群大など、ホタルの生物発光メカニズムの完全解明に向けて一歩前進

2024年4月15日(月)20時1分 マイナビニュース

群馬大学(群大)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、分子科学研究所(分子研)、総合研究大学院大学(総研大)、静岡大学の5者は4月12日、炭素原子のX線吸収の計測および理論計算による分析を通じて、ホタル生物発光の発光色に大きく関わる「ホタルルシフェリン」(以下、「ルシフェリン」と省略)のフェノール性水酸基からの脱プロトン化がpHの変化により生じる様子を明らかにすることに成功したと共同で発表した。
同成果は、群大大学院 理工学府の工藤優斗大学院生、同・樋山みやび准教授、同・板橋英之教授、KEK 物質構造科学研究所の熊木文俊博士研究員、同・足立純一講師、分子研の長坂将成助教(総研大兼任)、静岡大の野口良史准教授、名古屋大学の古賀伸明名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する分子・イオン・ラジカルなどに関する全般を扱う学術誌「The Journal of Physical Chemistry A」に掲載された。
ホタルの生物発光は、実はまだ完全解明には至っていない。基本的には、基質であるルシフェリンと「ルシフェラーゼ酵素」とのルシフェリン-ルシフェラーゼ反応による発光であることはわかっている。同反応の経路としては、まずルシフェリンと、細胞内のエネルギーの通貨と呼ばれる「アデノシン三リン酸」(ATP)が、中間体である「ルシフェリル-AMP」を生成。次いで、酸化反応により発光体である「ホタルオキシルシフェリン」の励起状態が生成されるモデルが認められている。しかし同モデルでは、pH(水素イオン指数)や温度などの環境の違いによって、発光色が異なるという理由を説明できないことが課題だった。
その課題を解決するには、酵素や溶媒の存在下で発光反応途中の構造変化を調べる必要があるという。しかし、この環境を考慮した分子構造の変化は実験的に捉えることが難しく、発光色が決まる分子的なレベルでのメカニズムは依然として解明できていなかった。そこで研究チームは今回、溶媒のpH変化によってルシフェリンからプロトン(陽子=水素イオン)が脱離する時に起こる分子構造の変化を、「炭素原子X線吸収スペクトル」の変化として捉えることを目指すことにしたとする。
プロトンの離脱は、環境の変化でルシフェリンが示す構造変化のモデルケースだという。今回の研究では、分子構造の変化を捉える方法として、物質の特定原子周辺の化学状態を観測できるX線吸収計測、中でも有機分子の基礎となる炭素原子の内殻励起を利用する、炭素原子X線吸収計測が着目された。
従来、溶媒中の有機分子を構成する炭素原子のX線吸収計測は技術的に困難だったとする。そこで今回は、分子研の長坂助教が開発した厚さ可変の溶液セルシステムを用いることにより、その計測を実現したという。さらに、pHごとに得られたX線吸収スペクトルピークが、どの炭素の励起状態に対応するのかを調べるため、プロトン離脱前後のルシフェリンについて、量子化学計算により溶媒を考慮した上で電子状態が計算された。計測と量子化学計算を組み合わせることにより、脱プロトン化を反映する炭素原子X線吸収スペクトルの特徴を特定することができたという。
今回の研究により、pH変化に伴い、ルシフェリンが示す構造変化を炭素原子X線吸収スペクトルの変化として捉えることが可能なこととして実証された。なお、炭素原子X線吸収計測は、KEK フォトンファクトリーにて行われた。
このように、炭素や窒素、酸素原子などのエネルギーの低い領域の時間分解X線吸収計測が確立されつつある。その一方で、光照射によりルシフェリンを生成するケージドルシフェリンの開発が進み、同化合物を用いて、ホタル生物発光を時間的・空間的に制御することが可能になってきたという。今回の研究により、pH変化にともないルシフェリンが示す構造変化を炭素原子X線吸収スペクトルの変化として捉えることが可能であると実証されたことで、ケージドルシフェリンを用いた時間分解X線吸収計測などにより、長年の謎であるホタルの発光メカニズムを元素選択的な新しい視点で明らかにする道が拓かれたとした。
ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応は、生体内のガン細胞や薬剤の移動経路を調べるための画像解析(医学、薬学、神経科学)・遺伝子解析(遺伝子学)・微生物検査(環境学)などに利用されているため、標識材料として新たなルシフェリン類似体や酵素の変異体の開発が進んでいるという。「発光現象の不思議」という視点での発光メカニズム解明の基礎研究は、生体計測における技術開発への貢献へとつながっているとした。

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