性的写真が大量流出のバイデン息子より岸田首相の息子問題のほうが深刻なワケ

2023年6月10日(土)6時0分 JBpress

(山田敏弘・国際ジャーナリスト)

 6月1日、アメリカでジョー・バイデン大統領の次男であるハンター・バイデン氏のラップトップパソコンから流出した大量の写真が公開されて話題になっている。

 その写真は2008年から2019年の間に撮られたもので、ハンター氏の性行為の様子を写したものや、薬物を摂取しているではないかと思われるような、かなり刺激的な写真で、その数も1万枚を超える。ただこのウェブサイトは現在は見れない状態になっている(政府機関が秘密裏にアクセスをブロックすることも可能なので、現在サイトにアクセスできない理由についてもさまざまな憶測を呼んでいる)。

 この騒動を見ると、岸田の長男で首相補佐官を務めていた翔太郎氏の一件を彷彿とさせる。翔太郎氏は、首相公邸の忘年会で写真撮影に興じたことなどが批判を浴び、6月1日に秘書官を辞職したばかりだ。


バイデン次男と岸田首相長男、どちらの「問題」が深刻か

 米大統領の次男と日本の総理の長男がそろって「スキャンダル」でメディアを賑わしているわけだが、よくよく両者を比べてみると、スキャンダル度はハンター氏の方が高いが、実は岸田翔太郎氏の騒動のほうが問題は深刻だと言える。

 もちろん、岸田翔太郎氏はすでに辞職しており、自らの行為に責任を取った人に追い討ちをかけることはしたくはないが、今回の騒動の問題点をきちんと理解して検証することは日本の国益にもつながると思うので、改めてここで考察したいと思う。


大統領の次男だが政権とは関わりないハンター氏

 まず今回アメリカで騒動になっているハンター氏の騒動を簡単に説明したい。

 そもそもハンター氏の問題は、彼が2020年の米大統領選の最中に浮上した「ラップトップ問題」に端を発している。

 この問題は、2019年にハンター氏がデラウェア州にあったコンピューター修理店にラップトップパソコンを修理に出したが、修理後にも受け取りにこなかった。修理店のオーナーは受け取り期限が切れたとして、そのデータを自身の親族に送るなどしたことで、データがトランプ陣営に渡り、最終的にはFBI(米連邦捜査局)も手にすることになった。

 しかし、そこから内部のデータがトランプ陣営に使われ、スキャンダルとして大統領選で大きな騒動となった。

 ラップトップには、ハンター氏個人の電子メールや書類、写真などが含まれており、そこから父親であるジョー・バイデン候補(当時)がウクライナのエネルギー関連企業に絡んで汚職に関与していると指摘された。しかし、この問題について共和党上院の委員会などが発表した2020年9月の調査結果では、バイデン大統領による不正関与の事実は発見できなかったと結論を出している。

 そして来年に大統領を控えたこの時期、このデータの中にあった多数の写真が公開され、再び物議を醸しているのである。今回データをウェブサイトで公開したのは、ギャレット・ジーグラーという人物で、トランプ政権で大統領補佐官を務めたピーター・ナバロ氏の経済顧問だった。現在もトランプ支持者であると公言しており、トランプ政権時にこのデータを入手していた。公開の背景には2024年の大統領選挙でトランプ再選を狙う目的があると考えていい。

 サイトにはハンター氏のプライベート写真に加えて、ラップトップからコピーされた個人的な電子メールも大量に公開されている。

 もっとも、ビジネスマンだったハンター氏のウクライナや中国との取引に怪しい部分があると指摘する共和党側の支持層は少なくないが、今回のプライベート写真問題はそれはとまた別の問題であり、いかに疑惑があっても、ハンター氏のラップトップに保存されていた個人的な写真が世界的に公開されていいことにはならない。ラップトップのデータが犯罪行為を示すようなものならば公益性があるかもしれないが、ハンター氏のプライベートは公開すべきでない、という冷静な声もある。

 またハンター氏が現役大統領の息子という立場であっても、現在はバイデン政権には一切関与していない。そして、それこそが日本の岸田翔太郎氏と比べた時の最も大きな違いだと言える。

 そう考えると、岸田翔太郎氏の問題のほうが深刻だと言える。その理由はまず、首相の秘書官として自覚に欠ける出来事が指摘されてきたことだ。


素人当然の長男をなぜ秘書官に

 2022年10月には、山際大志郎経済再生担当大臣の辞任についての情報が翔太郎氏からメディアに漏れたと指摘されている。また2023年1月の岸田首相のフランス外遊時に、公務中に観光に出かけたとの騒動もあった。

 首相に帯同する人たちには空いた時間があればちょっとした観光はしている者もいるが、さすがに首相に仕える首相秘書官であれば、それはよろしくない。

 そして2022年12月30日に公邸で親族など10人以上と忘年会をして、その際にはしゃいで撮影した写真が週刊文春に掲載されて大騒動になったケース。これが、翔太郎氏の辞任の直接原因となった。

 首相補佐官として自覚がなかったと言われればそれまでだが、筆者がそれ以上に問題視しているのは、そもそも素人同然の身内を首相秘書官に重用したことである。

 岸田首相が自分の地盤で跡取りとして育てるために補佐官にしていたとしたら、それはひどい公私混同である。


工作員が狙っている要人の周辺人物が持つスマホ

 さらに、首相が執務をする官邸ではない首相公邸とはいえ、親族がスマホで撮影したと思われる写真が漏れてしまうことが問題だ。サイバーセキュリティやインテリジェンスを取材している筆者としては、敵国のスパイ工作員は、首相のみならず閣僚や政府高官らの個人情報や日常的な動向なども入手しようと予算と人員を使って活動している。最近ではスパイ工作の実働にサイバー攻撃が重要な要素になっているが、世界各地で政府の要人のスマホなどをハッキングして個人情報を盗んだり、監視を行うだけではなく、盗聴機器などとして遠隔操作するといった行為も確認されている。

 そういう工作の端緒となるのは、ターゲット本人ではなく、ターゲットが油断してやり取りをするスタッフや家族などだ。例えば、2018年のメキシコ大統領選では候補者の家族がハッキングされて会話が盗聴されたことが判明しているし、筆者は個人的に大物アメリカ人外交官の家族のスマホがハッキングされていたケースも耳にしている。

 そういう意味では、官邸や公邸などに出入りする人たちは、例えばスマホであっても、持ち込みは気をつけたほうがいい。翔太郎氏の忘年会のデータが週刊誌に渡ったというのは、不幸中の幸いだったと言えるかもしれない。

 セキュリティについては、もう一つ言及すべきことがある。それは、首相と秘書官らの間で、セキュリティ・クリアランスの認識がないことである。

 この点ではアメリカのセキュリティ・クリアランス制度が参考になる。アメリカでは、大統領が選んだスタッフは、政府の重要な機密情報にアクセスできるセキュリティ・クリアランスの認証を得る必要がある。

 セキュリティ・クリアランスとは、政府の機密情報(例えばアメリカの場合、機密度の高い順に、トップシークレット、シークレット、コンフィデンシャルの三段階がある)にアクセスできる適性を調査して許可を与える制度のことだ。米情報機関では嘘発見器もパスしなければならない。

 それは大統領の家族であっても同じで、トランプ政権時に大統領上級顧問となったトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーにも審査が行われた。そして大統領の家族であってもアメリカでは審査で忖度しないので、トランプが何度か早く許可するようプッシュしたにもかかわらず、クシュナーには政権入りから2年ほどセキュリティ・クリアランスの許可が降りなかった。つまり、その間は、米政府の機密情報にはアクセスできなかった。突然コネで政権入りした人がすぐに機密情報にアクセスできるほどアメリカのセキュリティ・クリアランス制度は甘くない。

 日本にはセキュリティ・クリアランスが存在しないために、岸田翔太郎氏も岸田首相が扱う政府の機密情報にも難なくアクセスできていた可能性が高い。それが外部に漏れてしまっていた可能性があるのだ。


「首相の息子だから」だけで機密事項へのアクセスを許してはならない

 本来、セキュリティ・クリアランスでは、身内だろうが、地盤の後継者候補だろうが、「甘さ」や「忖度」などが介在することはない。息子だから大目にみるなんてことはあってはいけない。政治や機密情報は国民のものであり、国民の生命と財産を守るために存在しているからだ。そこに公私混同があってはならない。

 こう見ると、セキュリティ・クリアランスの重要性も改めて感じられるだろう。きちんとした規制で情報を守らないと、ライバル国から盗まれてしまうことにもつながるという認識が必要だ。

 逆に言えば、岸田翔太郎氏の辞任の顛末で、日本の機密保持に関していろいろと課題が浮き彫りになったと言える。それは、私人であるハンター氏の性的写真の流出よりも、明らかに深刻なものなのである。

筆者:山田 敏弘

JBpress

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