バイデンよあなたもか、原爆投下を謝罪できない米政府とお粗末米メディア

2023年5月22日(月)6時0分 JBpress


広島だから採択された核軍縮独立首脳文書

 対中ロ包囲網、ウクライナ支援強化、核軍縮推進と盛りだくさんの広島先進国7か国首脳会議(G7サミット)を米国メディアはどう報じたか。

 経済安保に始まり、中ロの経済的威圧に対抗する枠組み「調整プラットフォーム」新設を謳い、核軍縮に向けて核戦力データの透明化を訴える「G7首脳広島ビジョン」を発表。

 中国を名指しし、「透明性を欠いた核戦力増強」に懸念を示した「核軍縮に焦点を当てたG7初の独立首脳文書」を採択した。

 最終日には飛び入り(?)のウォロディミル・ゼレンスキー大統領の参加で、G7は最後は「ウクライナ」一色に染まった感すらする。

 メディアが飛びついたのは、バイデン氏がついに米国製戦闘機「F-16」のウクライナへの供与を容認する考えを表明、ゼレンスキー氏に揺るぎない連帯と支援の継続を約束したニュースだった。

 G7サミットに続いて、韓国、オーストラリア、インド、ブラジル、ベトナム、インドネシア、コモロス、クック諸島の首脳も招いた拡大サミット、日米韓首脳会議、クアッドが開かれ、まさに「インド太平洋地域の国連総会」となった。

 日本の一地方都市がこれだけグローバルなニュースの発信地になったのは史上初めてだ。

 それでも、米国民とメディアには「ヒロシマ」が重くのしかかっていた。核時代突入の発端となった1945年8月6日、原爆を広島に投下したのは、米国だったからだ。

 米国は1945年8月6日、広島に原子爆弾を投下。14万人が被爆し、命を落とした。ほとんどが民間人だった。

 その「世界唯一の原爆使用国家」の現職大統領、ジョー・バイデン氏が5月19日、G7各国の首脳とともに広島平和都市記念碑(原爆死没者慰霊碑)と平和記念資料館(原爆資料館)を訪れ、犠牲者に祈りを捧げた。

 原爆を投下した唯一の国の現職大統領による訪問は、2016年のバラク・オバマ第44代大統領に次いで2人目。

 米メディアは、バイデン氏が慰霊碑の前で「謝罪」するか否か、ワシントン出発前から強い関心を示してきた。

 ホワイトハウスの記者会見でも記者団から質問が出ていた。

 ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は訪問に先立ち、大統領が謝罪する可能性は「ない」と、きっぱり予防線を張っていた。

 原爆投下については、1945年時点では85%が「戦争を終わらせるために必要だった」と肯定していた米国民も、95年には59%、2016年には43%にまで減っている。

 しかし肯定論者は、共和党支持者、白人男性、65歳以上の高齢者の間では根強い。

 中には「大統領が広島に行くだけで、『謝罪と同義だ』と批判的に受けとめる国民もいる」(主要シンクタンク上級研究員)。

 当時、大統領選に出馬していたドナルド・トランプ氏はオバマ氏の広島行きに「謝罪しないのなら目をつぶる」とコメントしていた。

 原爆投下を謝罪した大統領はいない。オバマ氏は慰霊碑に献花はしたが、謝罪はしなかった。資料館の視察はわずか10分弱だった。


Tribute(慰霊)とApology(謝罪)の狭間

 思い思いの見出しを付けていた米各紙の中で西海岸最大の発行数を誇るリベラル中道のロサンゼルス・タイムズは、20日の一面でこういう見出しで報じた。

「Atribute,butnoU.S.apology,forthevictimsofHiroshima」(米国、広島死没者への慰霊、だが謝罪はせず)

 デジタル版はこうだった。

「LastsurvivorsofHiroshimabombingwatchasBidenpaystribute,butissuesnoapology(原爆最後の生存者たちはバイデンの慰霊を見守る中、謝罪はせず)」

 各国首脳が慰霊碑への献花を終えて階段を下りる写真を掲載したが、頭を下げているショットではない。

 7ページに続く記事には、「G7反対。帝国主義者サミット反対、核戦争反対」と書かれたプラカードを掲げたデモ隊の写真を載せている。

 同紙はオバマ氏の広島訪問を裏方で実現させた元国務省高官、ダニエル・ラッセル氏の発言を引用している。

「オバマ氏は慰霊碑の前で静かに慰霊した(silentlypaidtribute)が、謝罪の言葉はなかった。当時、岸田文雄氏は外相としてオバマ氏に付き添った。バイデン氏は、その時のオバマ氏のやり方を踏襲したものだ」

 また、保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のザッカリー・クーパー上級研究員(元国家安全保障会議=NCS=スタッフ)はこう発言している。

「日本の一部には謝罪を求める声もあったが、慰霊碑を訪れること自体は日米関係の核心的モーメントとして計画されたものではない」

「バイデン氏がそこを訪れたこと自体にはシンボリックな意味がある」

「日本側は、過去を振り返るのではなく、前を向いて、前方にあるチャレンジについて考えるため(慰霊碑を訪れるの)だというメッセージを送っていた」

(Biden pays tribute to Hiroshima bomb survivors without apology - Los Angeles Times)


謝罪すれば中ロはプロパガンダに使う

 バイデン氏が原爆死没者に対して謝罪を口にできない理由について、政治専門サイト「ザ・ヒル」の「戦争記者」、ローラ・ケリー記者はこう書いている。

 これまで中東戦争、ウクライナ戦争をカバーしてきた同記者は、日米が暗黒期にあった当時を振り返り、米国が原爆を投下し、多くの市民を殺戮した広島を見たいと思い、サミット数日前に訪れていた。

 当時の瞬間を今に残す原爆ドームや死没者慰霊碑、原爆資料館を見て、核の脅威を改めて認識する。

「バイデン氏は広島訪問前から謝罪はしないと予防線を張った」

「ホワイトハウスは、共和党にバイデンは国際舞台では弱腰だと批判されるのを避けようとした」

「また中国やロシアが自分たちが今やっている殺戮行為を棚上げして、米国の過去の行動を批判するプロパガンダに使うのを回避しようとしたためだ。これは十分理解できる理由だ」

(Hiroshima’s nuclear history sounds an urgent warning for G-7 summit | The Hill)

「謝罪してから慰霊すべき」

 広島県出身の日系人女性、Hさん(82)はこう語る。

「死者を慰霊するのなら、加害者はまず謝罪するのが物事の順序ではないですか。それができない米国はいつそうなれるのか。臭いものに蓋の関係はずっと続くんでしょうね」

 保守系FOXニュースは、謝罪するか、しないか、を事前に取り上げ、行間には「謝罪は許さないぞ」といったトーンを滲ませていた。

 記事の視聴者、読者からのコメントは予想通り100%、謝罪に反対。

「なぜ、日本に謝罪せねばならないのか」

「原爆を落としたおかげで米兵も日本人も無駄な命を落とさなかった」

「敗戦国を助け、今の日本にしたのは米国だ。今も守ってやっているじゃないか」といった歯に衣を着せぬコメントだらけだ。

(White House responds to calls for Biden to apologize for Hiroshima bombing during Japan trip | Fox News)

 謝罪うんぬんは脇におくとして、バイデン氏は核軍縮でもう少し踏み込んだメッセージを送れなかったのか。

 米軍縮管理協会(ArmsControlAssociation)のダロル・キムボール所長はこうニューヨーク・タイムズに語っている。

「広島G7サミットは、軍縮・軍拡、核戦争をグローバルに回避することを全世界に発信する絶好の機会だった。その音頭をとるのがバイデン氏の役割だった」

「新たな核戦争危機回避を具体的に示す軍縮外交を提唱する絶好のチャンスだった(がそれをしなかった)」

(Biden Pays Silent Tribute to Victims of Hiroshima Bomb - The New York Times)

 こちらの方が、謝罪うんぬんより重要だったはずだが、社説でバイデン氏に助言する米紙・米誌はなかった。

 後世の史家は「2023年広島G7」をどう評価するのだろうか。

筆者:高濱 賛

JBpress

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