『マインクラフト/ザ・ムービー』が、ゲーム原作映画として「大正解」を叩き出した3つの理由

2025年4月26日(土)18時30分 All About

公開中の『マインクラフト/ザ・ムービー』がゲーム原作映画の「大正解」と言える素晴らしい出来栄えでした。その3つの理由や、元のタイトルに「重要な要素」が示されていたことなどを解説しましょう。 (※画像出典:(C)2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.)

2024年4月25日より『マインクラフト/ザ・ムービー』が劇場公開中です。まずは、今作が記録的な超大ヒットを飛ばしていることと、原作ゲームの超人気ぶりに触れなければならないでしょう。

子どもだけでなく「親御さん」にもおすすめ

何しろ、アメリカでは2025年最大のオープニング記録を樹立しており、初動ではあの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を超えてゲーム原作映画史上No.1。さらに、公開3週間で世界興行収入は1000億円を突破しているのです。
そして、原作となるゲーム『マインクラフト』は「世界で最も売れたインディーズゲーム」としてギネス世界記録に認定されており、2023年には世界売上本数がなんと3億本を突破しています。
有名配信者による実況動画もとてつもない再生数を叩き出しており、子どもの認知度も非常に高く、2023年時点での小中学生によるゲーム利用率の最多は『マインクラフト』でした。さらに、子どもの創造力や探求心をはぐくむために教育現場でも活用されており、もはやゲームという枠組みを超えて、現代の「文化」とすら言えるコンテンツなのです。
そして、断言しておきますが、今作は「ゲームをまったく知らなくても楽しめる」「ゲームを知っているとそのリスペクトや再現がうれしくなり、より楽しめる」という、一見さんにもゲームファンにも大いに推薦できる内容に仕上がっています。
かつ、作品のトーンは良い意味で「クレイジー」なコメディー。「アッパー」な魅力を持つ娯楽作としても、自信を持っておすすめできます。
また、今作を特に見てほしい層は「子どもが遊んでいるのを横目で見ていた親御さん」なのかもしれません。後述するように、ゲームの面白さやその意義をしっかりすくい取っているので、鑑賞後には『マインクラフト』というコンテンツについての会話に花が咲くでしょうし、親子の絆を深めるきっかけにもなるはずです。

ゾンビが「ちょっと怖い」ことには注意?

注意点は、原作ゲームでもけっこう怖い存在だった「ゾンビ」が、映画でもなかなか恐ろしく見えることです。
原作ゲームは「ドット絵」が3Dになったような、良い意味で簡素とも言えるグラフィックも魅力的なのですが、映画では「リアル」寄りな映像となっており、よりゾンビのほかにも「敵」となるキャラクターや、「夜」のシチュエーションに恐怖を覚えるかもしれません。
とはいえ、ゾンビが怖いシーンは数十秒程度で、「小さい子が怖がってしまうかも」という懸念はわずか。「ちょっと注意が必要なくらい」だとは思います。「ゾンビが怖いから見ない」というのはさすがにもったいないですし、これくらいなら「良い刺激」として、おおむね親御さんも受け入れられるのではないでしょうか。
さらなる魅力を、大きく3つのポイントに分けて深掘りしていきましょう。予備知識を必要としない内容でもあるので、内容をまったく知らずに見たいという人は、先に劇場に駆けつけてください。

1:ダメダメな大人と子どもたちが「異世界転送」しちゃった話!

今作が、ゲームを知らなくてもおすすめできる理由の筆頭は、「ダメダメな大人と子どもたちがとんでもない世界に迷い込んじゃった!」というシンプルなプロットだからです。いわゆる「異世界転送(転移)もの」であり、劇中のキャラクターが「異世界に迷い込んでとまどいながらも、何とかしようとする」様が観客の心理と一致するため入り込みやすいですし、先に転送された「先輩」からルールを「教わる」展開も分かりやすいエンタメになっています。
キャラクターも個性豊かで、すぐに特徴を覚えられます。「先に転送された採掘マニアの男」「すっかり落ちぶれた元人気ゲーマー」「発明家を夢見る少年」「しっかり者のお姉ちゃん」「子どもたちを見守る移動動物園の園長」という5人は、ちっとも「ヒーロー」なんかじゃない、いずれも欠点を持つ人たちです。
そんな彼らが「チームを組み、互いの欠点を補うように連携し冒険をする」という流れが、初めこそクスクス笑えるコメディーに、そのうち少年漫画的なアツい展開につながっていきます。関係性の「ゆるさ」込みでほほ笑ましく見られるでしょう。
また、キャラクターの多くが「初めは冷めている」ことも、かなり重要だったと思います。予告編でも見られる「あっ、そう」「私この人無理だ」というリアクションは、「この世界や設定にノレていない」ことそのもの(本編では字幕の内容は少し異なります)。
彼らが、この場所でのルールを学び、いつしか知恵と勇気を持って問題に立ち向かう、その流れにグッと来るのです。あるいは、あまりにも常識はずれでクレイジーな世界観に翻弄(ほんろう)され、それでも問題を文字通り“力技”で乗り切るなど、「半ばヤケクソ」っぷりも含めて笑えるコメディーに昇華されています。
個人的に特にうれしいのは、ジャック・ブラックとジェイソン・モモアというスター俳優2人による、「ひげが似合うおじさん2人のブロマンス(友情)」要素。「初めは反発し合っていた2人がいいコンビになっていく」という王道の「バディもの」の魅力もありますし、今回はダメなところも含めて2人ともチャーミング。大人と子どもが「対等」な立場でチームになるというのも、今の時代のエンタメとしてふさわしいものでした。

2:原作ゲームの「クリエイトする」魅力がたっぷり

原作ゲームで重要なのは、何よりも「クリエイト(創造)する」こと。同作は建物を建てたり武器を作ったりする、「サンドボックス型(砂場のように自由に遊べる)」のゲームの代表格であり、今作でもそのゲームの面白さがしっかり打ち出されています。
例えば、「初めは武器の使い方を間違えていたけど、その特徴を知れば有効活用できる」「建物を素早く建て屋上に登り危機から逃れようと画策し、『初めてにしては上出来』と褒められる」ことなどがそうです。
原作ゲームは「あらかじめ決まっている大きなストーリーがない」作品であり、プレーヤーが「主体的に目的や物語を作っていく」ことにも魅力がありました。だからこそ前述した「異世界転送もの」にして、映画のキャラクター=ゲームのプレーヤーとほぼ同一視できるアイデアは、理にかなっているとも言えるのです。さらに、『マインクラフト』で特徴的な「ゾンビ」のほか、「ピグリン」や「スケルトン」といったキャラクターがやはり「リアル」寄りの造形で再現されているのもゲームファンには嬉しいところ。「森の洋館」の細かい作り込みにも注目です。
このほか、ゲームの「小ネタ」的な要素も多数込められており、1度見ただけでは気付けないほど。「あのキャラがこんなことになるの?」という意外性もありますし、映画独自のアイデアそれぞれが、やはり“褒め言葉”としてクレイジーなものに仕上がっていました。

3:監督の作家性が強く打ち出された内容に

監督のジャレッド・ヘスは、2004年公開の映画『ナポレオン・ダイナマイト』を手掛け、スマッシュヒットを達成したことでも知られています。同作は当時日本でヒットしていた『電車男』に便乗し、『バス男』という邦題が付けられており、これが「史上最悪の邦題」と呼ばれるほどに大不評だったこともありました(2013年に原題の『ナポレオン・ダイナマイト』にタイトル変更)。
その『ナポレオン・ダイナマイト』の内容といえば、「さえない高校生と周りのイケてないキャラが織りなす、悲哀とおかしみがたっぷりの青春コメディ」であり、「田舎町が舞台」「子どもも大人もダメダメ」「そんな彼らにも意地や大切なものがある」といった、『マインクラフト/ザ・ムービー』と似た特徴を持っています。
また、今作における「問題を抱えたアルパカ」「ズボンのポケットにポテトチップスを入れる」「護身術の道場」といった描写は、その『ナポレオン・ダイナマイト』のセルフオマージュだったりもするのです。
監督の作家性が強く打ち出された今作ですが、決して作り手の独りよがりにはなっていません。原作ゲームにある「創造力」という大きなテーマに回帰することが、監督らしいダメダメなキャラクターの成長物語と密接に絡み、「君にも輝ける場所がある」という大きな希望を示していることも美点です。それは同時に、ゲームそのものに対する愛情と意義も強く感じるものになっています。単に娯楽というだけはない、創造力や探求心をはぐくむために子どもの教育の面でも注目を集める『マインクラフト』というコンテンツにも、これ以上のないリスペクトを感じられるはずです。

さすがに「ゆる過ぎる」ことは難点?

ただ、ちょっとここで映画の難点を挙げるのであれば……キャラクターの関係性などにおける良い意味での「ゆるさ」が今作の魅力になっているとは前述したものの、物語にやや唐突なところ、さすがに「ゆる過ぎる」ツッコミどころが見受けられたのは気になりました。クレイジーさも美点なのですが、裏を返せば「勢いで持っていく」、あるいは「乱暴」な展開もあったのも事実です。
同じくゲームを原作とした、ダメダメなチームの結束を描く映画では、『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』が掛け値なしに傑作といえるクオリティーだったのですから、今作もそれに迫る物語の作り込みもしてほしかったというのも正直なところ。ただ、今作はゆるさや乱暴さもまた「これはこれで……」といった魅力の範疇(はんちゅう)ではあるので、気にならない人も多いでしょう。

元のタイトルの「A」もけっこう重要かも?

今作の日本タイトルは『マインクラフト/ザ・ムービー』ですが、元のタイトルは『A Minecraft Movie』となっています。この不定冠詞の「A」は、なかなかに大きな意味を持っていると思うのです。
なぜなら、「A」が示しているのは「(そのほかにもたくさん)ある1つの」ということ。「THE」であれば指しているものがただ1つだけに限定されるため、『マインクラフト』の唯一の映画化作品であるからこそ、『ザ・ムービー』という邦題も間違ってはいないでしょう。
ただ、タイトルに「A」をつけることで、「(作品内世界において)ほかにも同じような物語がどこかにあるのではないか」という含みを持たせているとも解釈できます。
前述した通り、原作ゲームの『マインクラフト』は「あらかじめ決まっている大きいストーリーがない」「自分で主体的に物語や世界を作っていくことができる」といった特徴があります。
それに伴い、やはり今作のダメダメなチームの活躍も、たくさんの『マインクラフト』の物語の1つであるということを、原題の「A」は示していたと思うのです。原題に「A」が付いている映画を少し挙げると、『クワイエット・プレイス(A Quiet Place)』や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(Rogue One: A Star Wars Story)』などがあります。これらの作品でも、実際に見てみれば「たくさんある中の1つの物語を描いているんだな」と、やはり「A」の意味をより感じられるかもしれませんよ。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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