デフォルトの危機抱えG7出席のバイデン大統領、心は広島にあらず

2023年5月17日(水)6時0分 JBpress


バイデンは原爆死没慰霊碑前で謝罪するのか

 ジョー・バイデン米大統領が広島で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席するため、5月18日広島入りする。

 同日には地元選出で議長役の岸田文雄首相と首脳会談し、19日から21日に開催されるG7に向けての最終調整を行う。

 G7では、ウクライナ侵攻を続けるロシアや、覇権主義的な動きを強める中国への対応に加え、被爆地から「核兵器のない世界」実現に向けたメッセージを打ち出す。

 その意味で今回のG7は内憂外患のバイデン氏にとっても正念場だ

 今や最も信頼できる同盟国・日本で、しかもかつての敵国・米国が原爆を投下した広島で開かれるG7とあって米国民にとっては複雑な思いが交錯している。

 その辺の空気を主要メディアの政治ジャーナリストJ氏はこう指摘している。

「広島での開催にバイデン政権は異論を唱えなかった」

「すでにバラク・オバマ第44代大統領(民主党)が訪問し広島平和都市記念碑(原爆死没者慰霊碑)で追悼の意を表明している」

「ドナルド・トランプ前大統領はじめ共和党タカ派の間には原爆投下を正当化し、広島への大統領訪問、しかもG7開催地に異論を唱える者はいたが、今回は目立った論争にはなっていない」

「それよりも何よりも今回のバイデン氏の広島G7参加には別次元での国内問題が絡んでいる」

「連邦政府の借入限度額である『債務上限引き上げ』ができなければ、デフォルト(債務不履行)に陥る」

「まず、軍や警察、消防などを除く連邦政府職員の給与が支払われなくなる。国家機能の一部がマヒしてしまうのだ」

「下院の野党共和党は、引き上げに賛成する代償としてバイデン政権が推し進めてきた目玉政策であるインフレ抑制法、学生ローン免除措置、電気自動車販売支援などの撤廃を要求している」

「バイデン氏がこれを認めれば、2024年の大統領選で再選を目指すバイデン氏には逆風になる可能性大だ」

「共和党は、こうした大幅な歳出削減を交換条件に債務上限の引き上げを行う法案を提示、可決を目指しているが、民主党が過半数を占める上院では可決されない。これを百も承知の上での行動だ」

(Factbox: What's in Republican McCarthy's debt-limit spending cut package? | Reuters)

 すべてが大統領選を念頭に入れた党派間の政治闘争だが、「外」はそう見ていない。

 米議会が債務上限引き上げを承認しなければ、連邦政府は機能マヒ状態に陥り、緊急事態が生じる。

 エベル・ヘインズ国家情報局長官は5月5日の議会証言でこう警告している。

「(デフォルトが生じれば)中国とロシアはチャンスと見るのは間違いない。米国政治がカオスに陥ったことを情報作戦を通じて宣伝するだろう」

「実際、ドルの価値、米国のリーダーシップ、政府機関に不確実性が出てくれば、ドルによって動いている金融市場、商品市場は動揺する」

(Biden intel chief: ‘Almost a certainty’ China, Russia would exploit a US debt default | The Hill)

 これを受けてシャランダ・ヤング行政管理予算局長も記者会見でこう述べた。

モスクワと北京は米システムがカオス状態になると見ている。中ロは米国が基本的な仕事ができずにいるのを見るのが大好きだ」

「中国では民主主義が存在するのか、あったとしてもそれはあくまで中国流の民主主義だ」

「こうした事案に我々は積極的に行動をとるべきだ。米国民のために正しいことをすべきだ」

 カリーヌ・ジャンピエール大統領報道官は5月9日の定例記者会見でヘインズ発言を引用してこうコメントした。

「議会共和党がやっていることはまさにこういうことだ。共和党がやるべきこと(債務上限額引き上げを認める)をしなければ米国は混乱状態になる。さっさとやるべきだ」

(Press Briefing by Press Secretary Karine Jean-Pierre | The White House)


「伝家の宝刀」憲法修正第14条4項を抜くか

 デフォルト問題は2011年夏、オバマ政権の時にも起こったことがある。

 野党共和党は、草の根保守「ティーパーティ」が支持する超保守・緊縮財政派議員たちの突き上げもあって、オバマ政権の放漫財政に真っ向から対立、デフォルトが生じる同年8月2日ぎりぎりまで歳出削減を要求した。

 だが、共和党は政府機関の閉鎖や金融市場への影響を恐れた世論やメディアの圧力に直前で折れて、期限当日の8月2日に債務上限引き上げ法(Budget Control Act of 2011)が成立した。

 ワシントン観測筋の間では、世論と市場の動向で今回も最終的には共和党がバイデン政権から最小限の歳出削減を引き出して妥協するのではないか、との見方も出ている。

 だがその一方で、共和党のケビン・マッカーシー下院議長は、15回も行われた投票の末、議長に選ばれた際に債務上限引き上げ拒否を公約しているだけに、そう簡単には引き下がれないといった見方も根強い。

 こうした状況を踏まえて、バイデン氏は憲法修正第14条4項を根拠に正面突破作戦に出るのではないか、といった見方も出始めている。

 第14条4項にはこう明記されている。

法律により授権された合衆国の公共負債の有効性はこれを問うことはできない

(The validity of the public debt of the United States, authorized by law, including debts incurred for payment of pensions and bounties for services in suppressing insurrection or rebellion, shall not be questioned. But neither the United States nor any State shall assume or pay any debt or obligation incurred in aid of insurrection or rebellion against the United States, or any claim for the loss or emancipation of any slave; but all such debts, obligations and claims shall be held illegal and void.)

(14th Amendment to the U.S. Constitution: Civil Rights (1868) | National Archives)

 民主党内ではハト派のエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)が同憲法修正の適用を強く訴えている。

 2011年の時にも、財務省は同項目を適用して債務上限に関係なくして財務省証券の発行継続を検討していたことがある。

オバマ大統領がこれに反対したため実現していない)

(Democrats press Biden to use 14th Amendment on debt ceiling | The Hill)


大統領はどこにいても大統領だ

 バイデン氏が「留守」の間もホワイトハウス、財務省、民主党執行部とマッカーシー氏ら共和党議会幹部との協議が続く。

 ジャンピエール報道官は、「大統領がワシントンにいない間協議はどうなるのか」との記者からの質問にこう答えた。

「大統領はどこにいようとも大統領だ。この事案についても大統領は協議内容を協議チームから逐一報告を受ける。そして指示を与える」

 記者団はただちに「この事案で副大統領は関与していないのか」と意地の悪い(?)質問を浴びせた。

 ジャンピエール氏は「大統領は副大統領とも緊密に協議している。何回も意見交換している。米国民に関わり合いのある事案について大統領と副大統領とはパートナーだ」と付け加えた。

 どこか、取ってつけたような答えだった。

(Press Briefing by Press Secretary Karine Jean-Pierre | The White House)

 バイデン氏は2024年の大統領選立候補宣言の時にカマラ・ハリス氏が再びランニングメイトになることを明らかにした。

 だが民主党内のハリス氏の評価は芳しくない。支持率はバイデン氏の支持率よりも低い。

 すでに共和党で大統領候補に名乗りを上げているニッキー・ヘイリー元サウスカロライナ州知事(元国連大使)は、バイデン批判の矛先をハリス氏に向けている。

「バイデン氏に投票するということはハリス氏を頼ることになる。バイデン氏が86歳になる2期目任期末にまで続けられるとは思えないからだ」

 大統領としてのハリス氏の資質や経験に懐疑的な見方をあらわにしたわけだ。

 著名なコラムニスト、ジェフ・グリーンフィールド氏は5月15日のポリティコにこう書いている。

「バイデン氏の政敵、つまり共和党とFOXニュースは、バイデン氏の肉体面やメンタル面での強靭性低下を批判するだけでなく、バイデン後継を目指すハリス氏に照準を合わせている」

「過去には副大統領として大統領の再選の足を引っ張った者もいるが、ハリス氏は自身に対する不人気さだけでなく、サポートするシニア・パートナーの高齢問題を抱えている」

「担いでいる荷物はこれまでの副大統領経験者の荷物よりも重いのだ

(Will Kamala Harris Harm Joe Biden’s Reelection Chances? - POLITICO)

 米議会を担当するアジア系女性ジャーナリストは期待感を込めてこう囁く。

「ピンチはチャンスともいう。ハリス氏はこの債務上限引き上げ問題でバイデン氏の留守中に共和党を説得できるか。成功すれば、不人気挽回のチャンスになる」

「有色人種の女性初の副大統領として、何かできることがあるはずだ」

筆者:高濱 賛

JBpress

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