プーチン政権、志願兵確保に躍起…一時金の追加メニュー・債務免除・帰還時の優遇措置
2024年11月24日(日)19時36分 読売新聞
ロシアのプーチン政権が、ウクライナ侵略に従軍する志願兵の確保に躍起になっている。契約の際に支給される一時金など金銭面の補償や、帰還後の待遇など、優遇策は枚挙にいとまがない。前線での犠牲者が増える中、受刑者の活用や北朝鮮からの兵士派遣でも需要を満たせず、国民に不人気な動員には踏み切れない苦しい現状が透けて見える。
10月下旬、ロシア中部カザン。郊外の地下鉄駅そばの露軍事務所には、契約書類を書くため窓口に列を作る男性たちの姿があった。
「勝利の軍団に参加を」
街中のビラにはスローガンの横に、契約時の一時金「最大210万ルーブル」(約310万円)の数字が躍る。
ウクライナ侵略での前線地域なら月収として「最大21万ルーブル」(約31万円)。国民の平均月収約7万ルーブル(約10万円)の3倍にあたる。
軍事務所のホームページによれば、「攻撃作戦への参加で8000ルーブル」「ヘリ撃墜で20万ルーブル」「戦車破壊で50万ルーブル」など追加の一時金のメニューもある。
申請を済ませた30歳代の男性は「愛国心から応募した」としつつ、一時金にも満足げだ。「これだけあれば、残す家族も生活に困らないはず」。契約が完了すれば、前線に1年送られる。
プーチン大統領は今月23日、少なくとも1年間、ウクライナ侵略に従軍する兵士として契約すれば、最大1000万ルーブル(約1480万円)の債務を免除する法律に署名した。受刑者が契約で恩赦や犯罪歴の抹消などを認められる法律に続き、なりふり構わない措置だ。
今年7月には、契約時に連邦政府から支給する一時金をこれまでの約2倍に増額し、地方当局にも加算を促した。モスクワでは、連邦政府とモスクワ市などの合計で、一時金は520万ルーブル(約770万円)まで跳ね上がっている。
帰還した元兵士には、就職や大学進学の優遇措置、家賃補助などの支援もある。プーチン氏は2月の年次教書演説で前線の兵士ら「愛国者」こそ次代を担うリーダーだと訴え、優遇の必要があると公言している。
元兵士を行政幹部や議員に登用する動きも相次ぐ。プーチン氏は10月、ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東部ドネツク州の「議会議長」を務めるアルチョム・ジョガ氏を、ウラル連邦管区大統領全権代表に任命した。ジョガ氏は2014年からウクライナ東部ドンバス地方で起きた紛争で、親露派部隊を率い、ウクライナ軍との戦闘に参加した。9月の統一地方選でも元兵士が与党から各地の議会選に出馬し、多数の議員が誕生した。
徹底した優遇策で志願兵を募るのは人的資源の確保に苦しむ証拠だ。英BBCと露独立系メディア「メディアゾナ」によれば、確認されただけで露軍兵士の死者数は今月中旬時点で7万8000人超だ。政権は22年9月の部分動員で世論の反発を招き、支持率を下げた。一時金などの支払いでにわかに大金を手にした兵士や家族の羽振りが良くなり、国内消費を押し上げているとの指摘があるほどだ。
ただ、金銭目的だけで軍と契約する人ばかりというわけでもなさそうだ。カザンの軍事務所を訪れた別の30歳代男性は2度目の従軍だが、前回の従軍から帰還後、平和な日常では「居場所がなかった」と打ち明けた。「従軍希望者には、お金目的や、スリルを味わいたい人もいる。ただ、自分のように社会からはみ出した人間もいるんだ」