東奔西走キャッシュレス 第77回 電波が弱い……でもd払いは使えます!
2025年3月1日(土)6時30分 マイナビニュース
NTTドコモのスマホ決済サービス「d払い」が、通信の圏外でも決済ができる機能を搭載しました。すでにPayPayが「オフライン支払いモード」として提供している機能と同等のサービスです。
その提供の背景と機能について、ドコモの担当者に話を聞きました。
○PayPayとは違う? ネット未接続の支払い
今回、d払いで提供されるのは、「ネットワークに接続していなくても支払いが可能な機能」です。アプリの画面では「ネット未接続で支払い」と表示されますが、一言で表す機能名はないようです。
いずれにしても機能としては、圏外や通信が遅い場合などの理由で通常のd払いのQRコードが表示できない場合でも、未接続時用のコードを表示して決済が行えるという機能です。例えば地下で携帯電波が入りにくい店、通信障害時、通信が不安定なときなど、今までコード表示でエラーとなったりアプリが表示されなかったりした場合でも、決済ができるようになりました。
ネットワークの状態に応じてこの機能を利用するモードに自動的に切り替わり、「d払い」アプリ上にQRコードとdポイントのバーコードのみを表示するシンプルな画面になります。店舗側は、通常時と同じようにコードを読み取ることで決済が可能です。
大前提として、今回はスマートフォンでコードを表示して店舗側が読み取るCPM(利用者提示型)のコード決済のみの対応で、読み取る店舗側のPOSレジなどがオンラインであることが前提です。
店舗のネットワーク経由で読み取ったQRコードをドコモ側で検証し、決済を行う形になっています。これによって、画面キャプチャなどの不正なコードでの利用を防止しています。表示されるコードは短時間でリフレッシュされる仕様で、オンラインの場合よりも間隔を短くしているのもセキュリティのためだと言います。
決済で利用できるのは、d払いの支払い手段としてdカード/電話料金合算払い/d払い残高のいずれかを設定している場合です。通常ではdカード以外のクレジットカードを設定することも可能ですが、ネット未接続で支払いする場合には利用できません。
他の制限としては、24時間で5回、30日間では10回までしか利用できません。PayPayではこれが5回、20回とやや制限が緩くなっていますが、その代わり、PayPayは1回5万円までという制限があります。d払いではこの制限がなく、各支払い方法の限度額に依存します。例えばdカードなら1カ月につき50万円(本人確認済み)などとなります。
三浦氏は、この機能の提供を開始したばかりのため、まずは様子を見る観点から回数の制限を設けていると言います。未接続でもPOS経由でセキュリティチェックは行っているため、しばらく検証して問題がなく、ユーザーからのニーズがあるようであれば、回数制限は緩めることもできるとのことです。
実際、PayPayの「オフライン支払いモード」も当初は「1回5,000円まで」「24時間で1万円まで」「30日間で5万円まで」という制限があり、決済回数も「24時間で2回」「30日間で10回」という上限を設けていました。これが金額は「1回5万円」となり、決済回数は「24時間で5回」「30日間で20回」へと緩和されました。
d払いでは、PayPayにある金額上限がない点も相違点です。POS経由でのセキュリティチェックがあるため、通常時と同様に決済ができるという判断のようです。
利用に設定などは必要ありません。通信に問題がある場合、一定の閾値によって通常モードから未接続時の支払いモードに切り替わるため、単純に圏外のケースだけでなく、「通信が不安定で表示が遅い」といった場合にもネット未接続と判定されるそうです。
PayPayと同様に、決済をしても決済音は鳴りません。dポイントのバーコードも表示されるため、dポイントを貯めることはできます。現状、dポイントを使うことはできませんが、これも今後dポイントを使った支払いも検討していくそうです。
○ドコモの通信問題の影響は?
d払いではこれまでもアプリの起動速度やログアウト問題などの問題を解決しながらユーザー体験の向上を図ってきたと三浦氏。ネット未接続での支払いの機能を提供したのも背景は同じで、ユーザー体験向上を目指す取り組みの一環として、コード決済の弱点であるネットワーク必須という状況の改善を図りました。
「地下や混雑時など、電波状況が悪い場所でd払いが利用できないという顧客からのフィードバックが以前から寄せられていた」と三浦氏。通信障害だけでなく、大規模イベントのような場合にも使えなくなる例はありました。特に災害時に利用できなかったという声はきっかけになっていたそうです。
永野氏も、通信障害で使えないという声があったこともあり、これまでも「決済までの時間を0.1秒でも速くしたい」として開発を続けてきたと言います。通信環境に左右されず、「インフラとして常に使える状態でなければならない」というスタンスで開発しているため、今回の機能も盛り込んだと永野氏は説明します。
ここ最近、ドコモのネットワークに関する問題点が多く指摘されています。それがまったく無関係というわけでもないでしょうが、どの回線でも、混雑時にコードの表示が遅くなるという場合はあります。そういった場合でも素早く決済できるというのはメリットでしょう。
ドコモは、通信品質改善のためにも「d払い」アプリを活用しています。「d払い」アプリでコードが表示されるまでの時間を計測して、その場所の通信品質を可視化するというものですが、そもそも圏外だったり通信が成立しなかったりした場合、その場所の通信品質は計測できません。ドコモ側にとっては、通信品質が悪かったからd払いが使われなかったのか、そもそもd払いが使われなかったのか、分からなかったわけです。
今回、ネット未接続時でも支払いが可能になったことで、ドコモは「ネットが未接続になっている場所」というデータを得られることになります。今回の施策には、これを活用してネットワーク改善に取り組むことも可能になるというメリットもあるそうです。
○d払いタッチも併用してより快適な決済を
d払いには、通常のコード決済に加えて、「d払いタッチ」もあります。これは「d払い」アプリからバーチャルカードを発行してスマートフォンに登録しておき、タッチ決済での支払いを可能とする機能です。
d払いタッチは他のiD決済と同様に動作するので、コードの表示などは不要。決済時にネット接続も必要ありません。d払いタッチ自体は、ネット未接続時の支払いを意図したものではないそうですが、あらかじめ準備している人でiDが使える店舗であれば、こちらを使ってもネット接続不要で決済ができます。
とはいえ、d払いタッチが使えない店舗もありますし、d払いしか利用していない人もいるでしょう。そうした場合においても、ネット未接続でd払いが使えるようになるのが今回の機能です。これらを組み合わせることで、さらにユーザー体験を向上させたいというのがドコモの狙いです。
三浦氏によれば、今回の機能は「当初想定した程度には使われている」状況とのこと。ただ、「まだ機能は少ない」と認めており、今後さらなる機能追加を検討していると言います。d払いではdカード/d払い残高/電話料金合算がほとんどで、他社カードの利用は少ないそうですが、他社カードでも使えるように検討していくほか、機能向上を図っていきたい考えです。
ちなみに、PayPayでは「オフライン支払いモード」という明確な名称がありますが、d払いでは「オフライン」という表現をしていません。これは、そもそもPOS側がオンラインでチェックしているため、厳密にはオフラインではないから、という説明でした。つまり、イオンカード問題でもあったオフライン取引とは異なるため、誤解を招かないようにするという意図があるようです。
小山安博 こやまやすひろ マイナビニュースの編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。最近は決済に関する取材に力を入れる。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、PC、スマートフォン……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 この著者の記事一覧はこちら