「最近でもすごく落ち込むので(笑)。自信なんてないです」大ブレイクした奈緒(29)が「転機だった」と振り返る“あの名作”

2024年10月5日(土)12時0分 文春オンライン

 公開中の主演映画『 傲慢と善良 』でも抑制のきいた演技で観客を魅了する奈緒には、転機となった作品があるという。その作品と共に、今最も注目を集める女優が自身のキャリアを振り返った。(全2回の前編/ 後編 を読む)





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結局は考え方ひとつかなって。


——これまでのキャリアは順調でしたか?


奈緒 はい、思っていた以上に。もちろん自分では想像もしない壁と出合って、乗り越えていかなければならない瞬間はたくさんありましたけど、俯瞰して引いて見たときには順調に歩ませていただいていると思います。


——順調だとはっきり言えるのは素敵なことですよね。


奈緒 最近、なにをもって仕事が順調かということをすごく考えるんです。でも、たとえきついことがあっても、結局は考え方ひとつかなって。いま順調だと思えば、そのとき困難だったことも成長するうえで必要なことだったと思える気がするんですね。そう考えられるようになったこと自体が、順調に歩めている証なのかなと最近は思っています。


とにかくやりたいと思う自分を信じたい。


——18歳のとき、地元・福岡で演技のワークショップに参加し、芝居に興味を持ったことがキャリアの起点だと思います。そのころは将来の自分の姿をどうイメージしていましたか?


奈緒 そのころは本当にいろいろな夢がありましたけど、ただただ映画をすごく好きになって、映画に出ることが大きな目標だったので、キャリアの初めのころの夢はスクリーンのなかにあったと思います。


——20歳のときにお母さまの反対に遭いながら上京されたんですよね。親に抗ってまで、なぜ上京したかったんですか?


奈緒 お芝居を真剣にやりたいという気持ちが強かったんです。これ以上にやりたいと思えるものには二度と出合えないかもしれないと感じていたので、あのとき初めて強い気持ちで自分の進路を決めました。たくさんある選択肢のなかから自己決定をした最初の記憶です。とにかくやりたいと思う自分を信じたい。そういう気持ちがありました。


母の知らない私


——お母さまはなぜ反対していたんですか?


奈緒 このお仕事は、夢を持つたくさんの人のなかでも、本当に限られた人だけが機会をいただける世界ですよね。努力をしたからといって、その努力が実るかどうかわからない。その荒波のなかに自分の娘を送りだすことが怖かったんだと思います。それは娘を守りたいという気持ちでもあったはずなので、いま思えば愛情だったんでしょうね。


 あとになって聞いたことですが、母から「私の前でやってみせてよ」と言われて、ワークショップでやってきたお芝居を披露したことがあるんです。そのとき、いままでに見たことのない私の姿を見て、反対していた気持ちが少し揺らいだって。母が知っている私なら不安だけど、もしかして必死で夢を追いかけているのは、母の知らない私なのかもしれないと思ったことが、母の気持ちを変えるきっかけになったと聞きました。


上京直後は社員の仕事も


——上京直後は当時の事務所で社員の仕事も兼務していたんですよね。


奈緒 はい、マネージメントの仕事のお手伝いをしていた時期もあります。


——オーディションでうまくいかないことも多かったそうですが、つらい時期でしたか?


奈緒 そうでもなかったんですよね。お手伝いをする時間はとても楽しかったですし、どちらに行こうかと揺らぐくらいでした。そういうかたちでお芝居に携わる道もあるのかもしれないなって。でもその時期にいろいろ考えて、いちばん好きなのはやはりお芝居だし、思いきりやったと自分で言えるまでお芝居をがんばってみてから、他のことを考えてみてもいいんじゃないかと思ったんです。


——じゃあ、芝居以外の仕事に触れることが、芝居に対してプラスになって。


奈緒 そう思います。いままでを振りかえると、なるべく好きなことを選択してきたと思うんです。ただ、どうしても好きなことだけでは済まないというか、我慢しないといけないことも付いてまわるので、つらいと感じるときもあって。


 でもつらいと感じることにも、自分の好きなやり方で取り組めるといいなと思っています。好きなことはどんなやり方でもできるので、そうじゃないことを好きなやり方でできるかどうか。それがいまの私の目標です。まだまだ未熟なので難しいですけど、そこがいまいちばんもがいているところかもしれません。


自分の実力不足を痛感する瞬間


——これまでにぶつかった壁には、どんなものがありましたか?


奈緒 いろいろあるんですけど、自分の実力不足を痛感する瞬間が何度もありました。それが自分にとっては大きな壁でしたね。あとは初めてお会いする方たちと一緒にもの作りをするので、そこでのコミュニケーションとか。私はいろいろなことがわりとのんびりしているほうなので、周囲のスピードに付いていけないときもありました。


——実力不足を感じたのは、キャリアの初めのころですか?


奈緒 いや、どうだろう? 最近でもすごく落ち込むので(笑)。むしろ最初のころのほうが、なにもわかっていないからこそ強くいられたかもしれません。自分の未熟さを振りかえる余裕すらなく、新しい課題や刺激と向き合う日々に充実感を感じていたような気がします。


 できることがひとつ、ふたつと増えていくなかで、できないことが可視化されていって、求められるものが多くなる分、自分の課題も増えていく。ああ、こういうことが苦手なんだなって、やればやるほど気づいていくんですよね。いまでも家に帰って頭を抱える毎日です、本当に(笑)。


大きな転機になったのは、“あの作品”?


——主人公の幼馴染役に扮したNHK連続テレビ小説『半分、青い。』(2018)は、大きな転機になった作品のような気がします。ご自身にとっては?


奈緒 大きかったですね。朝ドラはたくさんの方たちが毎朝観てくださって、みなさんの日常生活に影響を及ぼすエンターテインメントだと思うんです。あのときは気づかなかったけど、それだけ多くの人が観てくださるということがどんなことなのか、責任感が芽生えるきっかけになったと思います。


自分にとって大きな自信になったこと


——それは自信にもつながりましたか?


奈緒 そうかもしれませんね。『半分、青い。』はオーディションを経て出演しましたけど、約11カ月間、みんなで一緒にもの作りをしていくチームに入れてもらえたことは、当時の自分にとって大きな自信になりました。なにより母が喜んでくれたことが大きかったです。


 もちろんたくさんの方に観ていただいたり、応援していただいたりすることは、本当に大きなパワーになるんですけど、たとえ100人の方に応援していただいても、母から応援できないと言われたらものすごく落ち込んでしまう。そういう意味では、あのとき母が心から喜んでくれる姿を見て、やっとこの仕事をやっていけると思えるようになった気がします。


——そうやって作品を経るごとに、自信を積み重ねていって。


奈緒 うーん、いまも自信があるかどうかと言われると、あまりないんです。でも自信がなくてもいいのかなって、キャリアを重ねれば重ねるほど思うようになりました。自信のない自分を受け入れられるようになってきたのかもしれませんね。


撮影 深野未季/文藝春秋

〈 「このお仕事を始めた時から不安症なんです」それでも奈緒(29)が“センシティブで難易度の高い役柄”に挑み続ける“納得理由” 〉へ続く


(門間 雄介/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル)

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