丸山ゴンザレス サッカーコート1/4ほどに小屋が密集、ケニアとウガンダが領有権を主張するミギンゴ島。ウガンダ警察から拘束されたその時、ケニア警察は…

2024年4月24日(水)12時30分 婦人公論.jp


(写真:丸山ゴンザレス)

ジャーナリストの丸山ゴンザレスさん。危険地帯や裏社会を主に取材し、現在はテレビに加えてYouTubeでも活躍中です。その丸山さんに欠かせないのがタバコ。スラム街で買ったご当地銘柄、麻薬の売人宅での一服、追い詰められた夜に見つめた小さな火とただよう紫煙…。旅先の路地や取材の合間にくゆらせたタバコの煙がある風景と、煙にまとわりついた記憶のかけらを手繰り寄せた丸山さんの異色の旅エッセイ『タバコの煙、旅の記憶』より「ケニアで出会った景色」を紹介します。

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ミギンゴ島を訪れた時のこと


ケニア、ウガンダ、タンザニアにまたがるビクトリア湖。

アフリカ最大の湖には大小多くの島がある。テレビ番組の企画でケニアを訪れたついでにどうしても行ってみたかった場所のひとつ、ミギンゴ島を訪れた時のことだ。

本土からミギンゴ島までは2時間ほどかかる。実は、この島の位置が非常に厄介な状況にあった。俺たちはケニア側から入ったが、隣接するウガンダも領有権を主張しているのだ。

念の為、ウガンダ政府にも入島の許可は取っていた。だが、担当者から気になることを言付かっていた。

「島では常駐する警察の判断に従ってください」

政府の発行する紙(パーミッション)よりも、現場判断が優先される。そんなことがまかり通るのがアフリカなのだ。土の色や路面状況なんかでアフリカを感じている場合ではなかった。

サッカーコートの四分の一ほどのサイズの島は、へばりつくようにトタンで作られた小屋が密集している。「地球外の風景」「宇宙のどこかの星の風景」と言われても信じてしまう。

上陸した俺たちを待っていたのは、そんな場所に似つかわしくない人間関係、国家間のいざこざだった。

双方が領有権を主張していることは許可を両国に求める程度には承知していたので、取材を始める前、最初にケニア警察へ挨拶に行った。特に問題もなく、むしろ歓迎された。彼らが同行してウガンダ警察へと赴く。

その場で強制的に取り調べが


ここまでは順調だったのに、一気に雲行きが怪しくなる。俺に相対するのはウガンダの警察署長。目つきがギョロッとした迫力のある男だった。

必要書類を提出したが「俺は認めねえ」と取材拒否された。それから、その場で強制的に取り調べが開始された。


(写真:丸山ゴンザレス)

ここで緊張感のあるやりとりを続けたところ、

「明日の朝まで小屋(留置所的な意味)に滞在を認める。外(トイレとか)に出るときはウガンダ警察が監視をする。撮影や取材は認めない」

めっちゃ強い口調で断言された。事実上の拘束である。

これはまずいことになったとチラッとケニア警察の方を見ると「無理」とばかりに首を振る。どうにもできないようだ。もはや諦めるしかないのか。

モンスター拘束者になってやろうと


意気消沈した男だけで拘束用の小屋にいた。

俺たちのチームには同行していたディレクターとベテランの通訳Iさんがいた。彼らと話しても愚痴しか出ないし、別に大人しく待っていてやる必要もないだろうと、開き直った俺はすぐにウガンダ警察と交渉して「アレが欲しい。コレが欲しい」と要求を突きつけてみた。モンスター拘束者になってやろうと思ったのだ。

彼らはすぐに話に乗ってきた。無茶な要求をしたのではない。むしろ彼らに賄賂を渡すタイミングだ。

俺が買い物をする際に彼らにも何かしら買ってやることで便宜を図る。撮影はダメでも取材にはなりうる。

警察から小屋に移動する時の会話で、あちらから「島には飲み屋がある」とかあれこれアピールしてきたので、俺はその辺りを察していたのだ。

俺は島内の施設を巡りながらひっそりと取材をする。俺に張り付いた若い警官も大胆に要求してくるようになり、飲み物が欲しいとかあれこれ言われる。

夕飯時になって小屋の前で料理をする女性たちの姿が見られた。そんな様子を見ていて、ふと「タバコが欲しい」と思った。

やっぱり美味しそうに吸いますね


「タバコは売ってるか?」


『タバコの煙、旅の記憶』(著:丸山ゴンザレス/産業編集センター)

お付きの警官に聞くと「もちろん」とのこと。売店まで行くと、通訳のIさんがいた。

「どうしたんですか?」

「いや、コレをね」

そう言って売店で買ったタバコを見せてくれた。

「止めていたんですけどね」

「ここまで吸ってませんでしたよね?」

「そうなんですが、船でゴンザレスさんが美味しそうに吸ってるのを見てね。他にすることもないですし、島にいる間だけでもと思いまして」

Iさんは器用にマッチでタバコに火をつけた。そして煙を大きく吸い込んだ。俺はIさんから1本もらって吸った。

決して美味しいタバコじゃなかった。ニコチンも重くきつい。普段はメンソールのスッキリ味を好む俺には合わない。それでも、この島で起きた出来事にくらべればどうということもない。

「やっぱり美味しそうに吸いますね」

Iさんは微笑みながら言った。

それから、「明日はどうなりますかね」と他愛のない雑談をした。

※本稿は、『タバコの煙、旅の記憶』(産業編集センター)の一部を再編集したものです。

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