テレビ屋の声 第97回 『なんで私が神説教』『1周回って知らない話』内田秀実氏、ドラマ演出にも生きる“高嶋ちさ子ファミリー”からの発見

2025年5月3日(土)7時0分 マイナビニュース


●“ドラマ脳”と“バラエティ脳”の垣根を取っ払う
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、日本テレビ系ドラマ『なんで私が神説教』(毎週土曜21:00〜)の演出・内田秀実氏だ。
ドラマの演出を手がけながら、特番で放送されているバラエティ番組『1周回って知らない話』も担当し続ける“二刀流”の同氏。それぞれのジャンルでの経験が相互に生きることもあるといい、その一例として“高嶋ちさ子ファミリー”からの発見を挙げる——。
○「ベタドラマ」と『恋のから騒ぎ』ドラマがきっかけに
——当連載に前回登場した放送作家の林田晋一さんが、内田さんについて「GP帯のドラマでメイン監督やって、『1周回って知らない話』のバラエティ特番も年2〜3回やって、そんな二刀流をやってる人、この業界に他にいないと思います。さらに、バカリズムさんの『ノンレムの窓』というドラマとお笑いの融合もやっていて、どういうふうに頭を切り替えているのか」とおっしゃっていました。
切り替えの意識というのは特にないんですけども、両方やってみて分かるのは、頭の中で使っている回路が全然違うので、ドラマをやった次にバラエティをやる時、バラエティをやった次にドラマをやる時は毎回、新鮮で楽しいです。最近では“ドラマ脳”と“バラエティ脳”の垣根を取っ払ったりすることで新しい発見があったり、新しいアイデアが生まれたりするので、どちらも楽しくやらせていただいています。
——そのお話はぜひ後ほど詳しく伺わせていただきたいのですが、まずテレビ局を志望したのはどういう経緯だったのですか?
僕が就活をしていた頃、日本テレビが例年と違う採用の仕方を始めたんです。それは番組制作職を、総合職とは切り離して別枠で採用するというもので、今では存在しない採用制度なんですが。当時、僕は早稲田大学で劇団に入っていて、いろいろな表現方法を勉強したいと思う中で、テレビの映像表現にもとても興味がありました。そこで、その年から始まった日本テレビの制作専門職の試験を受けることに。その試験内容は、夏休み中に1カ月ほど日テレに通い、『おもいッきりテレビ』の「きょうは何の日」というコーナー企画で実際に放送される5分ほどのVTRを制作するというものでした。そこからご縁があって、入社させていただきました。
——その頃はドラマとバラエティ、どちらをやりたいと思っていたのですか?
当時は何も考えていませんでした(笑)。とにかく「テレビってどんな感じなんだろう? 勉強したいな」くらいの気持ちだったので。なので、試験の時の志望欄にもなんとなく「バラエティ」と書いていたような記憶があります。
——そして入社されて、バラエティ制作に配属されたんですね。
最初は『踊る!さんま御殿!!』を8年ほど担当して、そこで勉強させていただいてディレクターになりました。それから『世界一受けたい授業』『太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。』『世界の果てまでイッテQ!』などたくさんの番組で勉強させていただきました。『くりぃむしちゅーのたりらリラ〜ン』では立ち上げから最後までやらせてもらいました。
——『くりぃむしちゅーのたりらリラ〜ン』と言えば「ベタドラマ」(※)ですよね。
はい。番組内の一企画ではありましたが、「ベタドラマ」のドラマVTRの演出をほとんど任せてもらえるようになったことと、『さんま御殿』からのつながりで『恋のから騒ぎ』のスピンオフ特番『恋のから騒ぎスペシャルドラマ』の演出をやらせていただいたことが大きな経験になりました。バラエティ班にいながら、ドラマ制作に触れる機会が運良くあったんですよね。
(※)…テレビドラマの王道“ベタシーン”を凝縮し、1クール分の感情移入を一度で味わえると大きな話題となった企画。「片思い」「サスペンス」「学園」「ホラー」「刑事」「親子愛」など、20作以上が放送された。
——そうしてドラマに触れることで、ドラマ志望になったのでしょうか。
はい。異動の希望を出してから、だいぶかかりましたけど(笑)
——ドラマに異動して最初に担当された作品は何ですか?
まずは2クール放送していた『あなたの番です』(19年)に後半クールから入れてもらい、様々な勉強をさせてもらいました。何も分からないまま入って、もうアップアップだったのですが(笑)、最終的に1話分を撮らせていただきました。
それから、『24時間テレビ』では志村けんさん(20年『誰も知らない志村けん -残してくれた最後のメッセージ-』)と、欽ちゃんと奥さんの物語(24年『欽ちゃんのスミちゃん 〜萩本欽一を愛した女性〜』)を演出させていただきました。これらの作品は、ドラマの合間合間に過去のアーカイブ映像をガンガン入れ込む構成だったのですが、自分にはドラマ経験が浅い分、“定型”とか“常識”があまりなかったので、そういうことが遠慮なくできたのかな、と思いますし、そういった部分でバラエティの経験が生きているのかなとも思います。
●ドラマを始めてからブッキングが「素直に」
——念願かなってドラマに異動されましたが、現在も特番で放送されている『1周回って知らない話』では引き続き演出を担当されています。
40歳を超えてから希望していたドラマ班に行っていいということになったんですけど、その時点では『1周回って知らない話』と『ヒルナンデス!』(月曜日)の演出をやっていました。異動の際、「『1周回って知らない話』はこれからも続くからできるよな?」と言われて、僕はもうドラマに行けることに喜んでいたので、「できます!」と即答してしまいました(笑)
——『1周回って知らない話』について、前回の林田さんが「ゲストをどういう角度で掘っていくかの感覚が、ドラマを始めてから鋭くなっていると思う」とおっしゃっていたのですが、ご自身としてはいかがですか?
「鋭くなった」という表現が正しいかどうかは分からないんですけど、僕自身で言えるのはバラエティをメインでやっていた時に比べると、いい意味で肩の力が抜けた感じがあります。ゲスト1人選ぶにしても、バラエティメインでやってた頃は「ゲストに誰を呼べば、たくさんの視聴者に見てもらえるか」というのを、様々な情報データを参考にし多角的に熟考して決めていたんですけど、今はそういうことをほとんどしていないんです。素直に「今だったら、この人の話聞きたいな」という方をブッキングするようになったのは、ドラマを始めてからですね。
それと、高嶋ちさ子さんと、そのお父さん・お姉さんに密着する企画が人気なんですが、その企画を最初にやった時に、自分の中ですごい発見があったんです。VTRでは家族3人に密着しているだけなんですけど、今までにないくらい笑い転げたのを覚えています。なぜ、あのご家族が面白いのかというのを自分なりに分析してみると…今のテレビではちょっと躊躇(ちゅうちょ)してしまうような表現がどんどん出てくるんです。時に悪口を言い合うし、ちさ子さんとお父さんがそろって、ダウン症のお姉さんに文句を言ったりするのですが、そこに年齢差とか障がいとか一切関係なく、家族の愛があるからこそ許されていて。
こういうありのままを見せることで面白さが伝わるものは、世の中にまだまだたくさんあるんだろうなと気付かされたんです。だから小手先の技術を駆使するよりも、自分の感覚が本当にシンプルに「今知りたい」という直感的な興味に変わったのかなと思います。そういう意味で、高嶋ちさ子さんファミリーの密着は、自分の作るものにすごく変化を与えてくれた、転機になった企画です。
——その発見は、ドラマでも生かされているのでしょうか。
そうですね。最初にチーフ演出を任された『恋です! 〜ヤンキー君と白杖ガール〜』という連ドラで、杉咲花さんに弱視の障がいのある高校生役を演じてもらったんですが、このドラマの世界にも“高嶋ちさ子さんファミリー”に通じる部分があって。このドラマの“伝えたいこと”の一つが「障がいのある人たちだって、健常者と同じように日常に“爆笑あるある”がたくさんあって楽しく過ごしている」というものだったんです。「健常者が何の知識も持たずに障がいのある方に対し、“かわいそう”と思うのってそもそもどうなの?」っていう。だからこそ、弱視の人たちにとって当たり前に笑える世界をありのままに描いて、大いに笑ってもらおう!と演出しました。『1周回って——』の経験が生きたのかもしれません。
○全員に配慮しながらガンガン聞いていく東野幸治
——バラエティでお仕事をしてきた中で、特に印象に残る方はどなたになりますか?
くりぃむしちゅーさんには、本当に密度の濃い番組制作の中でいろいろ教えてもらいました。それとやっぱり『1周回って——』の東野幸治さんが素晴らしいですね。ああ見えてとても気をつかう方なので(笑)、メインゲスト、パネラーゲスト、観覧のお客さんも含めて、スタジオの全ての人に配慮しながら、一番聞きたいことをガンガン聞いていってくれるし、メインゲストの方も自然といろいろ話してしまう空気づくりが、ものすごい技術だと思っていて。
メインゲストの方の背景とかも、事前に勉強されているのか分からないんですけど、入念に調べているはずの僕らスタッフより情報を持っていたりもします。一見何事にも興味がなさそうに見えるのに(笑)、実はいろいろなことにアンテナを張り続けている方なので。だからこそ、あの番組は東野さん以外ではできないと思っています。
——ドラマの世界に来て、興味を持って深く掘っていきたいと思って『1周回って——』にオファーした方もいらっしゃるのですか?
小泉孝太郎さんですね。ここに至るまでの役者の道のりや、どんな幼少期を過ごされたのかということにすごく興味があり、弟の進次郎さんとそろって出ていただきました。
●脚本家・プロデューサーと共通認識で作る『なんで私が神説教』
——4月から新ドラマ『なんで私が神説教』が始まりました。この企画はどのように解釈されましたか?
このドラマには「今の世の中は説教しづらくなっちゃったよね」という、わりとみんなが共通して持っている常識や偏見をぶち壊していこうというメッセージが込められているんです。先ほどお話しした通り、こういうのは好きなプロットだったので、めちゃくちゃ面白くなりそうだなと感じました。
——『となりのナースエイド』からご一緒されている脚本のオークラさんもプロデューサーの藤森真実さんもバラエティ出身ということで、共通言語を持つやりやすさなどはありますか?
そうですね。ニュアンスとか温度感とか、しっかりとフリ・オチの話が分かるという部分でいうと話はしやすいですし、そういう共通認識がある上で作っているような感覚はあります。
——CM明けやCM入り前に先の見どころ予告をサイドテロップで入れていますが、これもバラエティの経験を踏まえた演出でしょうか。
ドラマを途中から見た方、たまたまザッピングした方に対して、「どんなドラマなのか」「従来の学園ドラマとは一味違いますよー」というこちらの思いも含めて、その一端だけでも伝えたい…という思いからです。「テロップを入れると世界観を邪魔して嫌」という意識があまりない、という考えでいうならバラエティの経験が関係しているかもしれません(笑)
○野呂佳代&伊藤淳史への信頼
——主演の広瀬アリスさんの印象はいかがでしょうか?
広瀬アリスさんには、一般的に“明るくて華やか”というイメージがある中で、『神説教』では「最近までニートでめちゃめちゃ塞ぎ込んでいて外見も地味」という真逆のキャラクターを演じてもらっています…が、全然違和感ないんです。撮影開始当初からそのキャラクターが確立していて、2カ月経った今も進化し続けています。改めて素晴らしい女優さんだなと思いながら日々撮影しています。
——『神説教』の制作発表会見では、広瀬さんを中心に現場の良い雰囲気が伝わってきました。
めちゃめちゃいい雰囲気で、いい雰囲気すぎてこの先大丈夫かな?と思ってしまうくらいです(笑)。広瀬さんも小手(伸也)さんも木村佳乃さんも野呂(佳代)さんもみんなが現場を盛り上げてくださるので、こちらとしては非常に助かってます。
——『となりのナースエイド』の時にオークラさんとの対談で、「吉住さんの魅力を伝えたいです。めちゃめちゃおもしろいです」とおっしゃっていましたが、今回での注目のバイプレイヤーはどなたになりますか?
もういっぱいいらっしゃるのですが、一人は野呂佳代さんがとっても魅力的だなと思っていて。人柄もいいですが、お芝居がめちゃめちゃ細かいんです。コメディー要素の一端を担ってくれているのですが、「ここまでやったらやり過ぎ」「ここまでやったら大丈夫」みたいな笑いのニュアンスをすごく気にされながらお芝居に取り込んでくれたり、そのことについてものすごく相談してきてくれるので、すごく助かってますし、すごく魅力的だなと思ってます。
それと、伊藤淳史さんですね。『24時間テレビ』のスペシャルドラマで欽ちゃん役をやっていただいて今回もご縁があったんですけど、本当に演技に対して真摯(しんし)に向き合ってくれますし、何よりご家族を大切にされているのがいいなと思うんです。欽ちゃんのドラマの時も、お子さんと一緒にご覧になっていたようで、そのお子さんの感想をすごく大切にされている。素敵な感覚を持たれた方だなと思いながら、今回もすごく頼りにしています。
●自分の作品から会話が生まれてほしい
——今後こういう作品を作ってみたいというものはありますか?
去年、「ベタドラマ」が約20年ぶりに復活して特番をやったのですが、ああいうドラマとバラエティのハイブリッド的な、「そういう手があったか!」と言われるような企画にもチャレンジしていきたいですね。
——バカリズムさんの『ノンレムの窓』は、それに近い企画ですよね。
そうですね。『世にも奇妙な物語』(フジテレビ)とはまたちょっと一線を画して、笑えるオムニバスっていいんじゃないかということで始めたのですが、やっぱりバカリズムさんの脚本が本当に面白いので、そこがうまくできた番組ですね。
——配信が発達してきた中で、「地上波の連続ドラマ」が果たす役割というのは、どのように考えていますか?
若干考え方が古いかもしれませんが、自分の作ったものが家で会話になればいいなと思っています。すごく食い入るように見てもらわなくてもいい。みんなが今スマホで一人でYouTubeを見るのに対して、テレビは複数で同時的に視聴するメディアなので、「作品として残したい」という意識よりも、刹那的にその場でちょっと見てる人が楽しくなって会話が生まれてくれればいいんです。ドラマを見て、ストーリーと関係なく出てる役者さんの話をしてくれてもいいと思っています。
SNSで発信したり共有したりするのが当たり前の今ですが、先ほどお話しした、伊藤淳史さん親子のように、一緒にテレビを見て、そこに会話が生まれて、それが僕に伝わってきて「今、子どもはこういうのが好きなんですよ」「それ面白いですね」と、言葉がどんどんつながっていくような役割が、テレビにはまだまだあるんじゃないかという気がしています。
——誰かと一緒に視聴すると、最初の起点がSNSの口コミではなく会話から始まるので、より言葉がつながっていくということがあるのかもしれないですね。ご自身が影響を受けた番組を1本挙げるとすると、何でしょうか?
大学で劇団に入ったきっかけは、フジテレビの『恋人よ』(95年)というドラマだったんですよ。岸谷五朗さんと鈴木保奈美さんが出て、ゴリゴリの不倫ドラマなんですけど(笑)、高校生の時に見て、ひどく感銘を受けまして。それで、何かを表現するとか何かを作るというものに興味を持ち始めました。あれを見ていなかったら、今ドラマを作っていなかったと思います。
——岸谷さんや鈴木さんとお仕事されたことはあるのですか?
岸谷さんは『恋です!』に、杉咲花さんのお父さん役で出ていただきました。「この世界に入るきっかけを作ってくれたのは、岸谷さんです。ありがとうございます」と言ったら、喜んでいただけました(笑)
——いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…
『1周回って——』でずっとお世話になっている制作会社「いまじん」社長の中山準士さんです。高橋トシさん(日本テレビ・高橋利之氏)とよく番組をやっていて、『行列のできる相談所』の最終回も中山さんが演出を担当されていました。会社の社長でありながら、第一線でバラエティのディレクターとして活躍していて、すごいバイタリティだなと思いながらいつも一緒に仕事をしています。
次回の“テレビ屋”は…
いまじん・中山準士社長

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