台湾トップ・ミュージシャンも出演した豪華キャストのオムニバス・ストーリー【日本初上映『タイペイ、アイラブユー』】
2025年5月20日(火)12時0分 文春オンライン
リム・カーワイ監督をキュレーターに迎えた「台湾文化センター 台湾映画上映会」が今年もスタート。第1回が5月17日、日大文理学部オーバル・ホール(東京・世田谷区)で開かれた。生憎の風雨にもかかわらず、多くの台湾映画ファンが足を運んだ。
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この日は2023年製作のオムニバス映画『タイペイ、アイラブユー』(原題:愛情城事)が日本で初上映された。上映後のトークイベントには、本作のプロデューサーであるエイミー・マーさんがオンラインで、会場には映画批評家の相田冬二氏が登壇した。

『タイペイ、アイラブユー』
大都市・台北の街で生きる人々の様々な愛の形を、10話のオムニバスで綴った。路上で花を売る祖父と孫娘、一緒にコロナ・ワクチン接種にでかけた女性と義理の父親、ロト(宝くじ)をめぐって偶然出会った男2人の奇妙な交流、会った覚えがない女性に親しげに話しかけられた男……。日本で知られたスター俳優も多く出演し、台湾・香港・マレーシア・ブータン・フランスなど多彩な監督たちが演出したのも注目だ。金馬奨2023クロージング作品。
2023年/115分/台湾 原題:愛情城事/英題:Tales of Taipei
監督:イン・チェンハオ、リウ・チュエンフイ、ノリス・ウォン、レミー・ホアン他/出演:チャン・チェン、チェン・シューファン、カリーナ・ラム、サミー・チェン、ウー・バイ他/©Kurouma Studios
監督は5人が台湾人、5人が他地域、5人が女性、5人が男性
オンラインで登場した本作のプロデューサーであるエイミー・マーさんは、この映画をつくった経緯をこう語った。
エイミー・マー(以下、マー)「この映画のもともとのタイトルは『愛情城事』と言います。まず“愛”は様々な愛を描いているということ。そして“情”は、情には愛情もあれば友情もあるし、家族の愛情や知らない人との出会いなども意味しています。“城”は都市、最後の“事”は出来事という意味です。つまり、愛と情について様々なことが都市で起きているというタイトルですね。
私がどうしてこの映画を作ろうと思ったかというと、コロナ禍を経験した後で、これから映画を作るとすると、派手なアクションとかホラーとか、そういったものではないと感じたんです。そこで、アジアなど様々な国や地域から若手の監督たちを集めて、人々の心の触れ合いを描いてもらいました。いろいろな人々の愛情をめぐる物語を通じて、観る人が何か力を感じてもらえたらという風に思ったのです。
そして、必ずしも意図したわけではないのですが、10人の監督は5人が台湾の人で、5人は他の地域の人になり、そして5人が女性で5人は男性となりました。
それぞれ文化的な背景が違う、様々な監督たちがそれぞれの視点から愛について描くという形になっています」
相田氏は、作品の感想をこう話した。
相田冬二(以下、相田)「この映画は10分ちょっとの作品が10作入ったオムニバス映画で、それぞれ人間同士の対話が描かれています。夫婦やパートナーも出てきますが、初めて会ったり、違う国から来た異邦人であったり、お互いがお互いのことをあまり分からない、違う価値観を有している人々の対話が描かれている。そして、10のエピソードは非常にバラエティには富んでるけれど、共通した部分もあると思いました。それは出てくる人間同士が対等に描かれているということです。夫婦も出てきますが、抑圧的な関係ではない。とてもフェアネスを感じました」
人気歌手ウー・バイはなぜ起用されたのか
客席からはマーさんに、「台湾でこの映画がどのように受け止められたか」という質問が出た。
マー「面白いのは、この映画を観た後、みんな色々討論をするんですね。どの話が好きだったとか、どれが面白くなかったとか、あるいは、どの人物が好きとか。今日のようなQ&Aもありましたが、たくさんの質問がいつも寄せられました。中でも多いのは俳優について、そして自分の経験に置き換えての感想でした。例えば、10のエピソードのひとつに「若い男女が出会って、『あれ、この人知り合いだったっけな』から始まる話」がありますが、こういうのは結構、いろんな人が実際に経験していることでもあるので、話しやすい。きっとそんな風に映画を観た人が自分自身をどこかで反映しているような人物を見つけられるんじゃないかと思います」
映画にはエピソード間をつなぐ役割としてバイクの新聞配達員が全編に登場しているが、演じているのは台湾のトップ・ミュージシャンであるウー・バイ(伍佰)。その起用の理由について客席から質問が出た。
リム・カーワイ「補足しますと、台湾好きな人はみんなよく知っていると思いますが、ウー・バイさんは台湾ではすごく有名な歌手ですよね。彼の曲はすごく流行ってて、台湾の人は誰でも歌えます。20年前くらいにアクション映画に1本出演したことはありましたが、その後は映画に出ていなかった。今回、新聞配達員で登場したので、とても驚きました」
マー「10本の物語を貫く役としての新聞配達員のキャスティングにはとても悩みました。そしてやはり、この人は台湾を代表する顔を持った人でなければいけないだろうと思ったんです。そこでウー・バイしかいないんじゃないかと。見た目としてもそうですし、その性格的なものも含めて、この人ほど台湾らしい人はいないんじゃないかとオファーを出しました。そうしたら、ウー・バイさんはとても面白がってくれて、是非この役を引き受けたいと言ってくれたんです」
台湾映画はホッとする
最後に台湾映画の魅力について、尋ねられると、
相田「台湾映画は、何が台湾なのかってことをちゃんと味わわせてくれます。つねにそんな親近感をもって観られるのが台湾映画であり、また台湾なのかなと思います。それは抑圧的なものがなく、ルールを押し付けてこないからですね。台湾映画を観て勝手にホッとするっていうのは、真実なんじゃないかなっていう気はしますね」
マー「今のお話も私もとても同感です。確かにとてもホッとするところがあると思います。今の台湾で映画を撮ってる人たちは、例えばホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンといった人たちとはまた違う映画の作り方をしていると思うんですけれど、でもそこにはやっぱり、通じる魂がある。人間性、愛情、そういうものを描いていて、それは非常に温かいものであるけれど、同時にとても強いものでもあるのです」
(週刊文春CINEMAオンライン編集部/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)