名大などが細胞と共生可能な「センダイウイルス」を発見、生態解明に貢献

2024年4月3日(水)17時36分 マイナビニュース

名古屋大学(名大)と広島大学は4月2日、細胞と長期間共生できる変異した「センダイウイルス」(モノネガウイルス目レスピロウイルス属パラミクソウイルス科のRNAウイルス)を見出したことを共同で発表した。
同成果は、名大大学院 創薬科学研究科 細胞薬効解析学分野の岩田萌大学院生、同・小坂田文隆准教授、広島大大学院 医系科学研究科 ウイルス学研究室の入江崇准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ウイルスに関する全般を扱う学術誌「Frontiers in Virology」に掲載された。
ヘルペスウイルスのように、一部のウイルスは持続感染性を有し、感染した個体の免疫によって排除されることなく、長期にわたって感染が維持されることが知られている(ヒトヘルペスウイルスの場合は、知覚神経節の神経細胞核中に遺伝子の形で潜伏し、宿主の免疫力が低下すると増殖して発症する)。
一方、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどを含む数多くの急性感染性ウイルスでは、感染は持続せず、感染個体は死滅するか宿主の免疫により排除される。ただし急性感染性ウイルスであっても、培養細胞や感染個体で持続感染する場合も確認されていた。たとえば、構造タンパク質の欠損や温度感受性変異により自立増殖能は喪失しているものの、長期に感染が持続する場合があり、麻疹ウイルス感染は亜急性硬化性全脳炎の原因となると考えられている。
しかし、急性感染性ウイルスにおける持続感染性獲得メカニズムの詳細や意義などについてはほとんどわかっていないという。そこで研究チームは今回、げっ歯類の急性呼吸器病ウイルスであるセンダイウイルスをモデルに、これまでに報告のない生体温度で自立増殖可能なセンダイウイルスが自然発生し得るのかを検証することにしたという。
一般にセンダイウイルスなどのRNAウイルスは、ウイルス複製時に変異が発生しやすい性質を持つ。遺伝的な多様性の低いセンダイウイルス材料による感染では、これまで持続感染は観察されていなかった。しかし、センダイウイルス増殖に適したニワトリの胚性鶏卵を用いてウイルスの継代が繰り返され、遺伝的な多様性の高いウイルス材料が調製され、その材料の細胞への感染が行われたところ、ウイルス感染が持続する持続感染細胞の樹立に成功したという。
この持続感染細胞から単離されたウイルスのゲノムが解析されたところ、4〜5か所の変異が同定されたとした。これら変異を有する組換えセンダイウイルス(「Zpi株」および「Zpi2株」)は、さまざまな動物培養細胞に対する持続感染性を示し、ウイルスゲノム上の4〜5個の変異が持続感染性の獲得に十分であることが明らかにされたとした。
この変異ウイルスは、従来報告されているものとは異なり、生体温度(37℃)で自立増殖し感染を拡大させる能力を保持していたという。また、これまでのセンダイウイルスの研究では、「コピーバック型欠陥干渉(cbDI)ゲノム」や、「温度感受性変異」の獲得により、持続感染が成立することが報告されていた。しかし、今回の研究で獲得された持続感染性センダイウイルスは、cbDIゲノムや、温度感受性メカニズムとは異なる感染状態で持続感染を成立することが示されたとした。
これらの結果は、急性感染性のセンダイウイルスの感染において、ウイルス複製中に生じる偶発的な変異により持続感染性センダイウイルスが自然発生し、もとの急性感染性ウイルスを駆逐しながら感染を拡大させ、持続的に維持される可能性が示されているとする。
今回の研究成果は、さまざまなモノネガウイルスの持続感染メカニズムに対する理解に新しい展開をもたらすものだという。また、遺伝的多様性を高めたセンダイウイルス材料を用いた実験では、比較的少数の変異により偶発的に生じた持続感染性センダイウイルスがもとの野生型ウイルスを駆逐して置き換わり、優位に増殖したことがわかっている。そのことから、自然界における急性感染性ウイルスの長期維持機構の解明につながることが期待されるとした。さらに、得られた新規持続感染性センダイウイルスは、低毒性かつ生体温度(37℃)で増殖能が高いことから、遺伝子を持続的に発現可能な新規ウイルスベクター開発への応用が期待されるとしている。

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