孫×100歳のおじいちゃん「要介護3の祖父と、吉本興業を辞めた孫。持ちつ持たれつの二人暮らしが楽しい理由」

2024年5月9日(木)12時30分 婦人公論.jp


芸人の芦名秀介さんと祖父の廣喜さん(撮影:宮崎貢司)

孫にドッキリを仕掛けられ、大きな声で驚くおじいちゃん。そんな動画で一躍人気者になったのは、芸人の芦名秀介さんと祖父の廣喜さんだ。廣喜さんは要介護3だが、二人の暮らしには笑顔が溢れている。ここに至るまでには波瀾万丈の歴史があった(構成:樋田敦子 撮影:宮崎貢司)

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<前編よりつづく>

ネットの世界でも人気者に


廣喜 あの頃は俺も元気だったよ。自転車にも乗れたし、筋トレもして。50歳で始めたテニスも含めて、よく運動したよ。

秀介 そうそう。2020年、コロナ禍で仕事が減ったから、ユーチューブやティックトックでネタをやろうと当時の相方に持ちかけたら、「おじいちゃんとやるべきだ。90超えて自転車に乗れる人はいないよ」って言われた。

それでためしに短い動画をティックトックに投稿したら、たくさんの人に見てもらえて。なんてことない日常を撮影しただけなのに、1億回も再生されてびっくり。最初はじいちゃんに内緒で撮影していたけれど、いとこの子に見つかってバレたんだよね。(笑)

廣喜 そうだった。恥ずかしいからやめてくれと言ったな。

秀介 でもその後、東北に住むじいちゃんの戦友から動画を見たと連絡が入ったり、それがきっかけでアメリカに住む親戚ともつながることができたり、嬉しい反響があった。

それで撮影を許してくれたんだよね。自分の顔を動画で初めて見た時は誇らしかったんじゃない?

廣喜 まあまあだな。(笑)

秀介 自分に厳しい(笑)。ユーチューブで本格的に動画を投稿するようになって、今では登録者が30万人以上。じいちゃんのおかげだし、もっと誇ってよ!

廣喜 いやいや、秀介がなにもかもやってくれるから。

秀介 じいちゃんとの距離は近づいたと思う。同居人から共演者に変化したからかな。軽いドッキリを仕掛けることが多かったけれど、じいちゃんもどんどんリアクションがうまくなって(笑)。ちゃんとマイクに音が入るように腹から声を出してくれる。食レポもできるよね。

廣喜 撮影で思いがけずおいしいものが食べられたりするのが嬉しいよ。大好きな甘いものもよく食べさせてくれるよな。

秀介 じいちゃんを使って広告収入を得るのは悪いなあという気持ちはあった。

廣喜 楽しんでやってます。

秀介 大変だったのは去年じいちゃんがコロナにかかった時。粗相したり、せっかく作ったご飯も咀嚼ができないからって捨てられたりして。伯母さんたちも来られなかったから完全にワンオペで、いつまでこの状況が続くのかと思ったらつらかった。正直、じいちゃんに手をあげてしまいかねないほど追いつめられていたんた。

コロナ闘病中の介護の様子を生配信したところ、虐待を疑われ、地元の区役所に100件もの通報が。一方で、「こんなにつらそうなのに、なぜ行政は何もしてあげないの」という電話もその半数くらいあった。区役所から芦名家に連絡が入り、秀介さんは廣喜さんの回復までの介護をやり切ることができたという。

廣喜 あの時は本当にありがとう、秀介がいてくれたからちゃんと治せたんだよ。

秀介 動画の投稿を始めて、じいちゃんが有名になったことで、思わぬいいこともあったよね。22年3月、じいちゃんが外出先で転んで病院に運ばれた時。CTで異常が見つからなかったから、いったんは安心した。

でも、転ぶ前の日の夜に冷蔵庫の前でしばらくじっと立ち尽くしていて様子が変だったことを動画で話したら、視聴者から「絶対にMRIも撮って調べて」とコメントがついて。心配になって検査を受けたら脳梗塞がわかって即入院。それで要介護3になったんだよね。

廣喜 朦朧としていたから覚えていないけど、ありがたいね。

秀介 ほかにも視聴者からいろいろアドバイスをもらって。一人じゃないと思えて、元気づけられたな。

廣喜 うん、うん。

秀介 脳梗塞の後、普段は温厚なじいちゃんが「せん妄」という意識障害のせいで、「うるさい!」と怒ったり、好物も食べなかったりで心配したなあ。

廣喜 それも記憶があやふやだけど、たしかに食欲はなくなっていた。心配かけたね。

秀介 体が動くようになると、洗濯物を干そうとして2階に上がる途中で転落。運よく持っていたバスタオルが頭を守ってくれたからよかったけれど、僕は外出中で、家に3台取り付けてある《見守りカメラ》からスマホに送られてくる映像で見て、生きた心地がしなかった。

廣喜 階段の下に「上がっちゃだめ」って書いた紙を貼ってくれるようになったのは、それからだね。ありがとう。

秀介 回復してよかったよ。食欲も戻って一安心。その後はヘルパーさんを含めた見守り体制ができあがって、僕もしんどくないし大丈夫。大好きなパチンコにも行ける(笑)。

じいちゃんも父親もパチンコ好きだから、これは芦名の血だね。去年で吉本興業も辞めて今は充電中。最近は動画も1ヵ月に1本程度しか撮らないよね。

廣喜 まあ、ゆっくり考えればいいんじゃないの。

じいちゃんは一人しかいないから


秀介 出演したテレビ番組で、難病の母のために仕事を辞めた人と出会って、自分の一番大切なものを考え直したんだ。じいちゃんを最期まで看ることを中心に、仕事を自分で調整できるほうがいいと思ったの。本人に直接言うことじゃないけど(笑)。

もう「親孝行」はできないけれど、じいちゃんは生きてる。お笑いの仕事は劇場に立つばかりじゃないし、やろうと思えばいくらでも方法はあるけど、じいちゃんは一人だから。

廣喜 秀介が自分で決めたことなら嬉しいよ。

秀介 昔からじいちゃんのことが好きで、友だちがいなくて寂しかった時も、じいちゃんの布団によく潜り込んでた。老人扱いしないから厳しいかもしれないけれど、周りを頼りつつお世話していくよ。ところで、じいちゃんは今なにがしたい?

廣喜 これっていうのはないけど、温泉に行きたいね。

秀介 去年、行ったばかりよ(笑)。覚えてる?

廣喜 箱根の湖の近くだろ。

秀介 惜しい。山梨でした!

廣喜 部屋にお風呂があった。

秀介 思い出が残っていてよかった。元気でいればまた行けるからね。初めてお風呂に入れたりうんちを拭いたりした時は、「これが介護か」とげんなりしたけれど、今はすっかり慣れて気分は「エンタメ介護」。僕もじいちゃんとの毎日を楽しんでいるよ。

婦人公論.jp

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