4年で別れた元夫は金欠で根なし草。難病まで抱えた彼を見捨てられず、手を貸し続けて早16年

2024年5月16日(木)12時30分 婦人公論.jp


(イラスト:宮下和)

内閣府男女共同参画局が令和3年に発表した「結婚と家族をめぐる基礎データ」によると、婚姻件数に占める再婚件数の割合は、1970年代以降上昇傾向で、近年では約4件に1件の割合で再婚とのこと。パートナーと支え合う人生を望む人もいる一方で、ちょっとした同情やその場のノリで結んだ絆に、苦しめられることもあります。只見道子さん(仮名・北海道・パート・63歳)は、4年で別れたものの、元夫を支える生活が続いているそうで——(イラスト:宮下 和)

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この人は路上生活まっしぐらだ


それもこれも、別れた男の面倒をうっかり見てしまったことから始まった。身から出た錆だ。こんな状態の男を今さら捨てられない。

16年前、私は途方に暮れていた。離婚した元夫が家に転がり込んできたのだ。そもそも、4年間の短い結婚生活に終止符を打ったのは、彼に「出ていけ」と言われたのがきっかけなのに……。

半年も経たないうちに「住むところに困っている」と泣きついてきた。理屈で言えば他人なのだから、面倒を見る必要はない。けれど理屈と感情は別物だった。

目の前にいるのは、仕事もなく、家もなく、金もなく、持っているのは古い自動車だけのうらぶれた中年男。履いているサンダルでさえ、大きな穴が開いていて、裸足同然だった。私が追い出すと、この人は路上生活まっしぐらかもしれない……。そう思うと、かわいそうで思わず手を差し伸べてしまったのだ。

一緒には住みたくなかったので、基本あちらは車中泊。たまに家に来て、私の作った食事を食べ、風呂に入る。

まずは定職に就いてもらわなければ。きちんとした服装を私が揃えて面接に送り出したところ、運よくタクシー会社に就職できた。その後も、仕事にスーツが要ると言えば紳士服店へ、革靴が要ると言えば靴店へ。全部私が買い与えていた。

数年後に自分でアパートを借りるまで、いや、借りてからも彼の生活を支え続けたのだ。

華やかな生活を夢見る彼


元夫がタクシー運転手になって10年。彼は独立した。会社に勤めて一定期間無事故無違反を続けると受験できる、個人タクシーの試験に受かったのだ。

彼が独立に際して手に入れた中古のプリウスは、とても安かったがボロボロ。私を墓参りに連れていってくれた時に、墓地の駐車場で動かなくなってしまった。走行距離30万キロ超。相当な距離を走っているのだから、諦めるしかない。

彼は「車がないと仕事にならない」と嘆く。まったくその通りだ。駕籠かきが、駕籠を持っていないようなもの。私は、「これで買っておいで」と彼に金を渡した。

その昔、戦国時代の武将・山内一豊の妻は、「これで馬を買いなさい」とお金を渡したらしい。結果、一豊は戦でうんと手柄を挙げた。

私は生活費をもらっていないのだから、一豊の妻とは立場が違っている。でも、個人タクシーの事業がうまくいけばもっと稼げるはず、と彼は言う。会社員時代は売上げの半分が会社の取り分だったけれど、個人になったら収入が倍になる。毎年海外旅行に行こうとか、毎月温泉に行くのだとか、華やかな生活を夢見る彼。

私もともに夢を見た。きっと車のお金も返してもらえるだろう。そして、今までの恩を私に返してくれるだろうと期待が膨らんでいた。

新車を買うにはお金が少し足りない。そこで手に入れたのが、比較的新しい中古のクラウン。彼は再び墓参りに私を連れていってくれた。駐車場に停めたクラウンはピカピカだ。もちろん、帰る時もちゃんと動いた。

夫の着ぐるみを着た別人がそこにいる


ところが彼の個人タクシー事業は、営業を始めた途端、コロナ禍にぶち当たった。緊急事態宣言が発出され、タクシー需要は激減。会社員時代と変わらず、生活はカツカツだ。

給付金でなんとか堪え忍んでいた彼を、さらなる不幸が襲う。ある日、片方の脚が付け根から爪先まで、象のようにぱんぱんに腫れあがった。皮が引っ張られ、ひざを曲げることもできない。嫌がる男を病院に連れていき、調べてもらった。

免疫の壊れる難病という診断。それからはずっと、病院と縁が切れない。「今日明日が危ない」と医師に言われたこともある。

泡を喰った私は、この時点ですでに離婚して12年も経っているのに(それは実に婚姻期間の3倍だ!)、戸籍だけでも夫婦にしておかないか、と彼に提案した。家族か、家族でないか。コロナ禍の病院では厳然と区別された。家族ならば病状を聞くことができるが、家族でなければ、いくら頑張っても蚊帳の外。

離婚後、私たちは一緒には暮らさなかったが、自転車で15分ほどの距離に住んで、週末は一緒に買い物に行ったり、ご飯を食べたりしていた。夫婦だった頃よりもずっと関係はよい。それなのに、病院で「あんたは家族ではないから関係ない」と言われたくない。

自分の決断を呪わずにいられない


私たちは夫婦に戻った。夫の病は難病のため、効く薬はない。それでも、医師が飲め、という薬をまじめに飲んだ。

すると、食欲が止まらない。みるみる体重が20キロ増えた。もはや以前の面影はない。性格も変わってしまった。それも薬の副作用の一つ。

本には「攻撃的になる」と、1行で済まされているのが腹立たしい。一緒にいる身になってみろ。いつも、相手が怒っているのだ。

彼の着ぐるみを着た別人がそこにいるようだった。薬のおかげで命を長らえたけれども、夫は死んだのと同じなのかもしれない。

それでも以前と同じように、週末は一緒に出掛けていたが、最近、夫が歩けなくなった。薬が大腿骨の骨頭をダメにしてしまったのだ。病名は「特発性大腿骨頭壊死症」。

これもまた、国の指定難病である。彼は、「俺、ふたつの難病持ちになった」と笑ったけれど、まったく自慢にならない。

来月、夫は人工関節に取り換える手術を受ける予定だ。でもその後、歩けるようになるかはまったくわからない。

歩けなくなった人に向かって、「お世話をするのはもうやめます」なんて言えるものか。あの時の自分の決断を呪わずにはいられない。

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自治体に相談も


只見さん(仮名)は約12年にわたり元夫の面倒を見ていますが、同様に家族や知人の生活を支えているという方も少なくないのでは。

共倒れになる前に、頼れる機関や制度がないか、早めに考えてみることも大切です。

心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する自立支援医療制度があります。精神通院医療、更生医療、育成医療の対象者に当てはまる場合は、医療負担が軽減するかもしれません。

厚生労働省HP(自立支援医療)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html

その他、働けなくなった時の国の保証制度として、病気や怪我の治療で働けなくなってしまった場合の傷病手当金や、年齢を問わずに国が支給する障害年金もあります。

各自治体の相談窓口などを頼りつつ、自分の生活が維持できるような制度を検討してみてはいかがでしょうか。

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