今も毎日視聴される東日本大震災の映像――業界トップ・テレ朝報道CHが伝える、YouTubeと防災の親和性

2024年5月1日(水)10時0分 マイナビニュース

●TikTokでは国内企業アカウント2位に
テレビ朝日が運営するYouTube公式アカウント『ANNニュースチャンネル(ANNnewsCH)』のチャンネル登録者数が2024年3月、400万人に到達した。ニュースだけを配信するチャンネルとして、同局の報道局 クロスメディアセンターが2009年9月に開設したANNnewsCH。他局のニュースチャンネルの約2倍の登録者数を誇るこのチャンネルの強みとは。
マイナビニュースでは同部署所属で、社会部やアメリカ特派員、報道ステーションの担当を経て昨年7月からデジタル統括担当部長を務める山野孝之氏、報道局で20年間カメラマンを務め、2019年の夏からプロデューサーを務める佐藤俊輔氏にインタビュー。前編では、ANNnewsCHの強みや、最多再生数を記録している動画、そして、災害時に感じたニュースチャンネルの存在意義について話を聞いた。(本記事記載の登録者数は2024年4月現在)
○“スピード感”と“継続力”武器に登録者数400万人突破
——まずは、ANNnewsCHがどんなチャンネルなのか、教えてください。
山野:テレビ朝日系列で放送した映像、ABEMA NEWSチャンネルで配信された映像のほか、チャンネルオリジナルのコンテンツも積極的に公開しているニュース専門のYouTubeチャンネルです。クオリティの高いニュースを素早く正確に届けること、再生数の伸びそうな動画だけを掲載するのではなく、視聴者の方にとって必要な情報を網羅することで、「ANNnewsCHを見れば、最新で正しいあらゆる情報が分かる」と思っていただけるチャンネルになることが目標です。
——ANNnewsCH の登録者数は、他局のニュースチャンネルと比べてダブルスコアの差をつける400万人という数字を誇っています。ずばり、その秘密を教えてください。
佐藤:チャンネル開設、ライブ配信スタート、ABEMA NEWSが速報したニュースの配信、ショート動画への注力、コミュニティ機能への取り組みなど、いずれも一手ずつ早かったという“スピード感”が大きいです。あとは、最初はなかなか登録者数が伸びなかったのですが、諦めずに続けてきたという“継続力”も。僕がこの部署に来る前の、先人たちの頑張りですね。
○ショート動画にも注力 若いユーザーとの接点に
——ショート動画といえば、横サイズの動画が自動で縦動画に変換できるシステム「ヨコタテくん」を開発して活用しているとか。
佐藤:中国赴任時に、ショート動画の成長を見ており、いずれは日本でも流行ると感じていました。とはいえ、ダンス動画やエンタメ色の強いコンテンツ限定だと思っていたのですが、試しにいくつか掲載してみると、ニュース動画も需要がありそうだと実感することができて。ショート動画にも注力することを決めて“インフラ”整備のためにGoogleが先進的なトライアルに資金援助する「Googleニュースイニシアティブ(GNI)イノベーションチャレンジ」に「ヨコタテくん」を提案、採用されたことで システム開発に至りました。
——労働力の面でかなりコストカットになったのでは。
佐藤:これまでは一人ひとりの手作業で縦動画を横動画に作り変えていたのですが、「ヨコタテくん」のおかげで1本数十秒から2、3分、5分の1ぐらいのスピードで作れるようになりました。横の動画を縦に編集し直す作業が システム化されたことで、クリエイティブな仕事により時間を割けるようになったので、スタッフのモチベーション向上というメリットもありました。ショート動画の本数も担保でき、運用しているTikTokの『テレ朝news【公式】』アカウントは、登録者が420万人まで伸びました。実は、国内の企業アカウントの中で2位の規模なんです。
——テレビ局のニュースアカウントという枠ではなく、企業アカウント全体の中で660万人のポケモンや、320万人のサンリオと肩を並べての上位とはすごい数です。
佐藤:地上波の視聴者は上の年代の方が多いので、TikTokやYouTubeショートで若いユーザーと接点が持てるということも、テレビ朝日として大きな意義があります。
——若いユーザーの方が多いことで気をつけている点は。
佐藤:「若い人にはこういうニュースがいいんじゃない?」と思っていた動画が伸びなかったり、「これは刺さらないよね」と思っていた動画がたくさん見られたりしたので、思い込みでニーズを決めつけないことが大事だなと。災害の企画や解説系の記事も含め、誠実にニュースを配信しています。
——続いて、強みとして挙げていただいたABEMA NEWSとの連携についても教えてください。ABEMA は2016年にサイバーエージェントとテレビ朝日が始めたサービスで、ABEMA NEWSチャンネルでは、ニュースを配信し続けていますよね。
佐藤:テレ朝も含め、各局がYouTubeにニュースチャンネルを開設し始めた頃は、地上波の朝、昼、夕方のニュース番組の時間に合わせて配信するのが一般的でした。一方でABEMA NEWSは、24時間、リアルタイムで速報をどんどん世に出していくという日本のテレビ局にはあまりないスタイルで動いていて。ABEMA NEWSのチームと密接に連携し、『ABEMA NEWS』で使用した映像も掲載できるANNnewsCHは、他局よりも早く速報を取り扱うYouTubeチャンネルになれたんです。
●反響のあった動画を3本紹介
○YouTubeの利点活かし防災意識高めたい
——これまで手掛けた中で、印象に残っている企画や動画を教えてください。
佐藤:クロスメディアセンターに異動して最初に手掛けた「まいにち防災〜災害を知り 命をまもる」という企画です。地上波のオンエアではほんの少ししか使われなくても、記者やカメラマンの手元には膨大な時間をかけた取材・撮影の記録があって。その中にもぜひ知ってもらいたい、伝えたい情報が大量にあるので、何か有効活用できないだろうかとカメラマン時代から考えていました。テレビで使用する場合には、放送に合わせて編集し、わかりやすくコンパクトにするのですが、YouTubeでは、30分撮り続けたものをそのまま全部見せてもいい。この利点を一番活用できると思ったのが災害。災害が起きたとき、どう始まって、どう広がっていくのかをすべて見せることで、将来の命を守る行動につながればというコンセプトで「まいにち防災」を立ち上げました。
たとえば東日本大震災の津波では、地震が起きてカメラマンが撮影を始めるわけですが、ノーカットの映像を見ると、何分後に津波が来て、何分後に街に被害が及んで、と、災害が進むスピードがすごく分かりやすい。このサイトでは、カレンダーや地図、「地震・津波」、「台風・大雨」、「大雪・寒さ」などのソートで過去のさまざまな災害時の動画を見ることができるようになっています。たくさんの方に見ていただけて、役に立ったと実感できました。
山野:今年1月の能登半島地震で大きな被害を受けた、輪島朝市をとりあげるサイト「私たちの輪島朝市物語」も4月に立ち上げて、たくさんの動画や記事のほか被災前と被災後の画像を配信しています。このサイトのほかにも、 どの場所でどんなことが起きたのか、地図で位置を確認しながら動画で見られる「被害状況マップ」を作ったのですが、カメラが揺れて地震が起きるところから、30数分後に津波が来て、と一部始終の記録が残っているのは資料としても貴重だと反響がありました。
佐藤:「能登半島地震 被害状況マップ」 も、サイトを作るために新たに取材したのではなく、テレビ朝日系列各社で、かなりの数の取材クルーが現地に入って取材したものを集めて整理して掲載しているんです。視聴者の方が撮影した映像も、許可をいただいて掲載させていただいています。
——まさに集合知ですね。
山野:ANNnewsCHの再生数上位は災害の動画が多く、関心の高さを感じます。災害時には登録者数や再生数が急激に増えて、正確な情報、最新の情報が求められていることを肌で感じられるので、応えていきたいです。特に能登半島地震では、地元の系列局の放送が止まってしまったので、YouTubeというプラットフォームの存在価値が高まったのかなと。
——テレビがない場所でも、スマホ一つで正しいニュースを見ることができるのは、大きな助けになりそうです。
山野:停電していても、スマホの電源が残っていたり、車でチャージできれば動画を見られるし、ストリーミングでこれまでの情報も一気に見ることができる。災害時には特に必要な情報源になり得ると思うので、有事の際、ANNnewsCHが何を発信できるか、どう助けになれるかをこれからも考えていきたいです。あとは、オンライン上に動画を公開しておくだけで、古い動画でも見ていただけることがあるので、災害が風化しづらいというか。いつどんなタイミングでも、災害の動画を見て怖さを認識して、自分に落とし込んで考えるきっかけが作れるのではと思います。
○一番見られている動画は東日本大震災の津波
——これまで、印象的な再生数の伸び方をした動画があれば教えてください。
○「2011年3月11日 東日本大震災 宮古市を襲った“黒い”巨大津波【まいにち防災】」
佐藤:「まいにち防災」を立ち上げた際に掲載した東日本大震災3.11の津波の動画は、3,800万回再生を超え、チャンネルで一番の再生数を記録しています。現在も、毎日のように新しいコメントが投稿され、視聴され続けています。
○「オウム事件の真実…“幻の核武装計画”とは? 地下鉄サリン事件の真相は?【2020年3月放送】」
山野:ドキュメンタリーは昨今大きく伸びている分野。この動画もすでに1,000万回近く見られています。制作したディレクターはほかにも、警察庁長官狙撃事件や刑務所などのドキュメンタリーに携わっており、いずれも高評価を得ています。また、テレビ朝日系列をあげて制作しているドキュメンタリー番組『テレメンタリー』からも長く見続けられる動画が生まれており、視聴数だけでなく、チャンネル登録者増という点でも大きく貢献してくれています。
○「台風対策『窓ガラスに養生テープ』にプラス 飛散防止役立つものとは【ファスト防災】 #shorts」
佐藤:いわゆるライフハック系の動画です。日常使いのアイテムに、ちょっとした工夫を施すことで災害時や防災に役立つ例をシリーズで紹介しています。内容やテンポがショート動画との相性がよく、若年層にもリーチできています。この展開で得た知見を活かして、今後はショート記者解説など次なるオリジナルコンテンツ開発を進めていきます。
——ありがとうございます。後編では、今後伸ばしていきたい点についてもお話をおうかがいします。

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