のどの筋肉を鍛えれば、全身の衰えを食い止めることにもつながるとのこと。転ばない、誤嚥しない、老人性うつにも陥らない——風呂カラオケの豊富なメリットとは。
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入浴前、服を脱ぐ前の3分ウォーミングアップ
のどの筋力を鍛えようと思い立ったかたは、以下のやりやすいものを選んで、まず体とのどの筋肉をほぐしましょう。
入浴前に行うなど、タイミングを決めておくのもいいですね。
本記事で紹介するエクササイズはすべて、医学的根拠に基づいています。
私自身が、患者さんの声やのどの治療に積極的に取り入れているものばかりです。
・つや声ストレッチ
声帯のまわりには、10以上の筋肉がついています。舌も筋肉のかたまりです。
それらの、発声にかかわる筋肉がこわばっていると、声も歌詞もスムーズに出ません。まず、ほぐしてやわらかくしましょう。
(1)ゆっくりと30秒ぐらいかけて、首を左右に5回ほど回します。
(2)のどぼとけを軽くつまんで、指の腹で左右に広げるようにストレッチ。
パ・タ・カ・ラ発声
高齢になるほど、言葉がもごもごした感じになりやすいのは、舌の筋力が衰えるせいもあります。
この「パ・タ・カ・ラ」発声はもともと、誤嚥防止のために開発されました。
発声しながら口を大きく動かすことで、口や舌の動きが鍛えられます。のみこむ力が向上して、言葉もはっきりしてきます。
「えっ?」と聞き返されて、ムキになって大声でしゃべると、のどを痛める原因にもなります。滑舌をよくすることを心がけましょう。
(1)口と舌を大きく動かしながら「パ・タ・カ・ラ」と、はっきり発声します。
(2)だんだんスピードを上げながら5回以上、はっきりと発声し続けます。
風呂カラオケのメリット
メリット1 溺れない
日本では、風呂場で年間2万人ものかたが「不慮の事故」で急死しています。
なかでも多いのが、65歳以上の高齢者の「入浴中の溺死」。高齢者の浴槽内での溺死は年間4750人。交通事故死2150人の2倍を軽く越えています(厚生労働省2021年人口動態統計)。
亡くなったかたの多くが、湯船で眠りこんだり、のぼせたり、「入浴熱中症」に陥ったり、あるいは、めまいなどから湯船に倒れこんで溺れたと推定されています。
ああ極楽、と湯船でくつろいでいたら、頭がボーッとしてきた。ウトウト眠ってしまった。立ち上がったときに、頭がクラクラした。
あるある、とうなずいたかたが多いと思います。
そこで風呂カラオケ。基本は、お好きな昭和歌謡や童謡・唱歌を3曲、10分以内で歌う。歌えば脳が刺激されてぼんやりしないし、10分ルールで長湯もしません。ゆっくり湯船から出れば、めまいも起きにくい。この習慣が身につけば、溺れて亡くなる原因の多くが取り除かれます。
風呂場での年間2万人の事故死にも、転倒が大きくかかわっているのは確実です(写真提供:Photo AC)
メリット2 骨折・転倒を食い止める
「骨折・転倒」は、高齢者が要介護になる原因の3番目で、14%を占めています(令和4年国民生活基礎調査)。
高齢になって転倒すると、足の付け根の骨折や、頭の強打による頭部挫傷、脳内出血など、深刻な事態につながりやすい。長期入院となると一気に足腰も脳も衰えて、たちまち寝たきりになってしまいます。
風呂場での年間2万人の事故死にも、転倒が大きくかかわっているのは確実です。
東京都が20歳以上の男女4000人にアンケートした「浴室等に潜む危険」調査の報告では、浴室でヒヤリとしたことや、ケガをしたことがある、と回答した人が6割以上。そのうち「転倒」を含むものが7割以上を占めていました。
風呂カラオケで、のどを痛めずに、のどの筋肉を効果的に鍛えることができます。
のど筋が健康なら、よろけたり、つまずいたりしたときに声帯がピタッと閉じて上体が安定し、とっさに足を踏ん張れる。結果として「転倒骨折」のリスクも減ります。
メリット3 誤嚥性肺炎のリスクを減らす
テレビなどで最近よく、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」という言葉を見聞きしますね。漢字が難しいこともあり、いまひとつピンとこないかたも多いと思います。
「誤嚥」というのは、食べ物や飲み物や唾液が、食道でなく気道の方に誤って入ってしまうこと。そして一緒に細菌を肺に取りこんでしまい起きる感染症が「誤嚥性肺炎」です。80歳以上のかたの死因の上位を占めています。
お正月には、もちをのどに詰まらせて窒息死した高齢者のニュースが流れます。
これも、もちがのどにひっかかって気道を塞いだために起きます。
誤嚥の引き金の多くは、「老化現象」です。
・歯が抜けたり入れ歯になったりして、噛む機能が落ちてきた。
・のどの筋力が衰えて、「空気は気道から肺へ」「飲食物は食道から胃へ」と仕分けする「のどのフタ」、喉頭蓋(こうとうがい)の働きが鈍くなった。
・唾液の分泌が減ってきた。
・のどぼとけの位置が下がり、食べ物が気道に入りやすくなっている。
食べたものが変なところに入ってムセることや、「食べこぼし」が多くなったら、誤嚥しやすくなっています。風呂カラオケで唾液を増やし、のどの筋肉を鍛えてください。
メリット4 表情筋がよく動いて、声も顔も老けない。幸福度が上がる
高齢になっても「お若いですね」とほめられる人は、表情豊かでよく笑い、口角がキュッと上がっています。シワやたるみが目立たず、お肌がつややかです。
逆に、年齢より老けて見える人は「能面のような無表情」でいるのをよくお見かけします。肌もくすんでいて、たいてい眉間に縦ジワが寄っています。
顔から老けこまないように、風呂カラオケで、表情筋をよく動かしてください。
表情筋とはその名のとおり、表情を動かしている筋肉です。
口を大きくあけて歌えば表情筋がまんべんなく動き、顔がいきいきして引きしまり、血色もよくなります。
「人は幸せだから笑うのではない。笑うから幸せなのだ」という名言があります。
どうせ歌うなら、表情筋の体操も兼ねるつもりで、大げさに百面相をして筋肉をほぐし、ついでによく笑うようにしましょう。
そうすることで人との会話もはずむようになり、毎日が楽しくなりますよ。
※本稿は、『毎日10分-長生き風呂カラオケ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
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