北朝鮮の「ミサイル発射失敗」が計らずも日朝首脳会談の端緒になりそうな理由

2023年5月31日(水)16時0分 JBpress


ミサイル発射の「二つの意図」

 5月31日早朝、太平の眠りを覚ます北朝鮮の「弾道ミサイル」が降って来た。日本では沖縄県に「Jアラート」が鳴り、梅雨の合間の曇り空の中、日本全土がものものしい雰囲気に包まれた。

 防衛省も午前6時半過ぎ、「北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射されました。続報が入り次第、お知らせします」と第一報を発表。岸田文雄首相も、7時過ぎに険しい表情で官邸に入った。

 北朝鮮は、昨年は37回、今年は今回を含めて13回ものミサイルを発射している。特に、昨年から数えて50回目となった今回は、「5月31日から6月11日までの間に人工衛星を打ち上げる」と、事前に日本に通告していた。

 日本が騒然とするのはむべなるかなだが、今回の北朝鮮の意図も把握しておく必要がある。以下の「二つの意図」を鑑みれば、少しは北朝鮮のミサイルに対する「恐怖心」が和らぐのではないか。


日本威嚇が目的ではない

 第一に、北朝鮮のミサイル発射は、日本を目的としたものではなく、主にアメリカと韓国に対する警告を目的としているということだ。

 このところの北朝鮮は、アメリカのジョー・バイデン政権及び韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権に対する非難を、声高に主張していた。例えば5月29日には、李炳哲(リ・ビョンチョル)朝鮮労働党中央軍事委員会副委員長が、「反共和国(北朝鮮)的なアメリカと南朝鮮(韓国)に向けた自衛力強化の立場」を発表している。かなりの長文だが、その要旨は以下の通りだ。

<現在、(南北)軍事境界線に隣接した南朝鮮京畿道抱川(ポチョン)一帯で、米軍と南朝鮮軍が、6年ぶりかつ史上最大規模の「連合合同火力撃滅訓練」なるものをおっぱじめている。その名の通り、交戦状態に対する「撃滅」を目的として、6月中旬まで連続的に進行するという今回の演習には、南朝鮮駐屯米軍とその傀儡軍の各種攻撃用武装装備が動員される。(中略)

 この4月末には、アメリカと南朝鮮が、わが国に対する核兵器使用計画を書面化した「ワシントン宣言」というものを発表した。それによって、まさに40数年ぶりに、アメリカ海軍の戦略核潜水艦が南朝鮮地域に展開されることになった。

 さらに放置できないのは、最近アメリカがアジア太平洋作戦戦区に配備した各種の空中偵察手段を集中動員させ、朝鮮半島と周辺の地域に対する敵対的な空中偵察活動を類例のないレベルで行っているのだ。(中略)

 この6月に必ず発射するわが軍事偵察衛星1号機と、新たに実験する予定の多様な偵察手段は、日を追うごとに無謀な侵略の野望欲心を露骨に表しているアメリカと、その追従国の武力の危険な軍事行動を、刻々と追跡、監視、判別する事前抑制や、対比させる共和国の武力の軍事的準備態勢を強化するのに、必須不可欠のものなのだ。(以下略)>

 このように北朝鮮は、米韓の合同訓練や、アメリカが韓国近海に展開するとした戦略核潜水艦を恐れているのだ。


国内向けのアピール

 今回発射したもう一つの意図は、北朝鮮の国内向けである。5月28日に、以下のような発表を朝鮮労働党中央委員会政治局が行ったと、翌日に朝鮮中央通信が伝えた。

<朝鮮労働党中央委員会第8期第8回全員会議の招集に対して、朝鮮労働党中央委員会政治局は、2023年度上半年期間の党と国家行政機関の事業状況と、人民経済計画遂行実態を総括し、わが革命発展に重要な意義を持つ政策的問題を討議するため、6月上旬に党中央委員会第8期第8回全員会議を招集することを決定した>

 この全員会議はおそらく、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、一向に埒(らち)が明かない工業や農業の状況に対して、幹部たちの尻を叩くのが目的だろう。そんな中で、「今年上半期の目に見える輝かしい成果」が必要だったのである。それで「軍事偵察衛星」なるものを打ち上げたというわけだ。

 このように重ねて言うが、今回のミサイル発射は、決して「日本憎し」で日本を標的にして行ったものではない。それどころか日本に対しては、5月29日に、次のような朴祥吉(パク・サンギル)外務次官の談話を、朝鮮中央通信が発表しているのだ。


北朝鮮も日本に秋波

<(5月)27日、日本の岸田首相がある集会で、朝日首脳間の関係を築いていくことが大変重要であると発言し、朝日首脳会談の早期実現のために高位級協議を行おうとする意思を明らかにしたという。

 われわれは、岸田首相が執権後、機会あるたびに「前提条件のない日朝首脳会談」を望むという立場を表明してきたことについて承知しているが、これを通じて実際に何を得ようとするのかは見当がつかない。

 21世紀に入って、(2002年と2004年の)2度にわたる朝日首脳の対面と会談が行われたが、なぜ両国の関係が悪化一路だけをたどっているのかを冷徹に振り返ってみる必要がある。現在、日本は「前提条件のない首脳会談」について言っているが、実際においてはすでに解決済みの拉致問題とわが国家の自衛権について何らかの問題解決をうんぬんし、朝日関係改善の前提条件として持ち出している。(中略)

 過ぎ去った過去にあくまで執着していては、未来に向かって前進することができない。もし、日本が過去に縛られず、変化した国際的な流れや時代に合わせて、相手をありのままに認める大局的姿勢で、新しい決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら、朝日両国が互いに会えない理由がないというのが、共和国政府の立場である。(以下略)>

 このように、日本の岸田政権に対しては、むしろ秋波を送っているのである。

 5月31日の発射に関しては、朝鮮中央通信が、「午前6時27分に発射したロケットは、異常が発生して、朝鮮半島西側の黄海に墜落した」と発表。発射が失敗に終わったことを認めた。

 これは金正恩政権にとっては、大きな痛手である。今年上半期を象徴する「成果」が、雲散霧消してしまったからだ。

 アメリカと韓国に対して「強気の手」がうまくいかないとすれば、今後ますます日本に対して、秋波を送ってくる可能性がある。その意味では、拉致問題を含めて「北朝鮮との対話」を求める岸田政権にとっては、機会到来とも言える。

筆者:近藤 大介

JBpress

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