20年の研究を経て、ついに熱アシスト記録HDD登場。さらなる高密度化も見据えたSeagate Mozaicプラットフォーム

2024年2月5日(月)13時55分 マイナビニュース

プラッタ1枚で3TBからスタートするMosaicプラットフォーム
2024年1月25日、日本シーゲイトはレーザーによる加熱を併用したHDD、Mozaicプラットフォームの説明会を行いました。まずハイパースケール・クラウドの顧客向けにExos製品の発売を予定しています。
現在販売されているHDDは、主に垂直磁気記録(PMR)という方法で書き込まれています。その前の水平磁気記録では隣り合う磁石がSとS、NとNという打ち消すあう形と不安定な形で記録されていましたが、垂直磁気記録は隣り合う磁石がSとNと安定した形になっており、高密度記録が可能です。1977年に東北大学教授の岩崎俊一氏が優位性を提唱し、2005年からHDD製品が登場しました。
その後、読み出しにGMR(Giant Magneto Resistive effect、巨大磁気抵抗効果)やTMR(Tunnel Magneto Resistance Effect、トンネル磁気抵抗効果)を採用して、読み出し感度を引き上げて高密度化が図られました(GMRやTMRは読み出しのみで、記録には磁気コイルが必要)。しかし、それ以上の高密度化は鈍化していました。
高密度化が難しくなった理由は、記録サイズをこれ以上小さくすると「磁気的に柔らかいせいで勝手に書き換わってしまう」という問題があるためです。一方「磁気的に固い物質」を使うと今度は記録ヘッドで書き換えるのが難しくなります。つまり、従来の手法では物理的特性の限界に差し掛かっていたというわけです。
その隙間を埋めるのが“加熱”。磁石は一定以上の温度になると磁気的に柔らかくなることが知られているので、書き込むときだけ加熱して冷やして元通り固くするというアイディアがありました。これがHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording、熱アシスト磁気記録)と呼ばれる技術で、「次世代のHDDはHAMR」と言われていながらも、実用化にはかなりの年月がかかりました。熱アシスト記録のHDDは一部のクラウドベンダーに提供していましたが、ようやく一般向け製品として提供できるレベルになったようです。
本日発表されたのは第一世代となるMozaic 3+。認定作業を3月までに終了させて量産ということで、今回は製品発表会ではありません。すでにMozaic 3+のサンプル出荷が行われていますが、具体的な製品は後日発表される予定です。
プラットフォームで登場。記録盤と読み書きヘッドのペア開発がポイント
今回技術概要を説明してくれたSeagate Researchの副社長 Ed Gage氏によると、まず登場するのがMozaic 3+。Mozaic 3+と言っても第三世代という意味ではなく、一枚の記録盤(プラッタ)に3TB超のデータが記録できるという意味です。今後のロードマップとしてMozaic 4+/5+という名前も出てきました。
Mosaic 3+の主な新規構成要素は3つあります。まず一つ目は記録盤そのもの。従来は鉄コバルトニッケルをベースとした記録膜でしたが、高密度化には耐えられないという事で鉄-白金の超格子に変更されました。
磁気記録膜を加熱するのがプラズマ。赤外線レーザーダイオードで励起されたquantum antennaが記録膜を2nsだけ加熱状態にしてその間に書き込むとのこと。HDDの記録盤には潤滑剤が塗ってあるので熱で問題にならないのか?と聞いたところ、加熱状態になるのは2nmだけなので問題ないとのこと。
また、光の波長よりも小さいエリア(記録長は8-9nm、トラック間は25-30nm)なのでどうするのかと思っていたのですが、ターゲットにレーザーを当てて励起して発生したプラズマを使うとのことでした。
記録された磁気データは第七世代のリーダー(特に説明がなかったのですがTMRでしょう)で読み出し、これらの制御を12nmプロセスで作られた新型のコントローラーで制御するというのがMozaicプラットフォームの概要になります。
今回説明のあった「新型ドライブ」は、この記録盤を3.5インチ筐体に10枚収めることによって30TBの容量を実現します。従来のPMR記録では26TB程度が限界でしたが、Gage氏によれば「(1プラッタあたり)3TBは始まりに過ぎない」とのこと。
現時点で1.74Tbit/平方インチの記録密度を達成しており、さらにプラッタあたり4TBや5TBの技術も試験段階にあり、研究レベルでは8 / 10TBの開発も行われていると述べていました。現在の数倍の容量がすでに視野に入っていることが示唆されています。
Ed氏によると「この技術がブレークスルーになって成功した」というものは特になく、トータルで開発したので時間がかかったとのこと。良質な記録膜を作るための温度制御だけでなく、その膜に記録するための設計、読み出し素子と全部揃わなければいけなかったと語っていました。
容量当たりの消費電力を40%削減
開発の背景に関しては日本シーゲイト 代表取締役社長の新妻太氏が説明。データの爆発と言われるようになったのは少々昔の話ですが、2022年から2025年にかけてデータ生成量は2倍になり、年間30ZBのデータが作られる一方、ストレージ業界全体では年間2ZBしか作られていない事を紹介。特にHDDの容量増はここ数年鈍化していました。
AI製品化の加速でデータの蓄積は新たな収益機会を生む一方、新たなデータセンターを作るための予算や電力増大、そしてデータセンターを建設する事や運用で生じる炭素排出量の増加などの問題もあります。
現在、クラウドストレージで使用されているHDDの平均的な容量は16TBであり、これが今回の30TBに置き換わるとほぼ二倍の容量を実現し、同じラック数でも保管できるデータが倍増します。一方で、ドライブ一台の消費電力はあまり変わらないため、テラバイト当たりの消費電力が40%改善。しかもMozaicは今回登場したばかりでまだまだ発展の余地があると言います。
「PMRでは容量を二倍にするのに9年かかったが、Mozaicプラットフォームは4年以内に2倍になる」と新技術の優位性を語るとともに、「現時点でもクラウドストレージの90%の容量はHDD。NAND Flashメモリとの容量当たりの価格差は当面1:5で推移する」とも語り、HDDはまだまだ続いていくとアピールしていました。

マイナビニュース

「記録」をもっと詳しく

「記録」のニュース

「記録」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ