大河原克行のNewsInsight 第350回 テレビ事業売却の覚悟もある、パナソニックが全事業再編の方針示す
2025年2月4日(火)23時57分 マイナビニュース
パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、グループ経営改革について発表。テレビ事業をはじめとする4つの「課題事業」と、家電事業をはじめとする3つの「再建事業(事業立地見極め事業)」を、2025年度中に方向づけを行う考えを明らかにした。
売却を決めたわけではないが、聖域なく改革する
ここでは、課題事業のひとつにあげたテレビ事業について、「パナソニックグループを高収益事業の塊にしていくには、事業のやり方を変えなくてはならない。私自身、テレビ事業に携わってきた経緯があり、センチメンタルなところもあるが、テレビ事業を売却する覚悟はある。売却を決めたわけではないが、パナソニックのテレビ事業の売却を受けてくれる企業もない」と語る。パソナニックのブランドを支えてきたテレビ事業に対しても、聖域なく、改革の対象とする姿勢をみせた。
また、家電事業などを担当するパナソニック株式会社を、2025年度中に発展的に解消し、傘下の分社を事業会社化。空質空調社とコールドチェーンソリューションズ社を、ひとつの事業会社として再編することも発表した。パナソニック株式会社の名称を残すかどうかについては、「まだ議論ができていない。具体的なことはこれから決める」とした。
楠見グループCEOは、「2025年度は、本来ならば、次期中期計画の初年度となるが、経営改革に集中し、構造的課題、本質的課題を解決し、基盤を固める年にする」と位置づけ、「今回の経営改革は、パナソニックグループが、10年後、20年後、さらにはその先の未来においても、より良いくらしと社会へのお役立ちを果たすために、自らを抜本的に変える経営改革が必要であると判断したためである」と語った。
事業会社主導で構造改革、実際にやってみて反省がある
2026年度には、2024年度比で1500億円の収益改善を見込むほか、車載電池やBlue Yonderなどの先行投資領域での収益改善と合わせて、さらに1500億円の改善を見込む。2028年度には、グループ全体の調整後営業利益で3000億円の改善を目指す。
また、2028年度にはROEで10%、調整後営業利益率で10%以上とすることを、新たな経営指標に掲げた。
楠見グループCEOは、「私自身が責任を持ってこの経営改革をリードする。今度こそ、ROE10%を必達し、調整後営業利益10%を目指していく。経営改革をやり切り、経営基盤を作り変え、企業価値向上を加速することが私の責務であると認識している。パナソニックグループが、グローバルで競争力の高い事業の集合体になり、収益性で資本市場の期待に応えるだけでなく、社会やお客様と共に持続的に発展できるようなグループになることを約束する」と、力強く宣言した。
パナソニックグループは、2024年度を最終年度とする中期計画において、3年間の累積営業キャッシュフロー2兆円、累積営業利益1兆5000億円、ROE10%以上という目標を打ち出したものの、達成したのは累積営業キャッシュフローだけである。
「固定費構造、競争力強化、重点投資領域の3つの取り組みが起因となって、各事業の競争力と収益性、間接コストで課題を残した。これを重く受け止めている。この中期計画は、事業会社制で挑んだが、そこで明らかになった課題があり、これを克服するためにも、事業競争力の発揮を阻む組織構造やコスト構造を、抜本的に再構築する必要がある」とし、「個別最適からグループ全体最適へのリソースの集約を進める。グループの経営資源を、お客様の価値創造へ集中し、将来にわたってお役立ちを続けられる企業構造へ転換していく」と述べた。
楠見グループCEO体制になって以降、パナソニックグループでは、2022年度までの2年間、事業会社主導で構造改革に取り組んできた経緯がある。
楠見グループCEOは、「自分で事業会社を担当していたときには、事業の現場に関与しない本社から指示が来ることに対して、『放っておいてくれ』という感覚があった。そこで思い切って事業会社に任せてみようと考え、意図的に遠心力を利かせた。だが、実際にやってみると、数字で結果が残せなかった点ではガバナンスが利かなかったという反省がある」と振り返った。
課題の起因は「固定費構造」「競争力強化」「重点投資領域」
今回のグループ経営改革は、課題の起因とした固定費構造、競争力強化、重点投資領域の観点からメスを入れる考えを示す。
固定費構造では、パナソニックホールディングスや各事業会社を対象にコストを大幅に削減。間接部門や販売部門を中心に業務プロセスを抜本的に見直し、正味付加価値につながらない業務は廃止。生成AIの活用やDXの徹底により、生産性を大幅に高めるという。また、製造部門や物流部門、販売拠点では、統廃合により、効率化を図ることも明らかにした。これは2025年度に方向付けを行い、2026年度までに完了させる。さらに、2025年度中には、本社および間接部門の人員の徹底最適化を進め、雇用構造改革も推進するという。
「様々な経緯で積み重なり、硬直した固定費にメスを入れ、グループが将来に渡って、お役立ちを果たし続けるための固定費水準に戻す。グループ全体で雇用構造改革を実施し、リーンな体質を実現し、グループ全体の固定費構造を大きく変えることになる。必要な組織や人員を、ゼロベースで検討し、スリム化する」と説明した。
雇用構造改革の規模については今後検討していくが、2025年度中には早期退職者を募集するという。
2つめの競争力強化では、成長が見通せない低ROIC(投資資本利益率)の課題事業や、競合に劣後し、競争力の挽回に目途が立たない事業、事業立地が悪い事業については、再建の可否を見極めて、再建が見通せない事業については、撤退やベストオーナーへの事業承継の方向付けと整理を加速するという。
3つめの重点投資領域では、中期計画においては、車載電池、空質空調、SCMソフトウェアの3つを掲げていたが、これらを見直し、今後はソリューションを注力すべき領域にする。今後、重点投資領域という言葉はなくなる。
低収益事業の見極めを加速、2026年度までに整理を完了する
一方、2025年度の取り組みでは、低収益事業の見極めを加速することをあげた。
パナソニックグループでは、成長が見通せず、ROICがWACC(加重平均資本コスト)を下回る事業を「課題事業」と定義しており、現時点では、産業デバイス事業、メカトロニクス事業、キッチンアライアンス事業、テレビ事業の4つの事業が該当する。売上高合計では約9000億円の規模になる。
「これらの事業については、商品や地域からの撤退や、ベストオーナーへの事業承継を含む抜本的な対策を講じ、2026年度末までには課題事業を一掃する」とした。
また、事業競争力や立地に課題があり、「再建」あるいは「見極め」が必要な事業として、空質空調事業、家電事業、ハウジングソリューション事業をあげ、売上高合計で約2兆4000億円の規模に達するという。
空質空調事業は、事業環境が大きく変化した欧州のA2W(Air to Water)のみならず、既存事業も低収益となっていることを指摘。「競合メーカーが、高収益、高成長している。これは当社のやり方が劣っていたということである。再構築を図ることになる」とした。
家電事業については、「海外のみならず、国内でも競争が激化し、相対的に競争力が低下傾向にある。収益基盤に転じるには徹底的な再建が大前提となる」と語った。
ハウジングソリューション事業は、「低迷する国内新築市場への依存から早期に脱却し、国内はリフォームと非住宅にシフトするとともに、海外市場への転地を急ぐ必要がある」と述べた。
楠見グループCEOは、「4つの課題事業と、再建あるいは事業立地の見極めが必要な3つの事業については、2025年度中に方向づけを行い、2026年度までに整理を完了する」とした。
家電事業の再建に"大なた"、ジャパンクオリティをチャイナコストで
とくに、大なたを振ることになるのが家電事業の再建である。
事業構造および体制を抜本的に見直す考えを示し、グループに分散する白物および黒物の家電事業を集約して事業会社化し、専鋭化を進めることで、家電市場に集中して向きあう体制を整える。また、国内の間接部門については、業務効率化やスリム化を実施。日中連携により、量産開発を中国にシフトし、日本の量産開発リソースの適正化を進める。
さらに、国内マーケティングについては、付加価値生産性という観点で見直しを行い、競争力が高く、今後のD2Cの拡大に合わせた体制へと変革させる。海外マーケティング部門は、家電各事業の製販連結での収益向上の観点で、各地域の商品ポートフォリオを見直し、必要な改革を進めるという。
楠見グループCEOは、「家電事業はパナソニックグループにとって大事な事業である。そのためにも高収益にしなくてはいけない。必要ならば大なたを振る必要がある」とし、「家電事業の再建については、中国で磨いてきた技術力と設計力を活かして、ジャパンクオリティを、世界で戦えるグローバル標準コストやチャイナコストで実現し、収益力を高める。また、開発、製造、販売のそれぞれのリソースで適正化を図り、拠点集約やスリム化などの構造改革を進める」と語った。
ソリューション領域の成長推進で、グループ全体の成長加速
一方で、ソリューション領域においては、成長戦略を推進する。
楠見グループCEOは、「ソリューション領域には、グローバルトップシェアに入る競争力が高い事業が数多く存在する。なかでも、、エネルギーソリューションとSCMソリューションの共通のお客様に対して、ワンストップで向き合い、お客様の求める価値を創出し、提供することで成長を図ることができる」と述べた。
ここでは、シナジーの創出に向けた新たな取り組みがベースになる。
家電事業を担当するパナソニックが、5つの分社を傘下に置き、シナジーを狙ったが、くらし事業の範囲だけでは顧客課題に向き合うことが難しくなっていたことを指摘。「パナソニック傘下のエレクトリックワークス社と、パナソニックコネクトの現場ソリューション事業が連携し、顧客起点での提案が進んでいる。また、パソナニック傘下のコールドチェーンソリューションズ社の米国ハスマンと、パナソニックコネクトのBlue Yonderでは、食品小売業の共通の顧客を対象に、フードサプライチェーンの視点での新たな価値創出に期待できる」とし、「今後は、ソリューション領域に注力し、そこでのグループシナジーを発揮していく。そのためには、くらし事業の範囲を超えた顧客課題や社会課題に、グループ全体で向き合う体制に変える必要がある。この課題に対応する取り組みのひとつとして、2025年度中にパナソニック株式会社を発展的解消し、傘下にあった分社を事業会社化することになる」と述べた。
ソリューション領域のシナジー創出を進め、グループ全体最適視点をこれまで以上に持ちながら、自主責任経営を徹底。グループの成長加速につなげるという。
新しいパナソニックは、ソリューション、デバイス、スマートライフの3領域
今回のグループ経営改革によって実現するパナソニックグループの姿についても示した。
楠見グループCEOは、「これまでは、『くらし』と『環境』という、2つのお役立ちの領域を示してきたが、事業の領域と、領域ごとに期待する役割を示していなかった」と前置きし、「今回、ソリューション、デバイス、スマートライフの3つの領域を定め、それぞれにおいて、注力分野と収益基盤に関する役割を設定した」という。だが、「これは、今後の組織のくくりを示すものではない」とも述べた。
なかでも、注力領域としたのが、先にも触れたソリューションである。
「グローバルで競争力を持つ強い事業を基軸に、多様なお客様との接点をつなぎ合わせて、グループ全体でシナジーを出しながら成長させていく。パナソニックグループには、ソフトウェア以外にも様々なソリューションがあるが、とくに、エネルギーとSCMのソリューションで成長を目指す。それぞれの事業で2桁の調整後営業利益率を目指す」とした。
また、グループを支える収益領域と位置づけるのがデバイスと、家電を中心としたスマートライフである。課題事業への打ち手と、家電事業の再建によって、デバイスでは調整後営業利益率で15%以上、スマートライフでは10%以上の水準を目指すという。
楠見グループCEOは、「これら3つの領域で、地球上の限りある資源やエネルギーを無駄なく活用する社会、そしてより豊かなくらしを、技術で支えお客様とともに持続的な発展を目指していく」と述べた。
なお、今回の経営改革において、一貫した判断を正しく行うために、「経営改革の五原則」を定めたという。
「パナソニックグループが、将来にわたって社会の公器として、お客様へのお役立ちを果たすため、持続可能な確固たる経営基盤に作り直すことを目的とする」、「長期持続的な企業価値向上に関わるステークホルダー全体の利益に資するものとする」、「稼ぐ力を最大化するため、聖域なき構造改革と事業ポートフォリオ改革を完遂する」、「経営改革に伴って、グループ内外で新しい挑戦を選択する従業員の将来に最大限に寄り添い、支援を行う」、「改革で高めた収益力をもとに、持続的に収益を生み成長する事業群と組織能力群の強化、獲得へ投資する」である。
楠見グループCEOは、「この五原則に従って、パナソニックグループ全体で改革を完遂する」と述べた。
パナソニックグループでは、5月に新たな事業方針を発表することが多いが、「今回の構造改革は、より早く進める必要があるという観点とともに、社内に閉じた範囲でコソコソやるのではなく、やることを広く公表し、多くのメンバーを巻き込んで推進する狙いがある」と説明した。
パナソニックという看板といえる名称を持つ事業会社を発展的に解消する決定をしたこと、テレビ事業も聖域なく改革の対象としていること、そして、成長戦略を描くはずの2025年度からの中期計画の策定を取りやめ、2025年度を経営改革に集中し、基盤固めの1年とし、改革をやり切ることを宣言した点にも、楠見グループCEOの覚悟が感じられる。
楠見グループCEOは、「パナソニックグループは、30年間に渡り、成長していない。一時的によくなっても、すぐに棄損する。5%の利益率に達すると、今度は販管費率があがっていくことの繰り返しであり、すぐに利益が下がる。また、なにか新しいことをやろうとすると、人を増やすという手段にばかり出ていた。2人でできる仕事を5人でやっているのでは、社会からお預かりした人を生かしているということにはならず、成長にもつながらない。これでは従業員にとって、誇りを持てる会社とはいえない。資本市場からの目も厳しくなる。私が責任をとって社長を辞めようにも辞めきれない状態だ。いまこそ、手を打って、私の世代で変え切ろうという決意である」とする。
昨年から、パナソニックグループを、「危機的状況」と表現したきた楠見グループCEOが、改めて、本気になって改革に挑むことになる。
2024年度第3四半期の決算発表、生成AI関連は高成長を継続
一方、パナソニックホールディングスが発表した2024年度第3四半期(2024年4月〜12月)連結業績は、売上高が前年同期比1.6%増の6兆4038億円、営業利益は8.8%増の3483億円、調整後営業利益は12.0%増の3567億円、税引前利益は7.3%増の3956億円、当期純利益は27.8%減の2884億円となった。
パナソニックホールディングス 代表取締役 副社長執行役員 グループCFOの梅田博和氏は、「パナソニックオートモーティブシステムズの株式譲渡完了により、2024年12月から持分法適用会社となり、連結対象から除外した。これにより、売上高は減収となったが、これを除くと増収増益である」とし、「インダストリーとエナジーで、生成AI関連事業が好調であったのに加えて、くらし事業では、苦戦が続いていたA2W(エア・トゥ・ウォーター)が増収へ転換し、電材も好調に推移した。調整後営業利益では、オートモーティブの非連結化の影響はあったが、くらし事業、コネクト、インダストリー、エナジーが増益になっている」と総括した。
第3四半期(2024年10月〜12月)のセグメント別業績は、家電などを担当するくらし事業の売上高が前年同期比3%増の9186億円、調整後営業利益が88億円増の456億円となった。
くらし事業のうち、くらしアプライアンス社の売上高は前年同期比2%増の2366億円、調整後営業利益は29億円増の176億円。空質空調社の売上高は前年同期比16%増の2156億円、調整後営業利益は61億円増の55億円。コールドチェーンソリューションズ社の売上高は前年同期比1%減の1006億円、調整後営業利益は22億円減の27億円。エレクトリックワークス社の売上高は前年同期比5%増の2849億円、調整後営業利益は53億円増の274億円。なお、中国・北東アジア社の売上高は前年並みの1908億円、調整後営業利益は1億円減の81億円となっている。
オートモーティブの売上高は前年同期比39%減の2108億円、調整後営業利益が108億円減の82億円。コネクトの売上高は前年同期比9%増の3270億円、調整後営業利益は147億円増の227億円。インダストリーの売上高は前年同期比2%増の2717億円、調整後営業利益は29億円増の140億円。エナジーの売上高は前年同期比6%減の2149億円、調整後営業利益が120億円増の426億円となった。
一方、2024年度(2024年4月〜2025年3月)連結業績見通しでは、売上高を3000億円減額の前年比2.3%減の8兆3000億円へと前年割れへと下方修正した。営業利益は5.3%増の3800億円、調整後営業利益は15.4%増の4500億円、税引前利益は1.1%増の4300億円、当期純利益は30.2%減の3100億円と、いずれも据え置いた。
「オートモーティブの非連結化影響があったが、利益は据え置いた。セグメント別では、インダストリーとエナジーを上方修正した。生成AI関連が、第3四半期も好調に推移し、年間でも高成長が継続する見込みである」と述べた。