金正恩もヘナヘナになる「駅前フーゾク街」の生命力

2023年8月19日(土)6時22分 デイリーNKジャパン

北朝鮮の鉄道駅やバスターミナルの周辺には、「待機宿泊」と呼ばれる施設が多数存在する。慢性的な電力、燃料不足で時刻表通りの運行ができない鉄道を待つ客を泊めるために、個人宅を改造した民泊の一種だ。


これに対して、当局は取り締まりを命じた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、中央が今月10日、待機宿泊など違法な奉仕活動(サービス業)に対する集中検閲(取り締まり)を行うよう指示を下したと伝えた。これを受けて地元の安全部(警察署)などは、取り締まり班を立ち上げて10月までの集中検閲に着手した。


北朝鮮には様々な宿泊施設が存在するが、その数は非常に少ない上に、公式の出張や踏査(革命戦績地を巡るツアー)でなければ、一般国民の宿泊は許されていない。そもそも移動の自由のない北朝鮮では、国民があちこち自由に旅をすることが想定されていなかったのだ。しかし、過去30年のなし崩し的な市場経済化の中で、行商などによる移動が増え、そんな人々をターゲットとした待機宿泊が増加した。


しかし、当局は待機宿泊を「退廃的」と見なしている。


「待機宿泊の中に、女性を引き入れて売淫(性売買)、飲酒、賭博など良からぬ行為を助長するところがあることが厳しく問題提起された」(情報筋)


実際、待機宿泊は性売買の温床となっており、他の犯罪も発生するなどの問題が起きているのは事実だ。ラブホテルも存在しないことから、サウナと並んで不倫の場として使われることもある。待機宿泊が集中する平壌近郊の間里(カルリ)駅前などは一時、大規模な「フーゾク街」と化してしまったとされる。


なお、待機宿泊を営むことも、利用することも違法行為で、労働教化刑(懲役刑)が課されることもある。


待機宿泊に対する取り締まりは過去に何度も行われており、その度に姿を消すも、しばらくするとまた出現する。金正恩総書記は政権の座について以降、売買春を厳しく取り締まっており、元締めを処刑したこともある。それでも司法機関は売買春を根絶できず、むしろ業者に取り込まれてヘナヘナになる例も少なくない。



2020年1月以降はコロナ鎖国のために非常に厳しい経済難が続き、人々は生きていくために、再び待機宿泊を始めたのだ。


咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、清津(チョンジン)駅周辺で最近になって待機宿泊が復活しつつあると伝えた。1泊1人あたり1万5000北朝鮮ウォン(約255円)で、別料金で食事も出してもらえる。


先週から始まった集中検閲で、しばらくは大人しくしているだろうが、検閲が終わればまた復活するだろうと情報筋は見ている。


「継続する生活難が解消しないかぎり、違法行為をなくすには限界がある」(情報筋)


だが、人の移動を制限するという北朝鮮当局の政策そのものに無理がある。


計画経済と配給システムが働いていた1980年代以前なら、わざわざ他所に行く必要もなかった。特別な理由なく住んでいるところを離れれば、配給が得られなくなるため、移動の必要もなかったのだ。


しかし、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を境に配給が止まり、食べ物を得られなくなった人々は、家を捨ててあちことをさまよい歩くようになった。また、食べ物のあるところまで行って買い付けを行い、地元に戻って販売するなど、移動が頻繁になった。


道・市・郡の境界線上には哨所(検問所)があり、国内用パスポートの「旅行証」を提示しなければ通れないことになっていたが、係官を買収したり、地元の有力者と繋がっているブローカーの助けを借りるか、定期的にワイロを納めているバスやタクシーを利用すれば、移動ができるようになった。


だが、北朝鮮当局は昨今、国のシステムを1980年代以前のものに戻そうとする動きを見せている。計画経済と全国的な配給制度を復活させ、経済の主導権を市場から取り戻そうというのだ。当局の思いどおりになるならば、もはや国民の移動も必要なくなり、待機宿泊や哨所の腐敗なども自然になくなる。


しかし、本来の人間の営みのひとつである商売や移動を制限しようとすることにそもそもの無理がある。無理を通すならば、強力なガバナンスや財政的裏付けが必要となるが、今の北朝鮮にそれがあるのか。


結局は、上述の情報筋の言う通り、取り締まりが終われば元の木阿弥となるだろう。

デイリーNKジャパン

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