「今の自分に刺さりすぎて…かなり共感」枝優花監督&山崎まどか『We Live in Time この時を生きて』を語り合う
2025年5月28日(水)18時10分 シネマカフェ
『We Live in Time この時を生きて』© 2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
この日登壇したのは、『少女邂逅』で知られる映画監督の枝優花と、鋭い視点で社会を切り取るコラムニストの山崎まどか。映画の上映後、熱気冷めやらぬ会場の大きな拍手に迎えられ、トークイベントがスタートした。
枝監督は開口一番、「30代の今の自分に刺さりすぎて…かなり共感しました」と吐露。劇中の主人公たちと年齢が近いこともあり、人生の岐路に立つ彼らの姿が自身の感情と強く重なったという。
山崎も「本作がただの恋愛物語ではなく、決断という大きなテーマもある作品」と語り、物語の奥深さに触れた。
■フローレンス・ピュー×アンドリュー・ガーフィールド、それぞれの魅力
映画では30代の等身大の男女を演じているが、フローレンス・ピューは現在29歳、アンドリュー・ガーフィールドは41歳と、実際には年齢差があるが、その年齢差を微塵も感じさせない自然な演技に、枝監督は「アンドリュー・ガーフィールドが演じたトビアスのあり方が、私の中では希望であり、新しいと感じた」と熱く語る。
続けて、「男女逆の物語はこれまでたくさん見てきました。でも本作は、男性がキャリアのために女性に変化を求めるような関係とは違って、トビアスが愛する人のために自分を譲り、愛する人を尊重していく。その姿が、現代で生きる上でぶち当たる壁を乗り越える、新たな男性像として映りました」と絶賛。
一方、山崎は、フローレンス・ピューの魅力について「彼女自身の生命力や思い切りの良さが、映画のリアリティを後押ししていた。俳優として真実味がある存在」だと力説。
フローレンス・ピューがインスタグラムで料理動画を配信する日常的な顔から、役作りのための体型変化を拒否したり、ヌードシーンにも自然体で臨む彼女の姿勢が、自立した女性であるアルムートのキャラクターと完璧に重なっていたと指摘し、「彼女はカメレオン俳優ではないが、言動にリアルな存在感がある」と、その魅力を称賛した。
■「観客がふたりの未来を先に知ってしまう」時系列のシャッフルに注目
さらに話題は、本作最大の特徴である、時系列をシャッフルした斬新な構成についてへ。劇中では出会いや人生における喜び、悲しみ、最悪な日…これら全ての瞬間がバラバラに提示されていく。
山崎は「そもそも人生は全部混乱しているようなもの。自分の人生が物語になるとして、今自分がどの地点にいるのかなんて分からない。ガーフィールド演じるトビアスは、計画的な性格で将来のことをしっかり考えているけれど、ことごとくうまくいかない。でも、それがすごくリアルで良かった」と語り、構成が生むリアリティを解説。
さらに、「時間がシャッフルされることで、観客がふたりの未来を先に知ってしまう瞬間が生まれて、その構造もとても面白かった」と分析した。
枝監督も「ぐちゃぐちゃな時系列が、より一層人生の機微を際立たせていた」と同調し、「本作は、いろいろな展開がありながらも、ポジティブなものに向かっていく作品。人生どうなるか分からないけど、結局は今を生きていくしかないんだということが、この斬新な時間軸の描かれ方によってより深く理解できた」と話し、観客がまるで自分の記憶をたどるように物語を追体験できる構造だと語った。
■病ではなく「生きていることにフォーカスしている」
また、本作はいわゆる“余命もの/難病もの”作品とは一線を画す物語。枝監督は「病気そのものではなく、生きていることにフォーカスしている」と、そのポジティブなメッセージを強調。アルムートの生き方から、「どんなに辛い状況でも前を向いて生きる」ことの尊さを感じたと語る。
山崎は、「完璧主義」や「SNS疲れ」が蔓延するいまだからこそ、この映画が持つ“揺らぎ”が重要だと指摘する。
「ネット越しに他人の成功が見えてしまい、自分がそれを逃しているのではないかと思い込む」現代において、この映画は「何が成功で失敗かもわからない」人生の真理を突きつける。しかし、その真実を突きつけられたからこそ、観客は「失敗だらけに見えても、実はそうではない」と、自分自身の人生を肯定的に捉え直すことができる。
アルムートが病に直面しながらも、ひたむきに生きる姿、そして彼女の意志が残された夫と娘へと受け継がれていくラストは、人生の「繋がっていく」力を強く示唆していると、本作の意義を熱く語った。
さらにイベントの終わりには、枝監督が「今日の観客には20代の方が多いと聞きました。世代が違う皆さんが、どんな風にこの作品を受け取ったのか気になります」と投げかけると、山崎は「映画って、その1〜2時間に自分の人生を預けるようなもの。失敗したら嫌だなと思う人もいるかもしれないけど、どんな映画にも必ず何か持ち帰れるものがある。今日のこの時間が、皆さんにとって良いものになっていたら嬉しいです」と、映画鑑賞の価値を改めて強調していた。
『We Live in Timeこの時を生きて』は6月6日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開。