中国の米半導体大手マイクロン排除、背景にはG7の中国包囲網への「焦り」

2023年5月24日(水)6時0分 JBpress

 ウクライナからウォロディミル・ゼレンスキー大統領を迎えて、大成功に終わった先週の広島G7サミットだが、中国は「標的にされた」と怒り心頭である。

 サミットが終了した5月21日夜、日曜日夜という異例の時間帯にもかかわらず、外交部の孫衛東(そん・えいとう)副部長(外務次官)が、垂(たるみ)秀夫日本大使を外交部に呼びつけて抗議した。

 だが、実は中国が最も恐れていた事態は、サミット開幕前日の18日に起こっていた。


世界の半導体大手トップが首相官邸に集結

 この日、岸田文雄首相が、半導体に関する連携強化や日本への投資要請のため、世界の半導体7社(米インテル、IBM、マイクロン、アプライド・マテリアルズ、ベルギーのimec、韓国のサムスン電子、台湾のTSMC)のトップらを首相官邸に招いた一件だ。

 官邸関係者が「7人の侍」と呼んだ面会者の中で、岸田首相がひときわ重要視していたのが、マイクロン・テクノロジーのサンジェイ・メロートラCEOだった。何せお膝元の広島で巨大な半導体工場を稼働させており、さらに最大で5000億円も投資して、次世代半導体を生産しようとしているからだ。

 マイクロンは、1978年に米アイダホ州で創業した半導体メーカーで、調査会社ガートナー社の発表によれば、昨年の売り上げは275億ドル。サムスン電子、インテル、SKハイニックス、クアルコムに次いで世界5位につけている。

 岸田首相と面会した約1時間後、メロートラCEOは、岸田首相が待ち望んでいたコメントを発表した。

「マイクロンの(5000億円投資)計画は、日本への継続的なコミットメント、日本政府との強固な関係、マイクロンの広島における拠点のチームの優れた人材を反映したものだ」

 そしてメロートラCEOも、岸田首相の後を追うように広島入りした。広島G7サミットでは、20日の「セッション5」で、80分もかけて半導体問題を中心とした経済安全保障について話し合った。


アメリカの対中半導体制際にG7も賛同

 このセッションの後、「広島宣言」(首脳コミュニケ)とは別に、G7首脳はわざわざ「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」まで発表した。そこでは、こう謳っている。

<我々は、多角的貿易体制の機能及び信頼を損なうのみならず、主権の尊重及び法の支配を中心とする国際秩序を侵害し、究極的には世界の安全及び安定を損なう経済的威圧について、深刻な懸念を表明し、全ての国に対してその使用を控えるよう求める。(中略)経済的威圧を抑止し、それぞれの法制度に従って、適当な場合にはそれに対抗する>

 どこにも「中国」とは書かかれていないが、これが昨年10月7日にアメリカ商務省が発表した、中国に対する強烈な半導体制裁に対する「G7の賛意」であることは、一目瞭然だ。

 実際、日本も3月31日に西村康稔経産相が、半導体製造装置に関する計23品目について、アメリカに追随する準備を進めると宣言している。日本の措置は、7月にも実施される予定だ。


広島サミットでより鮮明化した半導体における「中国外し」

 メロートラCEOは、こうした声明に呼応するかのように、広島サミットが終了した翌22日、広島で記者会見を開いて、断言した。

「2026年に、広島工場で開発する次世代メモリー半導体の生産を始める。われわれが、世界の半導体技術で主導権を取る。そして今後需要が見込まれるAI(人工知能)向けなどに対応していく」

 この工場で生産を予定しているのは、「1γ(ガンマ)世代」と呼ばれる最先端のDRAM(半導体記憶装置の一種)である。この計画には、日本国内でのさらなる雇用や、技術者の育成などが見込まれるとして、経済産業省が昨年9月、最大465億円の助成を発表している。

 こうした先端半導体を巡る「中国外し」と「日米並走」に、中国は焦燥感を募らせているのだ。


また一段階ヒートアップした米中半導体戦争

 北京で孫副部長が垂大使を外交部に呼びつけた21日夜、中国は「もう一枚のカード」を切った。

 中国共産党中央インターネット安全・情報化委員会弁公室と中国国家インターネット情報弁公室が、「マイクロンは中国で販売している製品のネット上の安全審査を経ていない」と題した通知を発表したのだ。その全文は、以下の通りである。

<先日、ネットワークセキュリティ審査弁公室は、法に基づき、マイクロンが中国で販売している製品について、ネットワークセキュリティ審査を実施した。審査で発見されたのは、マイクロンの製品には、比較的深刻な潜在的ネットワークセキュリティ問題が存在するということだった。それはわが国の中枢の情報インフラのサプライチェーンに、重大なセキュリティリスクをもたらすものであり、わが国の国家の安全に重大なリスクをもたらすものだ。

 このため、ネットワークセキュリティ審査弁公室は法に基づき、ネットワークセキュリティ審査を通さないという結論を出した。「ネットワークセキュリティ法」などの法律法規に照らして、わが国の中枢の情報インフラ運営者は、マイクロンの製品購入を停止しなければならない。

 このたびマイクロン製品に対してネットワークセキュリティ審査を実施した目的は、製品のネットワークセキュリティ問題が国家の中枢の情報インフラの安全に危害を及ぼすのを防止することである。これは国家の安全を維持する上で必要な措置だ。

 中国は固く、ハイレベルの対外開放を推進していく。中国の法律法規の要求を遵守する限りにおいて、各国の企業が各種のプラットフォームの製品やサービスを中国市場に持ち込むことを歓迎する>

 このように、ついに「マイクロン追放」という逆襲に出たのである。

 中国では、マイクロンを「美光」(メイグアン)と表記する。これは「美しい光」であると同時に、「アメリカの光」という意味でもある。つまり半導体に関して、中国が「アメリカ追放」の狼煙(のろし)をあげたとも受け取れるのである。

 今後、この「米中半導体戦争」の「最大の戦場」は、韓国である。昨年の売り上げトップのサムスンは西安で、3位のSKハイニックスは大連と無錫で、それぞれ先端の半導体工場を稼働させているからだ。

 韓国の尹錫悦大統領は、4月下旬にワシントンで、そして今回は広島で、ジョー・バイデン大統領と会談し、この件について詰めたはずであり、今後の行方が注目される。これは韓国の命運を決める決断とも言える。ちなみに、冒頭の岸田首相の集まりに、サムスンは参加し、SKハイニックスは不参加だった。

筆者:近藤 大介

JBpress

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