仮想通貨でこっそり巨額資産築いていた「庶民派議員」に韓国の若者が怨嗟の声

2023年5月18日(木)10時0分 JBpress

「弱者のための政治」を掲げ、「庶民に寄り添う政党」を自任する韓国の進歩政党「共に民主党」から金銭スキャンダルが絶えない。

 党代表を選出する選挙の過程で、議員と党員に現金入りの封筒を配った疑惑で宋永吉(ソン・ヨンギル)前党代表と側近らが検察の捜査を受けているさなかに、今回は「庶民派政治家」を標榜している青年政治家が数十億ウォンの仮想通貨(暗号資産)を保有した事実が暴露され、韓国社会を揺るがしている。民主党内では曺国(チョ・グク)事件のような「国民的反発」が起きかねない事案だという心配が出ているという。

 巨額の仮想通貨保持が判明したのは共に民主党の金南局(キム・ナムグク)議員(41歳)である。


「コンビニのアイスも食べられなかった」と過去の貧困ぶりをアピールしておきながら…

 金議員は、曺国前法部長官が子どもの入試不正で苦境にあった2019年に「曺国守護隊」を主導して世の注目を浴び、2020年の総選挙に「曺国を守る」と訴えて出馬、晴れて当選して国会議員となった。

 金氏はロースクール出身の弁護士ではあったが、故郷の光州を離れてソウルに上京した当時は、月に100万ウォン(約10万円)も稼げなかったほどの生活苦を強いられていたという。彼はこうしたエピソードを披露し、自分の窮乏ぶりを前面に押し出して、「庶民派政治家」のイメージを作り上げていった。

「私にとって100万ウォンは切実だ」「カップラーメンで食事を済ませ、コンビニのアイスクリームも食べられないほど金を節約した」「議員になった後も地方活動中には金を節約するためモーテルをみつけて秘書たち3人と一つの部屋に泊まった」など、涙の告白で支持者たちの共感を得てきたのである。

 ところが、この“庶民派”青年政治家は、実はとんでもない「神の手クラス」の仮想通貨投資テクニックを駆使して、密かに数十億ウォンの資産を築いた人物であることが暴露された。

 事の発端は5月5日付『朝鮮日報』のスクープだ。<財産15億ウォンと申告していた金南局議員 仮想通貨60億ウォン分を保有していた>とすっぱ抜いたのである。

 60億ウォンといえば、日本円にしておよそ6億円。それで庶民アピールはさすがに世間の共感は得られまい。

 だが問題は、庶民イメージと現実とのギャップだけではない——。


新たな疑惑がボロボロと

 金議員が保有していた仮想通貨「ウィミックス(WEMIX)」とは、韓国のゲーム会社「ウィメイド(WEMADE)」がゲームの中でアイテムやキャラクターを売買する際に使えるよう発行した「P2E」(play to earn お金を稼ぐゲーム)方式の仮想通貨だ。

 2020年10月に初めて仮想通貨取引所に上場されて以降、ゲーム業界のP2Eブームで価値が急騰したのだが、その後の流通量違反や投資家に対する誤った情報提供などで信頼性が損なわれ、22年11月に上場廃止。これに投資した数多くの韓国若者たちを一夜にして奈落に陥れた、いわくつきのコインだ。

 朝鮮日報によると、金氏は、仮想通貨サービスプロバイダー(VASP)に対して仮想通貨取引の際に送金者と受取人の情報を収集・交換しその情報の正確性を保証することを求める「トラベル・ルール」が導入される直前の22年2月〜3月にかけて、保有していた80万個のウィミックスの全量を換金していた。同紙によると、当時の相場で約60億ウォンに相当する。

 そして韓国の公職者倫理法では、仮想通貨は申告対象の資産に含まれていないため、この間、金氏がウィミックスを保有している事実は公表されていなかった。

 続いて6日には、金氏がウィミックスを引き出した当時、金融情報分析院(FIU)が「異常取引」として捜査機関に通知したことが追加報道した。また、金氏が仮想通貨取引に対する課税を施行する時期を22年1月から23年の1月に「1年間猶予」する法案を国会で共同発議したという点も想起させた。(朝鮮日報 「金南局氏の60億コイン、非正常取引を捕捉…FIU、捜査機関に通報」)

 朝鮮日報のスクープは、すぐにライバル紙の後追い報道を誘発し、次々と新たな疑惑が報じられていった。金氏には朝鮮日報が報道した「仮想通貨ウォレット」の他にも3つのウォレットがあることが報じられ、ウィミックスの数量は当初知られていた80万個から127万個、137万個へと跳ね上がった。換金当時の価値も60億ウォンから87億ウォン、100億ウォンへと増えている。

 また金氏が、ウィミックス以外にも上場されていない無名のP2E基盤の仮想通貨を40種類以上保有しているという報道やインサイダー取引を疑う報道、コイン発行会社と組んで相場操作に加担していたのではないかという疑惑も飛び出している。金氏の仮想通貨を巡る騒動はまだまだ続きそうな気配だ。


タダでもらった仮想通貨か

 ところで最大の疑問は、これまで「倹約な生活」を強調してきたはずの金氏が、どうやってハイリスクの仮想通貨投資に数十億ウォンもの大金をポンと出せたのか、だ。その投資のシードマネーについて、金氏の説明は二転三転した。

 金氏はメディアに「株を売却した金でウィミックスを購入した」と釈明したが、金氏の2021年度の財産公開書には株を9億4000万ウォンで売却した代わりに預金が10億ウォン以上増加したことが明らかになっている。

 さらに、「コインを現金化せずに他のウォレットに移しただけ」と主張してきたが、党内部には「株を売却してコインを購入し、値段が上がると一部を売って元金を回収した」と全然違う釈明をしたことが暴露された。

 そして現在、与党「国民の力」を含めた政界の一部が睨んでいるのが「金氏が立法活動をする国会議員であるため業者からロビー目的で仮想通貨を無料提供されたのではないか」との疑惑だ。

 韓国ゲーム学会は声明を出し、「数年前からP2E業者と業界団体が国会にロビー活動するのではないかという噂が盛んだった」として「関係機関の調査を通じて真相が一つ一つ明らかにされなければならない」と主張した。

 ウィミックスは公示に対して30%もコイン流通量が過多だったため上場廃止に至った点を考慮すれば、「ロビーのために業者が金氏をはじめとする多くの国会議員に仮想通貨を“プレゼント”した」との推論には説得力がある。

 また、小心な性格の金氏がほぼ全財産を無名の仮想通貨に投資した背景には「確実な情報」を手に入れたためだという疑惑も提起されている。金氏はウィミックスの他にも40種類余りのキムチ・コインに投資していたが、金氏がコインを買い入れた直後に上場され、価格が急騰した情況が多く見つかっている。

 この中には検索さえもできないほどのコインに数十億ウォンを投資し、全体流通量の40%を保有したまま販売商のような役割をしていたという報道もある。

 金氏がこれらキムチコインで稼いだ総額は、韓国の仮想通貨投資家の中でも上位0.02%に食い込むほどだという。これではまるで金氏の本当の職業は仮想通貨投資であり、国会議員が副業ではないか、との非難が殺到している。

 だが、金氏はこれら推論を全力で否定、「根拠のない誤った報道については法的対応をする」と強硬な態度を取っている。

 いずれにせよ、金南局氏についてはソウル南部地検が、政治資金法違反、脱税、犯罪収益隠匿などの容疑で捜査に乗り出しており、金氏に不法があったかどうかはそこで明らかになると思われる。


仮想通貨投資ブームで人生を狂わされた若者たち

 金南局氏のこの疑惑がどのような結末にたどり着くのかは当局の捜査に任せるしかないが、これとは別に、韓国の若者たちはこの問題の行方を特別な感情をもって見つめている。

 コロナ・パンデミック下の「量的緩和」政策によって韓国では国民的な投資ブームが起き、不動産と株式、そして仮想通貨市場が危険なほどに過熱していた。そして不動産と株式に投資できるほどのシードマネーが足りない青年層は、借金をして仮想通貨にこぞって投資したのだ。不安定な労働市場と急騰する住宅価格を考えれば、経済的に最も脆弱な立場にある若年層がマイホームを手に入れようとすれば仮想通貨に投資するくらいしか道がなかったからだ。韓国の若者たちにとって、仮想通貨で金を稼いでアパートを買うのが大きな夢となっていたのだ。

 たが、ビットコインやイーサリアムほどに市場での信用力がない“キムチコイン”(韓国企業が発行した仮想通貨)は値動きが極めて激しく、一夜にして上場廃止されるケースまであった。その結果、仮想通貨市場で全財産を失い、莫大な負債を抱える若者が続出し、これがポストコロナの韓国における深刻な社会問題となっているのである。

 金南局氏の仮想通貨投資は、それが不正かどうかは別にして、国民から選ばれた国会議員としての倫理性・道徳性の面から国民的な反発を招いている。若者を無分別な投資から保護する法的装置に尽力しなければならないはずの政治家が、逆に鉄火場のような仮想通貨市場でこっそり莫大な富を築いていたということは、ある意味で若者たちの金を「強奪した」に等しいと受け止められている。若者たちから怨嗟の声が上がるのも当然と言えば当然である。

 自身の資産に対する疑惑報道を受け、5月14日、金議員は「共に民主党」を離党することを表明した。そのため党が宣言していた「真相追及」も怪しくなってきたのだが、「ほとぼりが冷めれば金議員もまた復党するはず」との見方も根強く、逆に党の信頼性を揺るがす事態となっている。

 清廉さと高い道徳性を掲げて若者層にアピールしてきた共に民主党は、この事件で逆に若者たちの逆鱗に触れることとなり、あの曺国事件に並ぶ絶体絶命の危機に瀕していると言えるだろう。

筆者:李 正宣

JBpress

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