「被害者ばかりを逮捕」北朝鮮警察の“拝金主義”に国民が反発

2024年1月12日(金)3時54分 デイリーNKジャパン

コロナ前は、市場経済の進展である程度は豊かなになりつつあった北朝鮮だが、コロナの影響をまともに喰らい、非常に苦しい状況に追い込まれた。それも、貿易に依存している経済の実情を無視して、国境を完全に封鎖してしまうというやり過ぎとも言えるコロナ対策による人災だ。


それに伴い、治安が極度に悪化している。当局は、金正日時代のように銃殺などの重罰で対応しているが、むしろ市民の反発を買っている。



そもそも司法手続きが公正なものとは言えない。韓国に程近い開城(ケソン)では、自転車盗難事件が起きたが、その対応をめぐり、市民から怒りの声が上がっている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。


市内に住む青年は先月初旬、自転車を盗まれる被害に遭った。北朝鮮の庶民にとって、自転車は貴重な生存手段だ。彼は兵役に服していたが、病気になってしまって除隊した。しかし、治療に集中できる経済的余裕がなかったため、親から買ってもらった新しい自転車を使って商売を始めた。ところが数日後、家の外に停めておいたわずか数十秒の間に盗まれてしまった。


隣人を通じてすぐに安全部(警察署)に通報したが、自転車は既に売り飛ばされた後だった。交通事情が悪く、自動車の個人所有が原則として許されていない北朝鮮において、自転車は非常に貴重な交通手段で、商売に欠かせない。


彼はなんとかして自転車を取り戻そうとしたが、待てど暮らせど安全部からは捜査の進捗について連絡が来なかった。業を煮やして安全部を訪ねて問い合わせたが、何の返答も得られなかった。そこで、知り合いの安全員(警察官)を通じて、状況を問い合わせてみたところ、信じられない答えが返ってきた。安全部は、この事件の捜査を行うどころか、もみ消そうとしているというのだ。


埒(らち)が明かないと考えた彼は、開城市検察所を訪ねて事件の解決を訴えた。しかし、「こんなことくらいであちこち訪ね歩くのではなく、泥棒と直接話しをつけろ」と言うばかりだった。


それでも彼は諦めず、ついに犯人を見つけ出し、自転車を返してもらう約束を取り付けた。しかし、事は一向に進まなかった。堪忍袋の緒が切れた青年は犯人につかみかかり、暴行の罪で逆に逮捕されてしまった。


実はこの犯人、開城市安全部の幹部の家族だったのだ。


話を聞いた市民は怒りをあらわにしている。


「町内の住民は、開城市安全部や検察所などの司法機関のイルクン(幹部)たちがグルになり、力のない庶民の被害者ばかりを逮捕していると非難している」(情報筋)


縁故主義と拝金主義のはびこる北朝鮮では、コネとカネさえあれば、よほどのことでなければ事件をもみ消すことができる。「有銭無罪・無銭有罪」が当たり前なのだ。かつて、現地に多数進出していた韓国企業の工場で働いた経験を持つ開城市民の中には、北朝鮮の体制に反発を抱いている人が多いと言われるが、こんなことを許しておけば、市民の心はますます北朝鮮から離れてしまうことだろう。

デイリーNKジャパン

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