【インタビュー】クリストファー・ノーラン×ジョン・デイビット・ワシントン、歴史的傑作『TENET』の誕生秘話に迫る

2020年9月15日(火)18時0分 シネマカフェ

『TENET テネット』(C) 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

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「全世界待望」という言葉がこれほど似合う映画は、ほかにないだろう。世界的ヒットメイカーであり、観る者を熱狂させる作家性を有した超一流クリエイターでもある、クリストファー・ノーラン監督の新作『TENET テネット』(9月18日公開)。

8月26日から41の国と地域で公開された本作は、世界興行収入5,300万ドルのオープニングを記録。コロナ禍にあっても、他の追随を許さない圧倒的な強さを見せつけ、各国で初登場No.1を獲得した。


本作の大枠は「世界の破滅を回避すべく、スパイが奔走する」物語なのだが、そこに「時間の魔術師」なノーラン監督らしい「時間の逆行」という要素を入れ込み、映像的にも物語としても、これまで観たことがない内容に。歴史的な傑作と呼ぶにふさわしい、驚異的な作品に仕上がっている。

今回は、ノーラン監督と主演を務めたジョン・デイビット・ワシントンの2人にインタビュー。予定時間を超過しても、作品の魅力や舞台裏を饒舌に語りつくしてくれたノーラン監督とワシントンの言葉を、余すことなくお届けする。

“時間”は「世界の見方を変える」

——『TENET テネット』、読解力を総動員しなければ太刀打ちできない傑作かと思います。同時に、監督の「観客の理解力を信じる」姿勢を強く感じました。

ノーラン:常々、映画は誠実に作っていきたいと思っています。ではその誠実さとは何なのか? それは「自分が観たいものじゃないと作りたくない」なんです(笑)。

そして、「きっと、私が観たいと思う映画を楽しんでくれる人がいるに違いない」という信念はありますね。

自分だったら何を期待するのか? ワクワクしたいし、現実逃避がしたい。今までに見たことのない世界を見たいし、やっぱりエンターテイメントがいい。プラス、世界に対する見方がちょっと変わるかもしれないもの、あれこれ考えたくなるものが観たいんです。


——今回は、ノーラン監督がこれまで描いてきた「時間」というテーマがより複雑化していますが、『TENET テネット』における時間の意味合いとは?

ノーラン:「時間」はこれまではメタファーであったり、話を円滑に進めるデバイス的な役割を果たすものとして、使ってきました。『TENET テネット』では、「世界の見方を変える」意味合いとして用いています。

——「逆行」は、まさに観たことがないものでした。

ノーラン:映画の中ではいろんな物理学の法則が出てきて、「すべてはシンメトリーだけれど、エントロピー(熱力学における、複雑さを表す概念の1つ)だけは例外である」と描いていますが、「逆行」の部分に代表されるように、「時間」というものを物理的な次元に落とし込んで、リアルに画面の中で見せていかなければいけませんでした。

逆行をどうCGを使わずに表現するか……役者にも不自然な動きをしてもらわなければならないわけですし、演出的にも技術的にも工夫を凝らしましたね。


例えばカーチェイスのシーンなどは、1つのショットを作り上げるのに6通りの撮り方を試しました。その6パターンの映像を編集でつなぎ合わせて、作り上げているんです。毎シーン毎シーン、計算して組み立てて、試行錯誤の連続でしたね。


役者とのやり取りや演出「監督はすごく楽しそう」
——ジョン・デイビット・ワシントンさんは、こういった非常に難易度の高い作品に出演するにあたり、どんな準備をされたのでしょう? 劇中では、ほとんど主人公の過去が明かされませんが…。

デイビット・ワシントン:おっしゃる通り、色々と解釈の余地のあるキャラクターなので「この人はどういう歴史を背負っているのか?」は、あれこれ考えましたね。役作りにおいては、海軍やネイビーシールズ(アメリカ海軍の特殊部隊)、武器の使い方などについてリサーチを行いました。


もう1つ考えたのは、あのクリストファー・ノーランの作品だから、ものすごいスケール感があって、ジャンルもストーリーも、撮影技術的にも、ひとひねり加えた素晴らしいものになるだろう…という前提。ただ僕としては、そういう超大作の中に、ある1人の“人間”をしっかりと据えるんだ、という意識がありました。

脚本を読んで、下調べをしていく中で、この主人公は実に人間らしい人物だと感じられたんです。人によっては、彼の行動を“落ち度”と見るかもしれないけれど、その脆弱性こそが彼の力だと解釈しました。


——なるほど、人間らしさがキーワードだったんですね。

デイビット・ワシントン:他には…トレーニングが大変でした(笑)。2か月半ほど体作りに費やしましたね。

ただ、形から入ったことで、「この人はこういう男で、こういうことができる」というのが体で分かってくるようになったんです。トレーニングの中で「なぜこの人は戦うのか?」という部分の理解が深まり、役作りに追加していきました。

あと、もう1つ。ノーラン監督は、僕をパートナーとして見てくれて、一緒にものづくりをしよう、と接してくれるんです。監督がいつも「直感を信じて、やりたいようにやったらいいから」と言ってくれたおかげで、安心して感じるままに演じられました。


——「逆行」するアクションも、すさまじかったです。

デイビット・ワシントン:今回は、体に染みついた動きを“脱・学習”して、今までに体験したことがない身のこなしを新たに習得する必要がありました。

まばたきや呼吸、喋り方ひとつにしても、全部学び直さないといけない難しさがありましたね。リハーサルも相当数を重ねました。まるでダンスの振り付けを覚えるような感覚でした。

今まで映画ではなされなかったことが初めて行われた現場でしたし、スタントコーディネーターのジョージ・コトルの力なしにはできなかったと思います。


——そのほか、ノーラン組に参加して印象的だった思い出はありますか?

デイビット・ワシントン:びっくりしたのは、監督は悪天候だとテンションが上がるんですよ。雨がザーザー降っていてもやる気満々だし、逆にデンマークの風力発電所での撮影で快晴だった時には全然喜んでいなくて…。次の日大荒れになったら、「やったぞ」という感じでした(笑)。

ノーラン:(笑)。

デイビット・ワシントン:あとやっぱり、役者とのやり取りや演出をつけるとき、すごく楽しそうですね。例えば会話の中で、「ブルース・ウェイン風にやってみよう」とか、色々遊んでくれるんです。

共演者のお話をすると、ケネス・ブラナーの姿を見て、自分は俳優としてはまだまだだな…と思いました。彼は本作でロシアなまりの英語を話しているんですが、それに加えてこの映画特有の話し方もこなしていて、しかもシェイクスピア劇みたいに朗々と語っている。僕はなまりなしのアメリカ英語で精一杯だったので、さすが名優中の名優だ! と感嘆させられました。



斬新なアイデアは「あれこれ考えてきたことが収れんした形」
——ジョン・デイビット・ワシントンさんの役作りについて伺ってきましたが、ノーラン監督はどういったものから、『TENET テネット』のアイデアを思いつかれたのですか?

ノーラン:これは『インセプション』もそうなんですが、あれこれ考えてきたことが収れんして形になっていった感じですね。自分が送っている日々の生活や、その中で見聞きしていること、私自身がどんどん年を取ってきているという事実などが積み重なって、「そろそろこのコンセプトを映像に落とし込んでもいいかな」という時期がやってくるんです。

そういう意味では、何か一つがヒントになるというよりも、長年抱えている思いだったり、温めて続けてきたコンセプトなんですよね。


——ありがとうございます。『インターステラー』に続く、物理学者キップ・ソーンさんとのコラボレーションはいかがでしたか?

ノーラン:彼の話を聞いていていると、「世の中は、いま目に見えている可能性よりもさらに“何か”を提供してくれるものなんだ、もっともっと様々なことがありうるんだ」ということに気づくんです。フィクションよりも気になる真実を、教えてくれる。

『TENET テネット』に関して言うと、先ほど申しあげた物理の法則について相談に乗ってもらいました。「世の中のあまねく物理の法則はシンメトリーだけど、唯一の例外がエントロピーの法則だ」という部分です。


キップ・ソーンは、「時間が逆行するとなると、人は普通に呼吸できない」とか、事細かに説明してくれました。彼にもらったアイデアは、実際の脚本にも盛り込んであります。

もう1つキップ・ソーンの素晴らしい点を挙げると、私たちよりも遥かに頭脳明晰なのにも関わらず、我々の「どういうことを映画でやりたいのか」をちゃんと聞いてくれて、落とし込んでくれるところ。だからこそ彼は、偉大な学者なんだと思います。

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