有田哲平、今田耕司、有吉弘行も…50代大物芸人の番組が続々スタート「地上波より制作費も少ないのに」BSが選ばれる“意外と深い理由”とは
2025年5月15日(木)18時0分 文春オンライン
地上波でMCを担うような芸人が、続々とBSでレギュラー番組を持ち始めている。この春には、博多華丸・大吉、オードリー・春日俊彰がそれぞれホストを務める番組がスタートした。
なぜMCクラスの芸人が大陸移動さながらに、BSへと進出し始めているのか? BS放送において、これまで数多くのバラエティ番組を輩出してきたBSフジに話を聞いた。
地上波に見劣りしない、豪華なラインナップ
「この番組を見ない理由があるとしたら、BS番組だからってところもあると思う。みんな、ほんまにおもろいもんはキー局でやるって思いこんでる部分があるんですよ。言っとくけど、BSは福岡、札幌の繁華街くらいはいってるぞと(笑)。どこにいても、結局は人が大事やと思う。このチームは、おもろい奴らが集まっている」
2021年、私がBSフジで放送中の『ブラマヨ弾話室〜ニッポン、どうかしてるぜ!〜』を別媒体で取材した際、ブラックマヨネーズ・吉田敬はこう言い切った。BS番組は想像している以上に、「おもろい」と。

この言葉を一層裏付けるように、現在BS番組には、地上波でMCを担うような芸人が続々と進出している。例えば、この春からは、博多華丸・大吉がホストを務める『華丸大吉が行く! 大人もハマる神授業』(BSフジ)、オードリー・春日俊彰がホストを務める『オードリー春日の知らない街で自腹せんべろ』(BSテレ東)が新番組としてスタートした。昨年11月には、不定期放送ではあるものの今田耕司がひたすらパスタだけを食べる『スパゲッTV』(BSフジ)も始まった。
現在、芸人がMC・ホスト役を務める主なBS番組をまとめると——。
≪BS日テレ≫
おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR, NO LIFE!(おぎやはぎ)
友近・礼二の妄想トレイン(友近/中川家・礼二)
ドランク塚地のふらっと立ち食いそば(ドランクドラゴン・塚地武雅)
ロビンソン酒場漂流記(マキタスポーツ)
≪BS朝日≫
バナナマン日村が歩く! ウォーキングのひむ太郎(バナナマン・日村勇紀)
魚が食べたい! 〜地魚さがして3000港〜(山口智充)
家呑み華大(博多華丸・大吉)
ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版(ケンドーコバヤシ)
夢が咲く 有吉園芸 〜Road to start a garden shop〜(有吉弘行)
ネコいぬワイドショー(さらば青春の光・森田哲矢)
≪BS-TBS≫
町中華で飲ろうぜ(浅草キッド・玉袋筋太郎)
カンニング竹山の昼酒は人生の味。(カンニング竹山)
ヒロシのぼっちキャンプ(ヒロシ)
いぬじかん(ハナコ・岡部大)
ねこ自慢(サンシャイン池崎)
サンド伊達のコロッケあがってます(サンドウィッチマン・伊達みきお)
≪BSテレ東≫
オードリー春日の知らない街で自腹せんべろ(オードリー・春日俊彰)
飯尾和樹のずん喫茶(ずん・飯尾和樹)
なぜ君は筋トレをしていないのか?(マヂカルラブリー・野田クリスタル)※不定期放送
≪BSフジ≫
クイズ!脳ベルSHOW(おかだますだ・岡田圭右)
ブラマヨ弾話室〜ニッポン、どうかしてるぜ!〜(ブラックマヨネーズ)
華丸大吉が行く! 大人もハマる神授業(博多華丸・大吉)
有田哲平の休日はラーメン連食(くりぃむしちゅー・有田哲平)
スパゲッTV(今田耕司)
岡村・亮・原西・津田の日本爆釣り!!原西フィッシング倶楽部(ナインティナイン・岡村隆史、ロンドンブーツ1号2号・田村亮、FUJIWARA・原西孝幸、ダイアン・津田篤宏
太田光のテレビの向こうで(爆笑問題・太田光)
小峠英二の試乗最高!〜夢の一台 次の一台〜(バイきんぐ・小峠英二)
ブラマヨ小杉のヘルシー食いしん坊(ブラックマヨネーズ・小杉竜一)
※有田哲平の休日はラーメン連食〜ブラマヨ小杉のヘルシー食いしん坊までは不定期レギュラー放送
中洲、すすきのどころか、もはや北新地といってもいいほどのプレゼンスを誇っているのだ。地上波のテレビ番組と比べても見劣りしないほど、人気者がBS番組へ進出していることが一目瞭然だろう。なぜ、これほどまでにMCクラスの芸人がBSに集結しているのか?
大物芸人がBS番組に集まる理由
「今は争奪戦のような雰囲気すらあります」
そう話すのは、『華丸大吉が行く!大人もハマる神授業』の企画・編成を担当するBSフジ編成局編成業務部・酒井健吾氏。BSフジは、07年に『所さんの世田谷ベース』を開始するなど、いち早くBS番組にバラエティ要素を持ち込んだパイオニアだ。また、『クイズ!脳ベルSHOW』を帯番組化するなど、それまで通販番組やドラマ再放送が一般的だったBS番組のラインナップに風穴を開けたという意味でも、率先垂範した存在と言える。そんなBSフジでさえ、MCクラスの芸人が群雄割拠するBS番組の現状に目を丸くしているという。
「『オードリー春日の知らない街で自腹せんべろ』は、春日さんが自身のラジオ番組で、街でお酒を飲む番組をやってみたいと話されていたことがきっかけでした。実は、我々もその発言を聞いてオファーをかけようと考えていたくらいです。我々が注意を払っているように、他のBS局もこうした発言をチェックしています」(酒井氏、以下同)
上記の各局ラインナップを見ても分かるように、BS番組は演者の趣味をテーマにした番組が少なくない。『アメトーーク!』などの番組で、伊達みきおがコロッケを、飯尾和樹が純喫茶を好きだと公言することで、“一本釣り”よろしく、BS各局がオファーをかけることが珍しくないそうだ。
「BS番組は地上波に比べると制作費も少ないです。そのため緩くならざるを得ない部分があるのですが、その雰囲気が趣味的な番組と相性が良いことも大きいと思います。『有田哲平の休日はラーメン連食』も、有田さんがラーメンにハマっているというところからスタートした企画ですし、今田さんの『スパゲッTV』は、有田さんのラーメン連食を見て、『自分もそういう番組をやりたい』と実現した企画です」
自分の好きなことができる——。この点が、BSにMCクラスの芸人が集まる呼び水になっていることは間違いない。私が、『有田哲平の休日はラーメン連食』の取材をした際、有田哲平はこんなことを語っていた。
「こういう番組って、今の僕の気持ちとなんか合っているところがあって。芸人としての手応えはまったくないんだけど、BSファンである自分からしたら理想的な番組。夢のような空間でした。ボケもせず、リアクションもせず、ただ美味しいラーメンを食べるだけっていう(笑)」
歳を重ねてきたことで「ボケの呪縛から解放されたのかもしれない」と話し、こう続けた。
「割とベタな公園に子どもと一緒に行ったりすると、“めっちゃいいじゃん、公園”とか、“花がめっちゃ綺麗”とか、やっと染みるようになって。今までだったら、どうボケようとかシミュレーションしていたけど、ただただそこにあるものを楽しめるというか。人生折り返しに来て、そんなことを思いますね。自分の意思で行った場所にしか感動はないんだなって」
「50代だからこそ、BSの雰囲気と合致する」
先の番組ラインナップを見ると、ホストを務める芸人の多くが50歳を超えている。これは決して偶然ではないだろう。肩の力が抜けてきたタイミングで“自然体”を求めたとき、BSは歴戦の芸人たちにとって“イイ塩梅”なのだ。前出・酒井氏が説明する。
「『華丸大吉が行く! 大人もハマる神授業』のテレビ誌のインタビューに同席したのですが、この番組はお二人が各分野の専門家を訪ね、“神授業”を受ける教養バラエティです。その際、大吉さんが『BSといえば、“大人のBS”というイメージが昔からあります。かつてBSフジさんで『華大の知りたい!サタデー』(2015年4月〜2016年9月)という番組に出演させていただいたときはまだ40代で、まだ若かったと思うんですよ。いまは50代も半ばにさしかかり、やっと歳相応になれたかなと思います』と仰っていました。50代だからこそ、BSの雰囲気と合致するところはあると思います」
BSの視聴者層は50代以上が多いという。肩肘張らない趣味的な番組を受け入れる土壌があり、視聴者自身、人生を折り返した人たちだ。視聴者と演者の感覚が近いからこそ親和性が生まれ、さらには酸いも甘いも噛み分けたMCクラスの芸人がBSというフィールドで等身大の姿を見せる。
私はまだ40代だが、四捨五入すれば「死」に近い。だからなのか、最近はギラギラしたものやキラキラしたものに疲れてしまう。少なくとも、午前中から芸人やタレントが、電流のビリビリを食らって一生懸命リアクションを取っている様子を反芻できるほど胃腸は元気ではない。私のように「折り返している」と感じている人にとって、BS番組は漢方のような存在でもあるし、カウンターカルチャーのようでもある。地上波の番組に疲れてしまうという人にすすめたくなるBS番組は、思いのほか多かったりする。
「おかげさまでBS番組を面白がってくださる視聴者の方は多いです。一方で、BS局としては、この先を考えていかなくてはいけないなと。つまり、30代、40代の視聴者層をいかにして増やしていくかです。2025年は、BSが開局して25周年という節目の年です。開局当時に比べれば、BS番組のラインナップはバラエティ豊かになり、認知度を向上することができたと思う半面、若い層を掘り起こしていかなければいけないという課題もあります」
開局当時、BS各局のラインナップは、再放送、ニュース、映画と似たようなコンテンツしか流れていなかった。だが、今現在の木曜22時のBS各局のラインナップを見てほしい。
BSフジ 『飯島直子の今夜一杯いっちゃう?』(飯島直子)
BS日テレ 『なおみ農園』(財前直見)
BS朝日 『家呑み華大』(博多華丸・大吉)
BS-TBS 『釣り百景』
BSテレ東 『あの本、読みました?』(鈴木保奈美)
飯島直子と財前直見と華丸大吉と鈴木保奈美(と釣り)が、BSで横一線に並ぶ世界線を誰が想像できただろうか。外呑みvs農園vs家呑みvs釣りvs読書である。BS番組は着実に面白くなり、芸人やタレントにとって魅力的な舞台装置に変わってきているのだ。30代、40代の掘り起こしを視野に入れるなら、今後、BS番組はさらに多種多様なラインナップになる可能性が高い。曲がり角を迎える今こそ、BS番組を見直してみてはどうだろうか。
(我妻 弘崇)