不況で激変、韓国企業利益ランキング

2023年5月24日(水)6時0分 JBpress

「現代自動車が好調だと言っても、やはりサムスンが稼いでくれないと」

 韓国紙デスクは2023年1〜3月期の韓国企業利益ランキングを見てこうつぶやいた。半導体、輸出不振などで上位企業の顔触れが変わってしまったが、注目は今も「サムスン」だ。

 韓国取引所は最近、12月決算上場企業の1〜3月期決算分析を発表した。


上場企業の利益が半減

 連結決算を把握できる622社の売上高の合計は697兆3744億ウォン(1円=10ウォン)で前年同期比5.69%増だったが、営業利益の合計額は25兆1657億ウォンで同52.75%減だった。

 微増収だったが、利益が半減してしまったのだ。それだけ厳しい決算だったわけだ。

 分析資料には、売上高の9.14%を占めるサムスン電子を除外した数字も出ている。

 売上高は633兆6290億ウォンで同8.87%増、営業利益は24兆5255億ウォンで同37.34%減だった。

 この発表で関心を集めたのは、1〜3月期の営業利益上位企業ランキング(金融業は除外)だった。

 以下が、2022年と2023年の1〜3月期の上位10社のリストとこの期間の営業利益額だ。

連結営業利益(ウォン)上位企業

  (2023年1〜3月期)          (2022年1〜3月期)
現代自動車     3兆5926億   サムスン電子  14兆1214億
起亜        2兆8739億   HMM       3兆1486億
LG電子       1兆4973億   SK        3兆529億
ハンファ      1兆3737億   SKハイニックス 2兆8596億
SK         1兆1304億   ポスコHD    2兆2576億
GS         1兆624億    現代自動車   1兆9289億
LG化学         7910億    LG電子     1兆8804億
ポスコHD        7047億    SKイノベーション 1兆6490億
サムスン物産     6405億    起亜       1兆6064億
サムスン電子     6401億   Sオイル     1兆3319億

 上位企業がかなり変わってしまったことが分かる。


現代自動車と起亜が1位、2位

 2023年1〜3月期の決算を見よう。

 四半期決算とはいえ、現代自動車がトップに立ったのは初めてだ。2位も子会社の起亜。現代自動車グループの完成車2社が3位以下を引き離した利益額を記録した。

 北米、欧州市場で販売が好調だった。韓国市場も含めて、高級乗用車や価格帯の高いSUVの比重を高めた。

 半導体不足などで需要が供給を上回り、販売奨励金を使わなくても売れる状況が続き、利益を押し上げた。

 利益率の高いEVの販売も増えた。

 こうした好材料が重なり、現代自動車の営業利益は前年同期比86.25%増、起亜も78.90%増になった。

 3位にはLG電子が入った。

 新型コロナの流行で巣ごもり需要が急増して家電品の販売が好調だった1年前の反動で2023年1〜3月期の営業利益は前年同期比22.93%減だった。それでも1兆4973億ウォン稼いだ。

 韓国紙デスクによると「LG電子の利益がサムスン電子を上回ったのは、記憶がない」というから、こちらも歴史的な快挙だったのかもしれない。

 韓国の産業界でも「サプライズ」だったのは、ハンファが4位になったことだ。

 韓国の財閥であるハンファグループの持ち株会社だが、「創業以来の好業績」だった。

 太陽光発電事業、防衛事業、建設事業などグループ内の各事業がバランスよく利益を上げた。

 また、トップ10には入らなかったが、11位にはEV用バッテリーメーカであるLGエネルギーソリューションが入った。

 営業利益額は6331億ウォン。前年同期比2.4倍に跳ね上がった。

「確かに上位企業の中には決算が好調だったり、まずまずだったりする企業が多いのだが…」

 韓国紙デスクはどうも歯切れが悪い。


1年前のサムスン電子の利益は14兆ウォン

 それはそうだ。

 2022年1〜3月期のランキングを見ると、その差が歴然だからだ。

 1年前の上位企業の顔ぶれは表のとおりだ。

 2年連続して上位に入った企業も、名前が消えた企業もある。

 HMMは海運、SKハイニックスは半導体、SKイノベーションとSオイルはエネルギー関連だ。いずれも市況の悪化で利益が急減してしまった。

 顔ぶれが変わるのは問題ではない。産業界全体の新陳代謝もあるし、市況によってある業界の企業の利益が上下することはよくある。

 問題なのは上位企業とはいえ、1年前の上位企業に比べて利益額が大幅に減ったことだ。

 1年前に1位だったサムスン電子の営業利益額は14兆1214億ウォン。2023年1〜3月期のトップ企業、現代自動車の営業利益額の約4倍だった。

 2位だった海運大手HMMとSKの営業利益額も3兆ウォン台だった。

 営業利益が1兆ウォンを超えた企業数も1年前には12社あったが、今年は6社に半減してしまった。

 企業間で激しい利益上位ランキング争いを演じたというより、全体的に低迷してしまったのだ。

「サムスン電子はいつ復活するのか」

 だからこれが韓国の産業界の最大の関心事なのだ。


7〜9月にはサムスン電子が1位奪還?

「現代自動車に譲った営業利益1位の座 サムスン電子が下半期には取り戻す」

 最近、こんなタイトルの記事が「毎日経済新聞」に載った。

 証券会社の利益予想などをまとめると、4〜6月期も現代自動車が利益トップを維持するが、7〜9月期にはサムスン電子が1位に返り咲くという。

 サムスン電子の営業利益は4〜6月期にさらに落ち込むが、7〜9月期には6402億ウォンだった1〜3月期に比べると4倍以上の3兆7000億ウォンになる。

 一方で、現代自動車の利益は、米景気の低迷で7〜9月期には3兆ウォンを下回って伸び悩む。

 1位奪還とはいえ、まだ「サムスンの本格復権」とは程遠い水準の利益だ。

 電子関連大手企業の役員は「サムスン電子もSKハイニックスも半導体メモリーの減産を続けて在庫を減らそうとしている。いずれ需給バランスは好転するが、いつ、どのくらいの速度で市況が良くなるのかはまだ何とも言えない」と話す。

 個人投資家は期待を込めてサムスン電子株を買い始めた。

 3月14日に5万9000ウォンまで下落した株価は5月22日に6万9000ウォンをつけた。


良い知らせはないのか?

 そろそろ良い知らせはないのか?

 韓国紙に「半導体の在庫調整が進む」などの期待を抱かせるような記事が出始めた中、5月22日にまた暗い統計が出た。

 韓国統計庁が5月1日〜20日の輸出入統計速報値をまとめたのだ。

 20日間の輸出額は324億ドルで前年同期比16.1%減だった。

 2022年10月から続いている輸出の2けた減少ペースは5月で8か月目になることが確実な情勢だ。

 頼みの半導体はどうなのか?

 前年同期比33.0%減。回復の兆しは見えない。

 地域別にみても、中国向け輸出が23.4%減、ベトナム向け輸出が15.7%減で、輸出立国韓国にとっては厳しい数字だ。


「上低下高」も危うい?

 「上低下高は大丈夫なのか?」

 韓国メディアではこんな記事も出始めた。

 2023年の韓国経済について、政府当局者などからは一時「上低下高」という表現がよく聞かれた。

 上半期は経済環境が厳しく低成長になるが、下半期には成長率が高まって回復するという意味だ。

 その牽引役になってもらわなければ困るのが、半導体であり、輸出だ。つまりサムスンに戻ってきてもらわなければ困るのだ。

 韓国の経済成長率は、新型コロナの直撃を受けた2020年にマイナス0.7%となったが、2021年には4.1%に回復、2022年は2.6%だった。

 2023年については、ここにきて回復どころか下方修正が相次いできた。

 IMF(国際通貨基金)は4月に韓国の2023年成長率について4度目の引き下げをして1.5%とした。

 政府は1.6%成長という数字を6か月間維持しているが、他の国際機関や民間の金融機関、シンクタンクなどはもっと低い数字に下げている。

 5月10日就任2年目を迎えた尹錫悦(ユン・ソンニョル=1960年生)大統領は、「経済」を最重要政策課題に掲げた。

「民間主導」を掲げる政権としては、現代自動車と起亜が輸出を伸ばし、業績も好調だったことは歓迎だ。

 だが、1〜3月の上場企業全体の利益が半減したことは頭の痛い問題だ。
2024年4月には「政治決戦」ともいわれる総選挙がある。

 経済が大きな争点となることは確実だ。そのカギが企業業績だ。

 とりわけサムスン電子だ。同社の個人株主数は600万人を超えた。これだけの数の株主が満足するか失望するかは、韓国経済だけでなく、政治にとっても重要問題である。 

筆者:玉置 直司

JBpress

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