ウクライナ爆発物処理教官が語る「民家にもトラップ仕掛ける露軍の残忍さ」

2023年5月19日(金)6時0分 JBpress

(国際ジャーナリスト・木村正人)


「地形や地盤によって地雷除去機は使えない、手作業になる」

[ウクライナ中部クリヴィー・リフ発]「日本が大好きだ。どうやって日本刀をつくるのか一度、見てみたい。武士道を尊敬している。将校の掟と相通ずるものがある。私のコードネームは“サムライ”だ。小柄で勇気があるからだ。工兵としてウクライナや旧ユーゴスラビアで1万個以上の地雷を除去した」

 ウクライナ陸軍元大佐で現在、爆発物処理の教官を務めるニコライ・ニコラエビッチ・ドラバティー(62)は淡々と語りだした。

 ニコライはスマートフォンで日本製の地雷除去機の画像を見せながら「日本の除去機は非常に優秀だが、地形や地盤によって機械は使えない。手作業になる」と話した。

「金属成分を含む岩の多い旧ユーゴでは金属探知機は使えなかった。そんな時は目と足と手を頼りに地雷を探り当てなければならない。1度の失敗も許されない。失敗すると吹き飛ばされてしまう」

 日本政府は国際協力機構(JICA)を通じてウクライナ国家非常事態庁の地雷除去専門職員をカンボジア地雷対策センターに招き、最新の日本製地雷探知機を使った研修を実施している。地雷探知機や不発弾を処理するクレーン付きトラックも供与している。

 ニコライは軍人だった祖父に憧れて入隊した。2014年にロシアが武力でクリミアを併合し、東部ドンバス紛争に火をつけていなければ、今頃はのんびり年金生活を送っていたはずだ。

 ロシア軍はウクライナ侵攻で占領していた地域に地雷を敷設し、ユニセフ(国連児童基金)とウクライナ国家非常事態庁は国土の約3割が地雷で汚染される恐れがあると警告している。

 クリヴィー・リフのNGO(非政府組織)が運営する民間施設の一室でニコライはロシア軍が仕掛けるさまざまな地雷について講義していた。筆者が部屋に入ると無表情な兵士にジロリと睨まれた。一つ間違えば命を落とす緊迫した空気。そのあと兵士の一団は模擬地雷が埋まった草地で探知訓練を行った。兵士たちの集中力が削がれるため写真撮影は厳禁だった。


「一歩踏み出す時、絶対、全体重を乗せてはダメ」

 平和と戦争の間には残酷な落差がある。兵士たちの指導を終えたニコライは「地雷原に足を踏み入れたら、少し前方を注意深く見るんだ。そして足元を確かめる。一歩踏み出す時、絶対に全体重を乗せてはダメだ。探るように足を進め、少しでも違和感があったら棒で慎重に探る。ネコのようにそっと足を進めるんだ」と地雷探知のコツを筆者に教えてくれた。

 ウクライナ軍は「春の反攻」で塹壕、対戦車溝、「竜の歯(装甲車を妨げる鉄筋コンクリートの障害物)」、機関銃を設置したコンクリートの陣地、バンカーによる幾重もの防御線を突破しなければならない。対車両・対人地雷やブービートラップも仕掛けられている。反攻において地雷除去は極めて重要な役割を果たす。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、地雷、仕掛け線、ブービートラップはロシア軍にとって、ウクライナ軍の歩兵に重傷を負わせたり、装甲車を停滞させたりするための防御手段だ。

 村の道端で土中に埋めたり、瓦礫で覆ったりして簡単に仕掛けられるが、見つけるのは至難の業だ。今年3月に226人の市民が地雷で死亡し、724人が負傷した。

「ロシア軍が占領していた農村部で人が吹き飛ばされることが非常に多い。畑を耕すため、人々は自分で地雷を掘り起こさなければならない。気づかず地雷を踏んでしまうこともある。手榴弾が枕の下に仕掛けられていて、頬杖をついたら爆発したという悲劇も起きている。たくさんの民間人が吹き飛ばされているんだ」とニコライは説明した。


「地雷の除去は戦争が終わってから少なくとも数十年かかる」

 ロシア軍は退却時、民家にもブービートラップを仕掛けていく。

「ロシア軍の残虐行為で民間人が巻き添えになっている。対人地雷だけでなく、民間人のいる場所での使用は戦争犯罪とされる白リン弾も使っている。それが戦争の真実だ」とニコライは吐き捨てた。

 ウクライナ国防省はロシア軍がドネツク州の激戦地バフムートで白リン弾を使用したと非難している。

 ニコライは手作業で地雷を探知して除去するためのナイフと折りたたみ式のツールを見せてくれた。ニューヨーク・タイムズ紙によると、動物の死骸を手掛かりに仕掛け線を発見したり、ロシア軍が脱走兵を殺すことを目的とした電気仕掛けの地雷に引っ掛からないようグラスファイバーの棒で地面を探ったりするという。

 ウクライナでは第二次大戦中の地雷や弾薬がたくさん見つかっている。「クリヴィー・リフ周辺でも毎年、第二次大戦の弾薬が300発破壊された。日本の優れた地雷除去機を含む国際的な援助があっても畑や集落からの地雷の除去は戦争が終わってから少なくとも数十年かかる。しかも100%地雷を除去するのは不可能だ」とニコライはため息をついた。

 ウウクライナは1997年の対人地雷禁止条約(オタワ条約)の締約国であり、対人地雷の使用を禁止している。一方、ロシアは米国や中国と同じようにオタワ条約に署名していない。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、非締約国が締約国の領土で対人地雷を使用するのは前代未聞の事態だ。


8種類の対人地雷が使用された

 HRWは「オタワ条約の非締約国のロシアも特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW)の改正第2議定書やジュネーブ条約第1議定書、国際人道法の慣習にある地雷やブービートラップなどの禁止と制限に拘束されている」と指摘する。使用する対人地雷の検知可能性、モニタリングを確保し、地雷敷設地域から民間人を排除する必要がある。

 ロシアは20年、国連総会で「オタワ条約の目標を共有し、地雷のない世界を支持する」とする一方で、対人地雷を「ロシアの国境の安全を確保するための有効な手段である」との立場を示した。しかしウクライナ戦争は自衛でも何でもない一般市民に対する無差別テロだ。オタワ条約の非締約国のロシアといえども無差別テロに対人地雷を使用するのは許されない。

 HRWの調査によると、東部ルハンスク州やドネツク州の親露派勢力は14〜15年、対人・対車両地雷、ブービートラップを散発的に使用していた。昨年2月のロシア軍侵攻後、ウクライナでは8種類の対人地雷が使われたという。

 対人地雷のMON-50、MON-100は手で仕掛けられ、ブービートラップとしても使用される。ロシア軍が一時、占領していたキーウ近郊のブチャでウクライナの地雷除去作業員がブービートラップにMONシリーズが組み込まれているのを見つけた。指向性地雷で、ワイヤーを引き抜くと爆発する。「致死距離は50メートルだ」とニコライは教えてくれた。

 OZM-72は被害者が引っ掛かると爆発するほか、手動で起爆できる。22年以前からドンバスで目撃、回収されたとの報告が頻繁にあった。昨年5月、ブチャの畑でロシア軍が仕掛けたとみられるOZM-72により男性2人が死亡した。ウクライナも過去にOZM-72を保有していた。ウクライナに備蓄歴がない高火力のPMN-4の使用も確認されている。

 POM-2はヘリコプター、地上発射ロケット弾で散布できる。北東部ハルキウ州で女性2人がこの地雷により死亡した。POM-2Rは手動でも使える。近づいてくる足音を検知するPOM-3は跳躍方式の破片型対人地雷。昨年3月、特別に設計された多連装ロケット砲でハルキウ市近郊に散布され、ウクライナの爆発物処理班に発見されている。


ウクライナ軍も対人バタフライ地雷を使用

 ロシア軍がハルキウ州イジュームを占領していた時、ウクライナ軍が数千個の空中散布式対人地雷PFM(通称・バタフライ地雷)を使用したとみられる疑惑が今年1月、HRWの調査で浮上した。

 地元の医療従事者によると、ロシア軍占領中から解放後にかけて、対人地雷で負傷したとみられる民間人約50人(少なくとも5人の子どもを含む)が治療を受けた。負傷者の約半数は、足または下肢を切断したという。

 HRWのスタッフはイジュームで金属製カセットの残骸を発見。この金属製カセットは地雷敷設ロケットランチャー「ウラガン」によるPFMの運搬に使用される。この方法で一度に312個のPFMをばらまける。

 HRW武器部門ディレクターのスティーブ・グース氏は「ウクライナ軍はイジューム一帯に広範囲に地雷を散布し、民間人に犠牲者を出して継続的なリスクを生じさせているとみられる」と報告している。


330万個のバタフライ地雷の破壊がさらに必要

 グース氏は「ロシア軍はウクライナ国内で対人地雷を繰り返し使用し、残虐行為を続けている。しかし、だからといって、ウクライナ政府が対人地雷のような禁止兵器を使用してよいことにはならない」と指摘する。

 ウクライナの地雷除去作業員はHRWの現地調査に対して「PFMはイジューム一帯のそこら中にある」と証言している。PFMが散布されたのは当時ロシア軍が展開していた場所に近いことから、標的はロシア軍だったことがうかがえる。

 ウクライナは旧ソ連崩壊により大量の対人地雷の在庫を引き継いだ。1999〜2020年にかけ、PFMを含む対人地雷340万個以上を廃棄。21年、ウクライナは国連事務総長に対し備蓄する330万個のバタフライ地雷の破壊がさらに必要だと報告している。

 自衛戦争であっても戦争は次第に人間の理性を失わせていく。ウクライナ軍関係者によると、同国軍はロシア軍から奪った対人地雷も使っているという。

筆者:木村 正人

JBpress

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